第18話 お前は勇者のモノになれよ。付いて来るなよ。いやーーーーー
オシッコちびってまうやろう。
なんだったらウンチも漏らしてしまいそう。
人は死にそうな瞬間に時間が止まるような感覚に陥ったり、過去の事がフラッシュバックしたりするらしい。それは頭がフル回転して、これからやって来る死を回避できるか思考しているらしいのだ。
まだ勇者は一歩も動いていないのに、憎悪を剥き出しにした勇者を目の当たりにした時、時間が止まったような感覚と過去のことがフラッシュバックした。
そして俺はある事を思い出す。
報酬のアプリに武器修理、というモノがあった。
絶対にコレは使わんだろうな、と思っていたけど今は必要だった。
武器を修理して勇者に差し出すのだ。
俺が生き残る方法はコレしか無い。
スマホ先生はミカエルのツルッパゲが持っていた。
「ミカエル、スマホを貸してくれ」
と俺は叫んだ。
まだ3人は逃げることもできずに岩陰に隠れている。
俺の言葉を聞いたミカエルがスマホを差し出す。
スマホは生配信が続いている。
コメントも沢山表示されていた。
今は読む余裕は無い。
勇者は憎しみの込もった目をしながら、ゆっくりとコチラに歩いて来ていた。
その歩みは俺が逃げられない事を知っている歩みだった。
その歩みは俺をじわじわと苦しませて殺していくという意思の歩みだった。
もうオシッコは三滴ほど零していた。
俺は1度ホーム画面に戻る。
震える指で、素早く報酬のアプリを起動させた。
8513円に残高が増えていた。
有難いことに視聴者様が投げ銭をしてくれたんだろう。
勇者が確実に近づいて来ている。
「武器は修理して返す。ちょっと待ってくれ」
報酬のアプリから武器修理をタップした。
金額は5000円だった。
『修理する武器を撮影してください』
と文字が出て、カメラ機能に切り替わる。
すかさず折れた剣を撮影した。
パシャリ。
魔法のように折れた剣が、元あるべき姿に戻って行く。
それを見た勇者が驚いて足を止めた。
俺はスマホを生配信の画面に戻し、ミカエルに投げた。
彼はスマホをキャッチして撮影を続けた。
「剣は元に戻った。コレはアンタの剣だ」
と俺は言って、地面に剣を置いた。
これでどうにか俺達は助かった。
地面に置いた剣がカタカタカタと音を立てて動き出す。
そして空中に剣が浮いた。
どうなってますの、この剣は。
『
と剣から声が聞こえた。
剣にスピーカーが付いているわけじゃないのに、子どものオモチャみたいに剣が喋っている。
キモい。
しかも、だいぶ野太い声である。
汝ってどういうこと? 時間を聞いてんのか?
「ほら、剣は修復しただろう? 剣もアンタの事を主人だと認めてる」
と俺が言う。
『なにゆえ力を求めるか?』
と剣が尋ねた。
「聞かれてまっせ」と俺が言う。
「俺は魔王を倒し、世界を平和に導く」
と勇者が答えた。
うわぁ、オーソドックスな夢。
もっと面白い答えを用意しろよ。
『なにゆえ力を求めるか?』
と再度、剣が尋ねた。
オーソドックスすぎて気に入らなかったみたいである。
「……」
勇者が困っている。
『力を求める理由は無いのか?』
と剣が尋ねた。
ちゃんと勇者は答えてましたよ。
剣には耳が無い。
もしかしたら尋ねる事はできるけど、聞き取りの機能は付いていないのかもしれない。
『それでも我が力は、選ばれし主人のために』
と剣が言って、俺の手元にやって来た。
「俺のことを主人だと思ってんのかよ」
と俺は言いながら剣をぶん投げた。
「貴様」と勇者が俺を睨む。
「俺を
「してまへん」
と俺がエセ関西弁で否定する。
「ココに剣を置いておきますんで。どうかどうか俺達を見逃してください」
俺は岩陰に隠れていた3人を見た。
彼等は逃げていなかった。
ミカエルはスマホのカメラを俺に向け続けている。
「逃げろ」と俺は叫んだ。
「逃げるっす」
とハリーがデッキの腕を引っ張って走り始めた。
それでもミカエルはジッとカメラを向けている。
「ミカエルアニキも逃げるっす」
とハリーが言う。
3人が走り始めた。
俺は彼等の後を追う。
勇者は俺が投げた剣に向かって行く。
そうだ、勇者が手に入れたいのは剣である。
俺達を殺すためにココに来た訳ではない。
剣さえココに置いておけば逃げることができるはずだった。
3人が走る。
俺は、その後ろを走った。
「おのれ」と勇者の叫び声が聞こえた。
振り向くと宙に浮いた剣が俺を追いかけて来ている。
俺達は広場を抜け、暗い洞窟の中に入って行った。
「うわ、コッチに来るな。お前は勇者の持ち物になれ」
と俺は剣に向かって叫ぶ。
だけど剣は走っていた俺の右手にスッポリと収まった。
俺は走りながら剣を見る。
「いやーーーー」と叫んだ。
この剣が俺の手元にあったら勇者が襲って来るじゃねぇーか。
「お前は勇者のモノになれ」と言いながら、追いかけて来ている勇者に向かって剣を投げようとしたけど剣が離れない。
いやいやいや、と剣を必死に離そうとしたせいで俺は出す気も無い斬撃を出していた。
斬撃は洞窟を封鎖して、勇者達を洞窟の中に閉じ込めてしまった。
「すみません」
と俺は叫んだ。
かならず彼等は洞窟から出て来るだろう。
その時、俺は標的にされるだろう。
だけど俺はわざと勇者一行を閉じ込めようとした訳ではないのだ。
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そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。
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