第15話 バズる
有名動画クリエイターの作品を何本かハリーに見せた。
ハリーは初めて見る動画に脳汁が溢れ出しているらしく、瞬きもせず何本も連続で見続けた。
ショートと言われる短い動画も何本も見ていた。
動画を見ただけでバズる動画が理解できたとは思えないけど、少しずつ技術を磨いていけばいいのだ。
前世の俺は何年やってチャンネル登録者が1桁だったから自分にセンスが無い事は知っている。
編集作業を教えるといっても難しいソフトは使っているわけではなかった。
テロップはAIが生成してくれるし、BGMもアプリ内に入っている。
昨日は夜遅くまでハリーに付き合っていたせいで目覚めるのが遅くなってしまった。
太陽の眩しい光で目を開けた。
俺達は墓の近くで眠っていた。野良の人間なので屋根が無くても寝むれたし、彼女がそこから動こうとしなかったので、そのまま寝たのだ。
デッキは墓の前で手を合わせていて、ミカエルはコンロとフライパンを麻で作られたリックに入れていた。
「おはようございます」とミカエルが言う。
彼はスキンヘッドで、太陽に照らされて頭も眩しかった。
ミカエルの口の端に焼肉のタレが付いている。
残っていたタレを舐めたのだろう。
「何やってんだ?」と俺が尋ねた。
「アニキが昨日スキルで出したヤツを袋に詰め込んでいるんです。リックはデッキから貰いました」
そうか、と俺が言う。
そして俺は眠っているハリーの近くに転がっていたスマホを拾った。
彼は俺が寝た後も編集作業をしていたらしい。
俺は動画配信のアプリを開いた。
どんな風にハリーが編集したのか確認するために、マイページを確認した。
前世で使っていたアカウントだけど前世の動画は削除されている。
だからドデカアタマになってからの動画しか残っていない。
3本のアーカイブ。
そのうち最新のヤツはハリーが編集したのだろう。
俺は手を止めた。
そして一度息を止める。
「嘘やろう? ホンマか?」
と俺は使い慣れてない関西弁で呟く。
再生回数が10万になっている。
なにかの勘違いだと思った。
ショート動画が3本も上がっていた。
そのウチの1本のショート動画が、300万。
「なんじゃコレ」と俺は叫んだ。
世界の中心でなんじゃコレ。
なんじコレ珍百景である。
なんじソレソレ、脇もソレである。
「どうしたんっすか?」
ハリーが目覚めて、目を擦りながら尋ねた。
「ど、ど、どげんしよ。動画がバズってるたい」
どこの方言かわからない言葉で俺は驚きを伝えた。
「よかったっす」とハリーが言った。
「よかったっすじゃねぇ、すごい再生されてるぞ。お前のこと先生って呼んでいいか?」
「そんな呼び方やめてほしいっす」
「いや、先生。アンタすげぇーよ。さすが俺に先生って呼ばれてるだけの事はあるよ」
「先生なんて、やめてほしいっす」
チャンネル登録者数を見ると5万人になっている。
5万って事は、めっちゃ多いってことだぞ。
さぞ報酬があるんだろう、と思って報酬のアプリを確認する。
6012円
昨日、1000円は残していた。
6012円-1000円=5012円である。
ショート動画は収益化されないんだっけ? 俺が生きていた頃は収益化はなかったような気がする。現在はわからん。
収益化されても微々たるものだろう。
アーカイブの10万再生だけが収益化された計算だと1PV当たり0.05円。
「シブい」と俺は呟く。
「だけど、コレで美味いモンは食える」
「アニキ、美味いモノ食えるんっすか?」
とハリーが尋ねた。
デッキのケモ耳もピクンと動いていた。
アイテムボックスと炊飯鍋を買うために貯蓄はしないといけない。
だけど安くても美味いモノは食えるのだ。
俺は昨日買った5枚入りの食パンと卵とケチャップを某通販サイトのアプリで購入した。
目の前にダンボールが現れる。
ちょっと待って。パン5枚入り?
「あれ? 昨日のパン1枚残ってなかったけ?」と俺は尋ねた。
「俺じゃないです。デッキが食べていたから半分貰っただけです」
とミカエルが言った。
獣人の女の子がピクンと肩を震わせた。
「美味しかったか?」
と俺は尋ねた。
ポクリとデッキが頷いた。
彼女の口の端にも焼肉のタレが付いている。
可愛い。
パンを食べても家族を失った悲しみが取れる事はないだろう。だけど少しでも和らぐ事が出来るのならパンぐらい、いくらでもあげたい。
「ズルいっす」とハリーが言う。
「次はハリーと俺で残ったパンを食おう」
と俺が言う。
リュックに詰め込んでいたコンロとフライパンを取り出す。
ハリーにログハウスにあった木で作られたシャモジを持って来てもらった。
そしてダンボールから卵を取り出す。
卵である。
我、卵に感動す。
養鶏所が無いせいで、コッチでは結構高級品なのだ。
卵を見てハリーは見たこともない踊りをしている。
ミカエルは正座してジッと卵を見つめていた。
デッキは横目でチラチラとコチラを見ていた。
卵を持ち運んでいたら100%割れるので、豪快に卵を全て割ってシャモジでかき混ぜた。
オラオラオラ、スクランブルエッグじゃ。
そして昨日から片付けずに地面に置いていた皿に食パンを1枚ずつ置いて、パンの上にこれでもかというぐらいスクランブルエッグを乗せた。
その上にケチャップをかけた。
「ドデカアタマ特製、スクランブルエッグパンだ」と俺は言った。
いただきます、も言わず「んっめ」「んっめ」と震えながら3人は食べていた。
「コレを食べたら岩に刺さった武器を取りに行こうな」と俺は言った。
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そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。
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