第8話 獣人の女の子の家族を助けに行く
名前も知らない獣人の女の子が走って俺達に道案内をしてくれる。
だけど早すぎる。
「待ってくれ」と俺は息を切らしながら叫び、必死に彼女に付いて行った。
走りながら考えている事は、もう間に合わないかもしれないという事だった。
獣人一家が襲ったのは盗賊だろう。
盗賊に襲われて盗賊に助けを求めるなんて皮肉なもんである。
いや、俺達は今は盗賊じゃない。
ジョブチェンジして配信者になったのだ。
盗賊の心理はわかる。金目の物を奪ったら助けが来る前に去りたい。
もし獣人一家が抵抗したなら殺されているかもしれない。
ちなみに俺達は人殺しをした事がない。弟分2人には人殺しになってほしくなかった。罪もない人を殺してほしくなかった。もしかしたら俺には日本人の心が魂に刻まれていて、人殺しを道徳的に良しとしていなかったのかもしれない。
俺達は誰も殺さないように選択しながら盗賊稼業をしていた。だからこそ得られる報酬も少なかった。
だけど他の盗賊はそうじゃない。むしろ人殺しを良しとしている奴等が多い。
道を10分、森の中を10分、走ったところで木々に囲まれた一軒のログハウスが辿り着いた。ログハウスというのは丸太を使って建てられた住宅のことである。
「はぁ、はぁ、はぁ」
と俺は息を切らしていた。
ハリーもミカエルも息を切らしている。
それでもミカエルは俺の事を撮影し続けている。
彼は与えられた役割を全力でこなす男だった。
獣人の女の子だけが息を切らしていなかった。
「ココが私の家ニャ」
と彼女が言った。
その時、ログハウスから1人の男が扉を開けて現れた。
デブなのにマッチョという体格。そしてスキンヘッド。
全体的に茶色い服を着て、ボロボロになったマントを着ていた。
そして手にはモフモフの毛皮が3つ握られていた。
その毛皮は獣人の女の子の尻尾と同じだった。キャラメル色をした毛皮である。
獣人の女の子が、その男が持つ毛皮を見て息を吸い込んでから息を止めた。
「行くな」
と俺は女の子を制した。
彼女はスキンヘッドの男に飛びかかろうとしていたのだ。
「離すニャ」
「自分では倒す事ができないから俺達に助けを求めたんだろう? 俺達が奴を倒す」
「なんだ?」と男が言った。
「毛皮が戻って来たと思ったら、盗賊みたいな奴等も連れて来てるじゃねぇか」
と男が言って、低い声でガハハハと笑った。
「俺達は盗賊じゃない。配信者だ」
と俺が言う。
はいしんしゃ? と男が首を傾げる。
「いい事を教えてやるよ。獣人の尻尾は高値で売れるんだぜ」
と男が言う。
「お父さんとお母さんはどうしたニャ? お姉ちゃんはどうしたニャ?」
「殺したに決まってるじゃねぇーか。ごちそうさまで〜す」
と男が言って、持っていた尻尾を見せて来た。
男は挑発するように、ゆっくりとカバンに尻尾を仕舞った。
「ニャーーーーー」
と獣人の女の子が叫んで、男に飛びかかった。
ワンパンだった。
男はグーで軽く女の子を殴ったのだ。
それだけなのに、すごい勢いで女の子が飛ばされる。
「そこの尻尾はお前等にくれてやる」
とスキンヘッドの男が言った。
俺は男を睨んだ。
「人の命を軽く扱うな。腐れ外道が」
と俺は言った。
「腐れ外道って、盗賊に言われちゃった」と男が言う。挑発されている。
「お前等も盗賊なんだろう? 人ぐらい殺したことがあるんだろう?」
「ねぇーよ」
と俺が言う。
「ガハハハ」と男が高笑いをした。
「そんなオッさんなのに人殺し童貞ですか?」
俺は拳を強く握り、スキンヘッドの男に向かって行った。
強さのレベルが全然、違った。
俺のパンチは避けられ、それから胸ぐらを掴まれて殴られた。
「弱えーな。そんな弱いのにイキっちゃってるの? スキル出せよ? あぁ、スキル持ってない系? 俺も持ってないぜ。だから頑張って鍛えちゃった。あぁ、自分は弱いと思ってるから鍛えるのも怠った系? ゴミクズが」
ボコボコだった。
クソ。
女の子の家族を殺されているのに、俺は何も出来ないのかよ。
ザ・底辺。
底辺中の底辺。
それでも必死にもがいて、男を殴った。
だけど俺のパンチは全然、効いていない。
「さっきお前等に、そこの尻尾あげるって言ったけど撤回するわ。そこの尻尾も貰って行くわ」
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そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。
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