第3話 終わりの始まり
離婚を告げたその時から、
旦那はベッドにこもっている。
もう、呆れるしかなかった。
朝は起きて仕事へ行く。
帰ってきて無言でベッドへ直行し、ご飯も食べない。
子供たちに声をかけることも無く、
呼んでも無反応。
もう、意味がわからなかった。
実は、こうなったのは初めてではない。
子供が生まれて初めての年末。
私も産後間もなかったし、年末年始は子供と一緒に過ごすもんだと思っていた。
なのに旦那は
『友達とスケボーしてくる』
と夜に出ていこうとした、
今からスケボー?!?!
大晦日ですけど!
それにいつもスケボーしに行ってるじゃん!
今日くらい家にいれないの?
と咎めると、ヘソを曲げてしまって布団にこもった。
そんな事あるぅ?!?!?!
ビックリじゃない?!
普段の生活を制限していたわけじゃない。
いつも遊びやら飲みにやら行ってるから、
今日くらいは家族で居てほしいって言っただけなのに。
更には家出をした事もある。
もう理由は忘れてしまったが、
くだらない喧嘩をした時、
私と子供を置いて連絡もつかず、一週間くらい全く帰ってこない事があった。
そんな人である。
しかも前科ありなので、浮気でもしてたんじゃないかなって疑ってた。
それでも、周りから見たらいい父親なのが悔しい。
そんなこんなで、決めた離婚からブレる事はなかった。
私がやってきたことは、全て自分が決めた事であって、後悔しても仕方がないので後悔はしない。そう思っていたのに。
後悔はしたくなかったのに…
これはもう後悔だ。
なーんでこんな人とずっと一緒に居たんだろう。
後悔と思ってしまった事がとても残念だった。
好きになったこと
好きだったこと
これは嘘ではない。
この子供たちに会えたのも旦那のおかげだ。
旦那がいなければ、この子たちには会えてない。理由はどうであれ。そこは感謝だ。
旦那に対する残念感だけが残り、
未練なんてこれっぽっちもなかった。
部屋にこもったからといって、私の恐怖が消えたわけではない。
この一週間で2回、夜中に私の元へやってきている。
何もされなかったが、
またやられるんじゃないか、
もしくは殺されてしまうんじゃないか、
本当に怖かった。
とにかく早くに居なくなってほしかった。
お義母さんからは、何でもっと早くに言ってくれなかったのかと言われたけど、
“あなたの息子に毎晩犯されます”
なんて言えない。
お義母さんはとても良くしてくれたので、理由を言ってショックを受けさせたくなかった。
お義父さんは、睾丸を取る手術をしろと…
もう、なんでそーなるんだよ。
去勢大好き一族かよ、と呆れた。
常にデリカシーの欠片もないこのお義父さんが
私は嫌いだった。
両家の話し合いも特にモメることも無く、
離婚まですんなり進んだ。
今住んでる家に私と子供たちが住み、旦那が出ていく事になった。
子供たちがこの家にいたいと言ったからだ。
子供たちが父親に会いたい時は会う。
父親が子供たちに会いたい時も会う。
制限はしない。
旦那名義の家を維持してもらう代わりに、養育費は貰わないが、子供たちに関わるお金は2人で出す。
という事になった。
子供たちには、パパとはもう一緒に住まないけど、パパはずっとパパだし、会いたい時に会いなさいと伝えた。
親権は私。
誰もパパの方へ行くとは言わなかった。
言ったところで、私は絶対に手放す気はなかったけど…
最後まで気持ちは全く変わらなかったが、
さすがにお別れの時は少しだけ泣けた。
今までありがとう。
サヨナラ。
サヨナラだけど、サヨナラから始まる事がたくさんある。
私には守らなきゃいけない子供がいる。
何があっても強く生きていくんだと誓った。
離婚してからというもの、
すっかり夜も眠れる様になり、明るさも取り戻せた気がする。
子供たちとも毎晩楽しく過ごし、休みの日もいろんな所へ連れて行った。
私は母親だけど父親。大丈夫。
毎週末に限らず、平日でも、
ユウとナナがよく家に来た。
差し入れ(私は救援物資と呼ぶ)を持ってきてくれたり、家の事を手伝ってくれたりした。
