第17話 折れた剣の柄を握る。そして勇者にバレる。

 俺達は慌てて岩影に隠れた。

「なんで隠れるニャ。私達は何も悪い事はしてないニャ」とデッキが言う。

 彼女の理屈はわかる。

 選ばれし者が引き抜く事ができる剣。それは誰が選ばれし者かわからないから誰でも抜く権利がある物である。

 その剣を抜きに来た俺達は決して悪い事をしている訳ではない。


 だけど、そんな理屈は勇者には通らない。

 なぜなら選ばれし者というのは勇者の事である。そしてココに向かって来ている奴は勇者様なのだ。

 俺の剣、という言葉が反響して聞こえた通り、勇者の剣なのだ。少なからず彼はそう思っている。


「しっ」と俺は人差し指を立てた。

「黙るゲームだ。今から先に音を立てた奴は今日の晩御飯抜きだからな」と俺は小声で言った。


 ポクリ、ポクリ、とハリーとミカエルが頷く。

「わかったニャ」と彼女は言って、それ以上喋らなかった。


 この洞窟は一方通行である。

 そしてココが行き止まり。

 1つしかない通路から3人が現れた。

 まだ始まりの町から出たばかりの鬼畜勇者。

 それと白一色で杖を持った自称聖女のミス高飛車女。

 もう1人は村人Aだった。どこにでもいそうな中年男性である。


「本当にココに聖剣があるのかよ?」と勇者が尋ねた。

「ええ。ココに……」

 と村人Aは言った。

 森で聖剣を探し回ったけど、見つからず道案内人でも雇ったんだろう、という事が会話でわかった。


「あれ? 無い!!! あれ? 無いっていうか、刃先だけ刺さってる」

 と村人Aが目玉を飛び出すぐらいの勢いで驚いていた。


「おい!!!」と勇者が怒鳴った。

「聖剣っていうのは、コレのことか?」

 刃先を勇者が指差した。


 選ばれし者しか抜けないアレを抜きに来たのに、剣の柄が無くなっているのがウケた。

 笑っちゃダメだ、笑っちゃダメだ、と思うほど面白い。


「この人に怒っても仕方ないでしょ」と自称聖女が言った。

「俺達は騙されてココに来たんだぞ」

 と短気の勇者が言う。

「騙された訳じゃないでしょ。だって道案内代を先払いで渡してる訳でもないのに、この人が私達を騙すメリットが無いじゃない」

「それじゃあコレが聖剣って言うのかよ?」

「そうだと思うよ。アナタには見えないと思うけど聖なるオーラーも出てるし」

「コレが聖剣って言うなら騙された方がよかったわ。剣が無いと魔王を倒せねぇーだぞ」と勇者が言う。

「でも剣が折れているのはこの人のせいじゃない」

 チェ、と勇者が舌打ちをした。

「剣を折った奴を見つけたら絶対に殺してやる」と勇者が殺意の籠った怒声を上げた。


 見つかったら絶対にアカン奴や、と俺は思った。


「勇者様、それで案内の代金はいただけるんでしょうか?」と村人Aが尋ねた。

「あぁぁ!!!!」と舌を巻くように勇者が声を出した。

「でも、私、案内の代金が貰えると伺って店を休んで来たんです」

「それじゃあ、どこに俺の剣があるんだよ」

 と勇者が怒鳴った。

 村人Aはゆっくりと刃先を指差した。


 笑うな俺。我慢しろ俺。


「お前舐めてんの?」と勇者。

「この人はちゃんと案内してくれたわ。お金を払ったら?」と女が言う。

 さすが聖女である。

 ココまで険しい道をわざわざ村人は案内して来たのだ。その対価は払うべきである。

「それじゃあお前が払えよ」と勇者が言った。

「嫌に決まってるでしょ」

「俺も払う気ねぇーよ」


 お金を払うかどうかなんてどうでもいいから早く帰れよ、と俺は思う。

 10分ぐらいゴチャゴチャ言い合って、ようやく彼等が歩き出した。

 彼等が去って行く後ろ姿を見て、ホッとした。


「ハックション」

 とハリーがクシャミをした。

 デッキのケモ耳で鼻がくすぐられたみたいだった。

 俺達は目を見合わせて息を止めた。


「あっ、クシャミしたニャ。負けたニャ」

 とデッキが嬉しそうにハリーを指差した。


「そこにいるのは誰だ?」

 と勇者が低い声で尋ねた。


 最悪である。

 バレてしまった。

 俺達は何も悪い事をしてないぜ?

 でも因縁の勇者である。

 しかも剣を折ったのは俺だった。

 せめて3人は逃がしたい、と俺は思う。


「俺が勇者を惹きつける。その隙にお前等だけでも逃げてくれ」

 と俺が言った。

「アニキ」とハリーとミカエルが言った。

「なんで逃げるニャ?」とデッキが首を傾げる。

「大丈夫。俺は強い」

 と弟分2人に言った。

「なんで逃げるニャ」

 とデッキが尋ねた。

 俺は獣人の女の子の頭を撫でた。

「このむさ苦しい男達に付いて行け」

 と俺は言った。

 ????? とデッキが首を傾げていた。


 俺は岩影から離れた。

 勇者が俺を見る。


「お前!!!!!!」

 と勇者が怒声を上げた。

 想像以上の憎悪を向けられている。

「お前が俺の剣を壊したのか!!!!」

 俺の手には勇者が抜くはずの剣の柄が握られていた。














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 そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。

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