第2話 私の結婚生活


私は30歳の時に結婚10年目にして離婚した。

子供が3人いる。


なんで子供が3人もいて離婚したかって?

それは…


















愛されていなかったから。


気も合うし、仲は良かった。あれ以外は。


いい父親だった。あれ以外は。


夫婦だし、男だし、普通だと思っていた。あの時までは。


いつ、何でなのかは、今でもよくわからない…









20歳の時、デキ婚をした。


旦那はすでに、1人目の妊娠中から浮気していた。


なぜ知ったかというと、

相手の女性から聞いたのだ。

『妊娠してらっしゃるんですよね?私知らなくて…ごめんなさい。』

彼女はただ謝りたかっただけらしいが、

私はとても惨めだった。20歳の夏。


その晩に旦那を問い詰めると、

『俺だってストレスたまるんだよ』

との回答。

更に惨めだった。


その時はまだ入籍前で、結婚しないという選択肢もあった。

私は一人でも、この子は絶対に産む。

そうも考えていたけれど、

若かった事もあり、好きだったし、なんだかんだで結婚した。


じゃあなんで子供が3人もいるんだよ

って言われるけど、


2人目、3人目も、無理矢理されていつの間にか出来ていた。

結婚していたし、1人目の可愛い子供の顔を見ているので、産む以外の選択肢はなかった。


旦那は異常に性欲の強い人だった。

男なんて性欲の塊じゃんて思うかもしれないけど、本当に異常だった。


旦那を嫌いになれなかったのは、

普段は優しい。気も合うし、笑いのツボも一緒、子煩悩、家事育児も手伝ってくれる。

周りから見ても、幸せな家庭だったと思う。




3人目を産んですぐ、きっと生活の事もあったから、私たちを思っての事だと思うんだけど、旦那側の祖母から

『もう子供ができない様に手術しなさい』

と、お金を渡されそうになった事もあった。


え?去勢?


怒り、悲しみ、よくわからない感情にフリーズし、そのお金は受け取らなかった。

隣で聞いていた旦那は何も言わない。


なぜ自分の孫でなく、私にそんな事を言うのか、理解が出来なかった。


ほどなくして、旦那の妹が子供を産むと、

私の子供たちは旦那側の祖父・祖母から名前すら呼ばれなくなった。

『ほら、その子も…』

その子って…

内孫が可愛いのはわかる。

他人の女が産んだ子供より、自分の孫が産んだ子供の方が可愛いんだろうな…

わかってはいるけど、悲しいでは表せない感情だった。


家事育児、おまけに仕事もしていて、日々の私は疲れきっていて、全てのやるべき事が終わった深夜だけが、唯一の自分の時間だった。

といっても、自分の時間は睡眠に使いたいくらい疲れている。

そこに、毎晩のようにコッソリやってくる旦那だった。


私は性欲処理機ですか。


ムリ。

嫌だ。

と言っても、しつこく何度も起こされる。

こんな感じで、もう何年もちゃんと睡眠が取れていなかった。

家に帰りたくない…

でも子供たちを連れて、何処へ行けばいいのだろう…

実家はすぐ近くにあるけど…

“毎晩、旦那に犯される”

なんて、なかなか言いづらすぎる。

私だけであれば、友達の家に行くことはできたが、

さすがに子供を3人連れてとなると、それもまた気を使ってしまう。

子供は絶対に置いて行きたくないし。


浮気性で性の塊の旦那。

でも周りから見たら、子煩悩で優しい旦那しか見えてなく、人に話してもなかなか信じてもらえず、

行く宛もないまま眠れない夜を過ごすしかなかった。



ある日、あまりにも睡眠時間が少なく、グッタリしている私を心配して、友達のナナが泊まりに来てくれた。

ナナも同じ歳の子供がいて、シングルマザー。

もう10年以上の付き合いだ。

ナナは旦那もよく知っている友達なので、なんの違和感もない。

『私と一緒に寝てれば。さすがに襲ってこないっしょ!』

と、子供たちと並び、ナナも私と一緒に寝てくれる事になった。

楽しい時間も過ぎ、すっかり安心してしまった私はナナの隣で久しぶりゆっくり眠れると思ったが、やはりなかなか寝つけない。

みんなが寝静まった頃、私もようやくウトウトしはじめ…


モゾモゾ…





足元から何かがやってくる。

そーっと伸びてくる手の感触があった。

『やめて!!!!』

大きく叫ぶ私の声に、ナナも目を覚ます。

旦那は無言で去っていった。


『ねぇ!!あり得ないんだけど!私もいるのに?私も怖かったよ!あんた毎日こんななの?

やばいねこれ!ちゃんと話したほうがいいよ!』


ナナも本当に引いていた。


旦那とは、何度も話し合っている。

夜は二度三度、私のもとへ来る。

そんな感じで、寝ては起こされ、寝ては起こされを繰り返す。

拒み続けると最終的には諦めて大音量で動画を見ながら一人でする。(寝ているけど子供たちもいるのに…)

結局、私じゃなくてもいいのだ。

朝起きて、本当にやめて、本当に離婚だよと旦那に言うと、

”ごめん、もうしない“

と言う。

でもまた夜になると繰り返す。

ずーっとこんな日が続いている。何年も。


普通にセックスしてあげたら、そんな事しなくなるんじゃないか?

