第11話 ひみつ

実は、ナナは子供が1人いるシングルマザーでフリーだが、付き合っている彼氏は子供がいる既婚者だった。


ユウは、子供はいないが結婚していて、今はしていないが奥さんがいる人と以前に関係を持った。しかも仲間内。

なんなら奥さんも仲間。


アイコさんは、私の上司とダブル不倫をしている。←まぁ、もはやこれはもう、どうでもいいが。


身近にこんなにも不倫が溢れている。


世の中のニュースも、いつも不倫で溢れかえっている。



ナナのお相手は、夫婦関係は破綻していて、離婚をしていない状態だった。

(だからといって肯定するわけではない)


ユウの相手だった人は、昔からの仲間内で、

今こそその仲間内の1人と結婚したのだが、

結婚する前はユウとそういう関係だった。

なぜその相手が他の人を選んだのかはわからないが、ちゃんと別れたわけではないので、

今でもお互い好き同士。不倫はしてないが、お互いが想い合っているのはわかる。


どの不倫も、もちろん肯定はできないけれど、

いろんな事情を知っていると、一概に否定もできないものだ。(アイコさんは除く)

これは友達だから、でもなく、きっとあかの他人でも言える事だろう。


実際に私も、元旦那に最終的に不倫を許可した。(結局、許可する前は不倫してたくせに、許可後の不倫はなかったけれど(たぶん))


不倫て最低。

だけど、中身を知ると、最低だけではないものだってある。ただ単に否定、肯定しているわけではない。

大切な友達であるユウとナナにも、ダメなものはダメと、ちゃんと整理しなきゃいけないという話もしていた。


最低というのは、アイコさんの様に、人のものを欲しがる→手に入ると飽きる、

こういう人は最低だ。


なんだか話がややこしくなってしまったが、

みんなそれぞれにひみつを抱えている。




私も、大したひみつでもなく、隠すことでもないが、

ヒロと会っている事は誰にも話していない。

ヒロの事は、ユウとナナには話そうとしているが、

なぜが私が照れてしまってまだ話せてない。

あとは、ママには絶対に話せないし、

バレてはいけない。

やっと最近、ママの私に対する態度も優しくなってきた。

私が稼ぐからだ。

『綺麗な若い子よりもイモっぽい子の方が親近感わくのかもねぇ』

なんて、相変わらず嫌味だと思うが、

テッペン取ったると思ったあの5月から3ヶ月。

私は確実に今、No.1のユミと並んでいる。

自分でも理由はわかる。

ユミより、会話ができる(年の功)

ユミより、酒が飲める(酒を飲む女の方がこの場ではモテる)

ユミより、素朴(笑)

ただ綺麗に澄ましているだけの周りの目が気になる時代はもう通り越した30代の魅力だと思っている。


子供たちのクラブチームでの遠征にお金がかかり、私はスナックでの仕事を増やしていた。

それが売上を作れる要因でもあると思うが、

確実に人気が出てきているのは自分でもわかる。

元々のお調子者のキャラクターは、万人受けする事を自覚していた。

だがお客様が増えていく毎に、身だけあって存在しない“ユキ”という人間が仕上がっていく。

ユキは独身で、やりたい事があってお金が貯めるのにスナックで働いている、という事にしているが、嘘をつくには苦しい場面もたくさんあった。

相手も酔っ払っているオジサンだからと適当にはぐらかそうとしても、ツッコミを入れてくるオジサンもいる。

人気が出てきたからといって、すべての人に受け入れられるわけでもない。

若い女の子が好きなオジサンには、私が席に付くとガッカリされる事も多々ある。

なんとか持ち前のキャラクターでかわした。

ママからは、適当に話を作ってごまかしていればいいと言われたが、私の性格上、なかなか難しかった。

人気というのはとても有り難い事だが、私にはとても苦しい事だった。

でも生活の為に、こうでもしなけりゃ生きていけない。




今だに私の状況を知っているお客様は松山さんしかいない。

ヒロにも…聞かれないからという理由で話していなかった。

ヒロとは、たまに私から連絡し、たまにヒロから連絡がきて、スナック終わりにドライブというカタチで会っていた。

この関係を説明するのであれば、友達?

