第7話 女の子を襲う

 アーカイブに残した動画の視聴再生回数は5回だった。

 何が悪かったのだろうか?

 いや、5回も再生されたと見るべきだろうか?

 そんな考えじゃダメだ。5回しか再生されなかったのだ。

 視聴再生回数が少なかったら俺達はお金を稼げない。お金を稼げないということは盗賊稼業から足を洗えないのだ。


 あれか、サムネイルが悪かったのか?

 サムネイルというのは視聴者に動画を選んでもらうための表紙の事である。

 配信の時には何百人も視聴者がいたのにアーカイブには視聴者がいないのは、なぁぜなぁぜ?

 どうやってたくさんの人に見てもらえるようになるんだろう?

 


「それじゃあ、ミカエルアニキは見せ物小屋の板を持つっす」

 とハリーが言った。

 見せ物小屋の板、というのはスマホの事らしい。

「それはスマホっていうんだぞ」と俺が指摘する。

「一番下のハリーが指示を出すなよ」

 とミカエルがキレていた。

 まぁまぁまぁ、と俺が言う。

「今回はハリーのやりたいようにやらせてあげよう」

 と俺は言った。

 寛大な心で弟分を見守る兄貴分みたいな事じゃなくて、バズり方がまったくわから〜ん状態の俺は何をやっていいのかわからないので、とりあえず今日はハリーに任せてみようと思っただけである。

 超絶人気インフルエンサーの美少女を助けるみたいな動画を本当は撮りたい。だけど、この世界にインフルエンサーはおらん。

 だから今日はハリーに任せる。


「アニキは女の子が来たら襲うっす」

 とハリーが言う。

「俺、女の子なんて襲ったことねぇーよ」

 と俺が言う。

「どんな子を襲うのか、どうやって襲うのか、ちゃんと説明するっす」

「なんで襲い方を説明しなくちゃいけねぇーんだよ?」

「見せ物小屋で急に曲芸師が剣を飲み込みますか? ちゃんと前口上ぜんこうじょうが入るっす」

「前口上ってなんだよ?」

「前口上というのは舞台の設定や物語の背景や情報や登場人物の紹介や目的などを説明することっす。観客に興味を引き、話の流れを理解しやすくするためのモノっす」

「へー」と俺が言う。

 純粋に知らなかった。

「だからアニキは前口上の段階で、なぜ女の子を襲うのかという動機についても説明しないといけないっす」

「……動機?」

「それじゃあ異世界に向けて見せ物をしましょう」

 とハリーが言った。

「どうやって、これ使うんですか?」

 とミカエルがスマホをイジリながら尋ねた。

「ちょっと貸してみ」

 と俺が言って、配信スタートした。


 ミカエルが俺を撮影している。

「どうも異世界からこんにちは」

 固定の挨拶が決まってないから異世界からこんにちはと言ってしまった。

「ドデカアタマです」

 と俺が言う。

「もっと自分のことをわかりやすく説明するっす」

 とハリーがミカエルの横で指示を出す。

「異世界転生したのに最底辺。スキルも無いし金も無い。仕方が無いので盗賊やっております。ドデカアタマです」

 と俺が言う。

 なんか自分で言っていて寂しくなる。

「今日の企画は女の子を襲ってみよう、です」

「もっと盗賊らしい悪い感じを出すっす」

 とハリーが言う。

「今日は女の子を襲ってみようグハハハハ。世界中の女は俺のもんだ」

 と俺は言った。

 聖飢魔IIみたいになってませんか?

「なんで女の子を襲うのか動機を語るっす」

 とハリーが言った。

「……動機」

 と俺は考えた。

 早く、とハリーが口パクで急かす。

「前世も今世も俺は女の子と付き合ったことがねぇ。手を触れたことも、ましてやチューをしたこともねぇ」

 と兄貴分としてすげぇーカッコ悪いことを言ってしまった。

 女の子を襲う動機、と言われても咄嗟には嘘が付けなかったのだ。

「だから女の子を襲ってみようと思うグハハハ」

 最高っす、とハリーが呟いた。

「どういう女の子を襲うっすか?」とハリーが尋ねた。

 どういう女の子を襲う?

「まずは1人でいる子を狙う」

 俺は好みの女の子ではなく、どういう女の子なら襲えるのかについて考えていた。盗賊の思考である。

「出来れば弱そうな女の子がいい。もっと言えばスキル持ちはごめんだ。ファイアーとかサンダーとか出されたら逃げるしかなくなるからな」

 と俺がカッコ悪い言葉を重ねる。

「まずは移動しよう」

 


 森にある街へ続く道まで移動した。ココなら人目につかないけど人が通る。

 なんか緊張して唇がパサパサしている。

 こんな胸が張り裂けそうな事を俺は今まで配信でやった事がない。

 女の子を襲う、というのはもちろん配信のための嘘であり、ドッキリである。決して良い子は真似しないように。

「来たっす。来たっす」

 とハリーが言う。

「えー、もう来たの? 心の準備全然できてないというか」

「なに言ってんっすか? アニキなら出来ます」

「ちょっと深呼吸していい?」

「超早いスピードで来てるっす」

「早いスピードって、どんな女だよ」

 と俺は言って、ハリーの視線の先を見る。

 獣人族の可愛らしい女の子が猛ダッシュで走って来ていた。


 そして俺達の近くまで来た。

「グハハハ」と俺は笑い声をあげて飛び出した。

「こんなところで何をしてるのかな? お嬢ちゃん」

 と俺は言った。

 

 獣人族の女の子。ファーみたいなモコモコしたモノが胸と下半身を隠している。ヘソ出しルックである。プリッとした太もも。そして尻尾。ピンと尖った耳。そして少しタレ目の大きな目に、八重歯が可愛らしい口。こんな子と初めてを体験できたら、さぞ幸せだろうなと思わせるような最高にキャワイイ女の子だった。

「ちょうど良かったニャ」

 とケモミミの女の子が言った。

 襲うことにちょうど良いタイミングがあるのか?

「家族が襲われてるニャ。助けてほしいニャ」

「わかった」と俺は即答した。

「アニキ、女の子を襲う企画はどうするんですか?」

 とミカエルが尋ねた。

「女の子が困っていたら助けてあげないといけねぇーだろう」

 と俺が言う。

 ハリーは何かを考えている。

「コッチの方が面白いっす。助けに行くっす。ミカエルアニキはスマホで撮影を続けるっす」













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 そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。

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