という意見もあったが…

私にとってはそんな無理矢理なセックスはしたくない。

それじゃただの道具じゃん。

私じゃなくてもいいのでは?と、外でやってくればいいとも提案した。

どうせ浮気いっぱいしてきたんだから。

妻が浮気を承認しているのに、こんな時に限って浮気はしないらしい。

意地でも私とやりたいらしい。

そう思うと、余計に私は嫌になった。


さすがに限界かもしれない。と、母親に相談する事にした。

すぐには信じられないと、ビックリしていたけど…

気晴らしに飲みにでも行ってくれば?と言ってくれて、家の事はお願いして飲みに出かけた。


親友のユウが連れて行ってくれたのは地元の居酒屋。

店長さんが知り合いらしく、個室に通してもらった。

ユウはナナとも友達で、ナナと一緒に出会い、10年以上の付き合いだ。

辛いときにいつも一緒に居てくれる。もちろん楽しい時も。

たくさんの時を一緒に過ごしてきた、なんでも話せる親友だ。

『離婚で簡単に言っちゃいけないと思うけど、もう見てられない。たくさんガマンしたと思うし、もういいんじゃない?』

ユウは絶対に適当な事は言わない。

すぐに離婚に踏み出せないのは私に勇気がなかったからだ。

子供たちからしてみたら良い父親だし、

私がガマンしていればいいのではないか?とか、お金も私のパートだけではとても賄えない。

かといって再婚という考えもない。(相手もいなかったし)

だいたい、3人も子供がいて再婚してくれる人なんているのだろうか。

それより、子供たちの父親は、やっぱりアイツだけであって、新しいパパという存在はしちゃいけないと思った。

気づけばいつの間にか居酒屋も閉店の時間が近づき、ユウとの楽しい時間は終わってしまう…

『家に帰りたくないなぁ…』

本気でそう思った。


『うち来る?』

とユウは言ってくれたけど、

ばぁちゃんがいても子供たちの明日の事もあるし、帰らないわけにはいかなかった。

すると、ちょいちょいで話を聞いていた居酒屋の店長が

『そんなに家に居たくなかったら夜うちで働く?人いないんだよねー』

思ってもみない発言だったが、私は咄嗟に

『働く!!』

と答えていた。


昼間のパートが終わって、

帰って夕飯を作って、

子供たちをお風呂に入れて、

20時に旦那が帰ってきたら出勤して、

居酒屋の閉店が1時、

家に帰ると2時、

さすがに旦那も夢の中で起きないだろう。

万が一、離婚した時にお金も必要だし、遊びじゃなくて働きに行くならいいんじゃないか?