特に男女の進展というものもなく、謎な関係だ。

私にとっては、スナックでボロボロになった後の癒やしの時間。

ヒロにとっては何なのだろう…

お互いの素性も、隠しているわけではないが、

特に話はしない。

なんとなーく私からは聞けなかった。



8月末。

川辺さんと2人でヒロがお店にやってきた。

『いらっしゃ〜い♡あー♡ヒロ〜♡川辺さん今日は2人で来たのー?珍しいねー!』

猫なで声を出しながらママが真っ先にテーブルに着く。

私もそこへ行きたくて、テーブルセットの準備をするフリをして席に着いた。

ヒロとの事はひみつなので、川辺さんや他のオジサンたちと同じように対応する。

もちろん、私たちの事は川辺さんも知らない。はず。

いつもの様にお酒を作って出すと

『ありがとうユキ』

ヒロが放った何気ない一言にママが反応する。

『あれ〜?なんでユキの名前知ってるの〜?』

マズイ。

バカ正直な私は反応できず、あからさまに目が泳いでしまった。

『あ、前にここに来た時もいましたよね?だからわかる。』

ヒロが冷静に返してくれた。

『そうそう!よく覚えてたね!ありがとう!』

私もビックリした感じで返したが、鋭いママは何か考えている様だった。

スナックの愚痴はこぼしたことなかったが、ヒロは何かを感じ取っているのだろう。

『ユキもういいよー。あっちのテーブル行ってきて!』

私はヒロから遠ざけられた。

ヒロが私の名前を呼んだのが気に食わなかったんだろう。

『ユキちゃんも一緒にここにいてよー』

と言う川辺さんを無視して、ママは私を別のテーブルへ行けと指示した。

想像通りに、私は川辺さんとヒロのテーブルへは行けず、最後の見送りすら出来なかった。


仕事が終わると、ヒロからのラインが来ていた。

『いつもの場所で待ってる』

私は急にテンションが上がって、疲れきっていた足も軽くなった。

急いで帰り支度をしようとするとママに呼び止められた。

『ユキさぁ、ヒロと何かあるの?』

頭が真っ白になってフリーズした。

やばい

やばい

やばい

今日は席にも着いてないからバレるはずがない。最初しか話してないんだから。

『2人してチラッチラ見て!目で追いかけてたの気づいてる?!バレバレだけど!ヒロなんてずっと見てたし!てかいつの間にかユキって呼んでるし!』

…え。

私そんなに見てた?

てか、ヒロも見てたのか。

それはママがそう思ったから、そう見えてただけなんじゃないか?とは言えなかった。

呼び捨てはマズかったな。

他の子は“さん”付けしてるのに、ユキはしくったぞヒロ〜。

何もありませんし、あるわけないですと言うと、

『そーやってイケメンばっかり手だして恥ずかしくないの?ユキに弄ばれてヒロが可哀想!相手がユキだなんて、ヒロなんて若いのに可哀想じゃん!』

それはママに対しても言いたかった。

猫なで声を出して若い子に言い寄るオバサン見ててイタイですよって。言ってやりたかった。


そんなに言われる様な事した?

手は出してないし、出されてもいない。

弄んでるつもりもない。

この人は何しても私が嫌いなんだな。

確かにひみつにはしてるけど、別に悪いことなんてしてない。

『本当に何もありません。隠さないといけない様な事も何もありません。お先に失礼します。』


ヒロが待ってるのに泣きそう。

ヒロに会ったら泣きそう。


この歳になっても、泣き虫は治らない。


遅くなってごめんねと車に乗り込む。

『コンタクトがズレて痛いー』

と、コンタクトなんてしてないくせに、涙をコンタクトのせいにしてごまかした。


夏も終わり頃の夜の風は生温い。

海の上の空には、綺麗な三日月が出ていた。

こんなにヒロに会えて嬉しいのに、私の気分はどうしても沈んでしまう。

どうしたの?と心配されると、余計に涙があふれ出してしまう。

ヒロは余計な事は話さないし聞かない。

興味がないのか、めんどくさいのか、気を使っているのか、わからない。




そうだよね。

私はヒロとは不釣り合いだ。

こんなにイケメンだし、若くて可愛い女の子の方がお似合いだ。

これからいい恋愛をして、結婚して、パパになって。





その相手は私じゃない。

私がいたら邪魔をしてしまう。

私といたら邪魔になってしまう。

ヒロの隣は私がいるべき場所じゃない。

わかってるんだよ。

わかってるのに、つらい。

わかってるくせに、隣にいたい。

今だけでもいい。

少しだけでいい。

何も望まないから

このままでいたい。

私、好きになってるんだ。

これは恋じゃないと言い聞かせて

私、恋をしているんだ。

気づかないふりをしていたんだ。

気づいたらつらいだけだから。



ヒロが音楽を変える。

YUKIの“鳴いてる怪獣”


『ねぇ。私、怪獣?』


『んー。珍獣かな。』


『ひどくない?』


『結構お年をめされているのに、可愛い珍獣』


『ねぇ。それは褒めてるの?貶してるの?どっちかにしてー』


『俺の可愛い珍獣』


頭をポンポンとされると、嬉しくてたまらなかった。

頭ポンポンて流行ったけど、頭ポンポンされただけでそんなにドキドキするか?って思ってたけど、した。

いくつ歳をとっても、こんなにもドキドキするんだって自分で驚く。


だが喜んでいる場合じゃない。



ダメ。


ヒロの未来を邪魔しちゃダメだ。


それに片思いなのに、これ以上ハマってはダメだ。


『ねぇ、これってアルバム?ひみつって曲入ってる?聴きたい!』


『あるよー。これって不倫の曲でしょ?』


『そーなの?そーかな?なんか聴きたい気分!』


『俺は不倫なんて絶対に嫌だけどね。』


『そーだね。不倫ってやだよね。地獄しか待ってないよね。』




ひみつにしなきゃいけないって、

なんだか不倫と一緒だな。


でもね、私、ひみつにしておくね。

心の中にしまっておくね。




三日月…

夜空が笑ってるみたいに見えるよ

っていう話

わかってくれて ありがとう

2人を写す記念写真は残らなくってもいい

今の君が好い

残らなくってもいい

今の君が好い












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る