なんなら私が仕事から帰ってくる前にすでに家にいて、夕飯を作ってくれたりしていた。
『なんか梨花、明るくなったね!』
と、ユウもナナも喜んでくれた。
2人が相談に乗ってくれたり、助けてくれたおかげだ。
私は2人が居なかったら、いろいろな勇気も出ないままだっただろう。
ユウもナナも、私にたくさん協力してくれる。
ユウは結婚しているが子供はいない。
旦那とはよく喧嘩をしているので、そんな時はいつでもおいでと、うちによく来ていた。
ナナは1人の子供がいるシングルマザーだが、彼氏がいる。私の子供と同い年で、赤ちゃんの時からずっと仲良しなので、ナナが彼氏と会う時は、私が子供を預かる。
もうみんな家族の様なものだった。
離婚から1年が経とうとしていたある日、小学5年生の長男がお友達から、バレーボール教室に誘われて体験に行った。
小学3年生の長女、保育園児の次女も連れて行ったのだけれど、みんなバレーボールが楽しかった様で、通いたいと言われた。
月々の月謝は安かったが、チームのものを揃えるにも2人で何万もかかる。
遠征もあるし、金銭面は厳しい。
次女もやりたがったが、小学生からの入団となるので、保育園児の次女はまだ出来ない。
でもお金がないからといって、ダメとは言いたくない。
もう転職をするしかないのか?!
だがしかし、今パートで働いてる職場は主婦に優しい。
子供たちはすぐに熱を出す。
たいした熱でなくても、小学校や保育園からはすぐ迎えに来てくださいと電話がくる。
そんな時もすぐに早退させてもらえるし、参観日なども休ませてくれる。
他の会社だったら嫌な顔をされそうなくらい、子持ち主婦というものは、早退、欠勤が多くなってしまうのが現状。
とてもいい会社だ。
言い方は悪いが、とても都合がいい。
転職したら、きっとこうはいかないだろう。
居酒屋のバイトは、家に居たくなくて始めたので、安い時給だった事もあり、子供たちと一緒に居たかったので離婚と同時に辞めてしまった。
悩む。
悩むぞ。
今のままで習い事なんてとてもさせられる経済状況ではない。
離婚したばかりだったが、子供たちの事だったので、元旦那に連絡をしてみた。
すると、
『俺もお金ない』
の一言で終了した。
こんなにも早くに元旦那を頼ろうとした事が間違いだったと後悔した。また後悔した。
私が悩んでいると、ナナが
『知り合いの働いてるスナック募集してるけど…さすがにスナックは嫌だよね。時給めちゃくちゃいいんだけど…』
と教えてくれた。
『でも梨花はそーゆーの無理だよね。怪しい店じゃないんだけど、もし気が向いたら紹介するね!』
ナナはお見通しだ。
私にはきっと無理だ。
なぜなら、大のオジサン嫌いだからだ。
その昔、ユウとナナを含め仲間内で飲みに行った時の事。
仲間のチカが酔っ払って座り込んだ場所がヤクザ経営のスナックの店の前だった。
すぐにヤクザが出てきて怒鳴り散らし、チカを助けようと私は割って入った。
すると、ヤクザの手下の様なオジサンが出てきて、私にケリを入れたのだ。
酔もあって対抗する私に、オジサンは手加減をしなかった。
すぐさま仲間が呼んでくれた警察が駆け付け、事無きを得たけど、
私とチカは仲間から危ない事をするなと怒られた。
その時は平気だと思っていたけれど、
オジサンと大声がトラウマになったらしい。
今でも男の人の大声を聞くとビクビクしてしまう。
スナックのイメージは、ヤクザ経営でオジサンが来るところ
と勝手に思っていた。
でもいいかもしれない。
お酒も飲まなくていいとの事だった。
ニコニコお喋りしていて、時給は2000円。
居酒屋バイトの倍だった。
同じ時間で、倍のお給料をもらえるなら、
出勤も半分でいいんじゃないか?
そんな考えだった。
ユウは反対した。
『危ないよ!やめな!!』
私を心配してくれている。
そんな心配をよそに、私はお金に目が眩んでいた。
『体験だけ…してみようかな』
夜の世界とは無縁だった私が、
足を踏み入れた瞬間だった。
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