そんな考えだった。

母親に話すと、

『いいけど、身体壊さないようにね』

と賛成してくれた。

旦那はいい顔はしなかったが、

今このまま家に居ても嫌いになるだけだから、ちょっと離れたいと、ちゃんと話した。




居酒屋バイト1日目。

結婚前に居酒屋バイトの経験があるのと、

持ち前の元気と明るさで、常連のお客さんともすぐに馴染む事ができた。

その日は平日だったので、店長と学生バイトの空くん、私の3人体制だった。

特に混む事もなく、暇な事もなく、カウンターにいる常連さんが度々いじってくるので、仕事といえども楽しいと思えた。

『店長〜いい奥さんもらったねぇ』

常連さんが言う。

『うちの奥さんいいっしょー!これからもよろしく頼むわー』

店長もその冗談にのる。


店長は私の1つ歳下で29歳。

ヒゲ、ロン毛、チャラチャラした感じだった。

閉店して片付けが終わると、

『梨花ちゃんどーする?帰りたくないならちょっと飲みにでも行くか?』

店長に誘われた。

『でも私、車だし、子供たちも心配だから帰ります』

行きたかったけど断った。

私はお母さんだしね。

地元の居酒屋だから、誰かに見られると、ちょっとめんどくさい。


『お疲れ様でした!』

片付けも全部終わって2時過ぎ。

これから家に帰ると思うと、ドッと疲れが出てきた。

でも朝は6時には起きなくちゃ。

昼の仕事は出勤時間が9時半と遅いので、もうお風呂は朝でいいや。

帰ってソファーに倒れ込んだ。

風呂も入ってないからベッドに行きたくないし、ベッドの部屋には旦那もいるとなると、私には最善の方法だった。

3時間は眠れる…

速攻寝落ちた。

















階段を降りてくる足音が聞こえる。

眠気に勝てず、その足音に恐怖を感じながら、起き上がる事ができなかった。

その足音は私の頭上にやってきて、胸元に手が入ってくる。

もう…地獄だ…


涙が出てきたのはわかったが、そうとう眠かったらしく、後のことは覚えていない。


疲れていたせいなのか、夜中の地獄のせいなのか、朝はとても怠かった。


居酒屋のバイトは1日置きに入っていた。

子供たちは、バイトがなく、私が家に居る時は喜んでいる様に見えた。

しかし家に居たら居たで、旦那との仲は険悪。

旦那は普通だが私は普通でいられない。

子供たちにはごめんね。と思いながら、私は家から飛び出したくて仕方ない。

私に勇気と経済力があれば…

でもそれだけあっても、子供たちから父親を奪う事に変わりはなかった。

私はどんどん苛立ち、“嫌”以外の感情どこかに逃げちゃったの?と思うくらい、何もかもが嫌だった。


バイトへ行くと、店長はいつも帰りたくないか?飲み行くか?と誘ってくれた。

行ってしまおうか、何度も悩んだけど、

店長のチャラさに、私は浮気をしてしまうんじゃないか?なんて心配があった。

浮気なんてあり得ない、そんな人間は屑だと思っていた私が、そんな事を考えるほどまでに精神はやられていた。

私が断ってばっかりいると、

『人妻には手ぇ出さないから心配すんな』

と言われ、なんだか恥ずかしくなった。


その日、閉店後に店長と飲みに行き、朝方に代行で帰った。

帰ると旦那は起きていて、特に何も聞いてこない。

寝ないまま、子供たちを起こし、学校と保育園に送り出し、仕事へ行く。

寝てないはずなのに、私の心は軽かった。


バイトがない日は、夜中に襲われる恐怖と怒りばかり。

バイトの日は、朝に帰ってくる事ばかりになった。


そんな生活がしばらく続いたある日、

朝方に帰ると、息子が泣いていた。

息子は小学4年生。

おねしょをしてしまったらしい。

私はこの日の事を忘れない。

息子はきっと、精神が不安定だったんだ。

オムツがとれてから、トイレに失敗する事も、おねしょをする事もなかった息子が、おねしょをして泣いている。

ごめんなさいと泣いている息子。

大丈夫だよ、ごめんね、と強く抱きしめた。

起きてきた娘2人にも、

『ママ帰ってこないかと思った』

と言われた。

私は子供たちに寂しい思いをさせてるんだ。

最低だ。

このままじゃダメだ。


私はその日、もう一度旦那と話し合った。

もうこれが最後の話し合いだと思った。

このままは良くない。

本当にやめてほしい。

本当に嫌いになってしまう。

止めれないのなら、病気なんじゃないか?

と。

そういう病気もあるんじゃないか?って本気で思った。


事ある毎に、私は妊娠中の浮気を思い出す。

大きくなったお腹を愛おしく撫でながら、

これからの幸せな家庭を思い浮かべ、旦那の帰りを待っていた。

なのに旦那は他の女を抱いていた。

この気持ち悪さが、ずっと私の心に住みついていた。


この話をする時、旦那はいつも何も言わない。

何か言ったり、怒ったりも全く無く、ただごめんと謝るだけだ。今回もまた、同じだった。

私は本当に離婚する事を考えていると伝え、とくにやり取りすることの無い会話は終わった。





その日から2日間は、夜中に襲われることも無く朝を迎えた。

とはいっても、私は安心して眠れないのは変わらなかった。

3日目、私はバイトがあったが、旦那の帰りが遅いとの事で、夕方から母親に来てもらって出勤した。

その日の店はヒマで、早くに上がる事となり、まだ日付が変わる前に帰宅となった。

旦那も帰ってきたばかりらしく、母親もまだ居た。

『もう遅いし、ばーちゃんこのまま泊まるね』

と、眠たそうにそう言う母親に、もう一緒に住んでほしいと思った。

この2日間は何も起きていない。

安眠はできなかったけど。

更に今日は私の母親がいるなら、ゆっくり眠れるかもしれない。と、私の考えは甘かった。


もちろん、母親は私の隣で寝ている。

その両隣には、3人の子供たちがいる。

さすがにこの状況で…




来た。

来た。

来た。


真っ暗な部屋をそーっと歩く気配。

私の足元まで来たらしく、布団が突っ張った。

もう、恐怖よりも怒りに震え、みんなが寝ている事なんてお構いなしに怒鳴った。

『いいかげんにして!!馬鹿じゃないの!自分が何してるかわかってるの?こんなの犯罪に近いんじゃないの?ほんっっっっとに気持ち悪い!!!』


もちろん、私が大きな声を出したせいで、みんな起きてしまった。

奇妙な事に、こんな時でも、旦那は何も言わない。

みんながビックリして見ているのに。

何も言わず、黙ってて自分の布団に戻っていった。

私は怒りで眠れなかった。

もう、これはトドメだった。







次の日、子供たちを見送ったあと、母親にもう離婚すると伝えた。

母親は良いも悪いも言えず、困ってはいたが、

昨日目の当たりにしてビックリしていた。

これからどうするのか。

1番問題なのは”お金“だ。

ただでさえ旦那のお給料は、周りの人達よりも少なかった。

私もパート。

掛け持ちをしていても、人間4人が生活するには、ぜんぜん足りない。

けどそこを考えている余裕は私には無かった。


わがままかもしれないけど、

ただ愛されたいだけだったのに…


その日も、何事も無かったかのように普通に帰宅した旦那に伝えた。

『離婚しよう』


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