第16話 聖剣
噂の岩に刺さった選ばれし者しか抜けないアレは崖を降りて洞穴に入った場所にあった。
洞穴だけど頭上にポッカリと大きな穴が空いていた。見上げると木々が見える。木々の間からの溢れ日が剣を照らして幻想的だった。
すげぇーな、と俺は思う。幻想的な風景と目の前の剣が聖なるモノ感がハンパなくて俺は呆然と立ち尽くした。
「それじゃあアニキ、これから撮影するっす」
とハリーが言った。
「この突き刺さった剣が誰にも抜けない剣である事を証明するためにデッキが引っ張ってみるっす。その次に俺がやって抜けないことを確認するっす。そして最後にアニキが引っこ抜くっす」
「なんで私が抜かないといけないニャ?」
「視聴者に抜けない剣であることを見せるためっす」
とハリーが言った。
さすが先生である。
視聴者に抜けない剣である事を見せないと、抜けた時のカタルシスが生まれない。
でも俺も抜ける気がしないのだ。選ばれし者である自信が無いのだ。
「抜けない事は知ってるニャ」とデッキが言った。
「デッキが知っていても視聴者は知らないっす。だから抜けないことを証明するっす」
「?????」
「もし剣を抜けたら次にパンが残った時はデッキにあげよう」と俺は言った。
「やるニャ」と彼女は即答した。
「つーか俺も抜ける気がしねぇーんだけど」と俺が言う。
「なに言ってんっすか。アニキには筋肉強化があるじゃないっすか?」
「そんな力技で抜けるようなモンなの?」
「抜けるっす」とハリーは自信たっぷりに言った。
「それじゃあミカエルアニキ、撮影お願いっす。今日も視聴者を楽しませて美味しいモノを食べるっす」
「おぉー」と俺とミカエル。
「ニャ」とデッキ。
あれ? そういう掛け声って俺がするんじゃないのか?
ミカエルがスマホのカメラを俺に向けた。
配信スタートである。
「どうも異世界からこんにちは。異世界に転生して来たけど無能で盗賊になってしまったドデカアタマです」
と俺が言う。
この挨拶も安定しないというか、定型文が定まっていない。
それに、もう無能でもないし、盗賊でもないのだ。
「ちょっとやり直していい?」
と俺が言う。
ハリーは何も言わず、OKサインだけした。
プロデューサーを気取ってんじゃねぇーよ。
「異世界に転生して盗賊をやっていたけど配信者になりましたドデカアタマです」
と俺が挨拶を言い直す。
コレで行こう。
「今日の企画は、勇者が抜くはずの剣を抜いてみよう」
ぱちぱちぱち、と俺は自ら手を叩く。
ハリーも手を叩いていた。
すでにデッキは剣を引っこ抜こうとしていた。
「んぅぅぅぅぅ」
と叫びながら剣を引っ張っている。
「抜けそう?」
と俺は尋ねた。
「ちょっと待つニャ。もう少しで抜けそうニャ」
とデッキが言った。
全然、抜けそうになかった。
ピクリとも動いてない。
「次は俺がやるっす」
とハリーが言う。
「嫌ニャ。私が抜くニャ。パンもらうニャ」
んぅぅぅぅぅぅぅ。
もがいて剣を抜こうとしている。
尻尾がピンと立っている。
耳もピンと立っている。
顔も真っ赤だった。
そんなにパンがほしいのか。
「残ったパンぐらいあげるよ」
と俺が言う。
「本当ニャ?」
ポクリと俺が頷く。
ようやくデッキが剣の柄を手放した。
「次は俺が剣を抜いてみるっす」
とハリーが言った。
彼は剣を引っ張った。
顔を真っ赤にして本気で引っ張った。
「抜けないっす」
と彼が言った。
俺はドキドキしていた。
本当に抜けるのか?
ハリーは俺の事を信じているけど、俺は選ばれし者じゃない。
自分でも雑魚キャラの自覚はあった。
「アニキ、剣を抜くっす」
とハリーが言った。
俺は剣の前に立った。
そして柄を握った。
んんんん!!!
引っ張る。
全然剣は抜けません。
筋肉強化20%。
オラーーー!!!
やっぱり剣は抜けません。
筋肉強化50%。
オラオラオラ!!!
まだまだ剣は抜けません。
筋肉強化75%。
うらぁーーー!!!
まだまだまだ剣は抜けません。
筋肉強化100%。
「おぉぉぉ!!!!」と俺は雄叫びを上げた。
その瞬間、
バギッ、と音を立てて剣が折れた。
俺は折れた剣の柄を握って呆然と見つめた。
時間が止まる。
「折れちゃったニャ」とデッキが呟いたのが聞こえた。
その時、洞窟の入り口から「本当にこんなところに俺の剣があるのかよ」と声が聞こえた。
俺の剣、とソイツは言ったのだ。
しかも聞いた事がある声だった。
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そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。
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