第6話 視聴者0人
俺は2人に動画配信サイトの説明をした。
「?????」
ミカエルが首を傾げている。
「ココとは別の世界がある??? その人達が視聴することによって通貨が貰える?????」
ミカエルの頭にはハテナが飛びまくっている。現地人の彼等にとっては別の世界があるというだけで
「なんで通貨が貰えるんですか?」
とミカエルが尋ねた。
「向こうの世界で見てる人が投げ銭してくれんだよ。後、商会が宣伝のために通貨を出している」と俺が言う。
「さっぱりわかんないです」
とミカエルが首を傾げながら言った。
「わかったっす」とハリーは言った。
「この小さな板が、異世界と繋がる見せ物小屋なんっすね」
「そうそう」と俺が頷く。
理解力が高いハリーがいてくれてよかった。
「見せ物小屋にも投げ銭ってあるじゃないっすか」とハリーがミカエルに言った。
「でも商会が何で宣伝のために通貨を出すんだよ?」とミカエルがハリーに尋ねた。
「商会は商品を売るために噂話を通貨を使って広げているというのを聞いた事があるっす。この板で見せ物を見た人は噂話も聞く事になるんじゃないっすか?」とハリーが言う。
「エクセレント」と俺は思わず英語の教師みたいに言ってしまった。
「弱い部分や人には出来ないモノを見せて、人を楽しませて、お客さんを集めてお金を稼ぐって事っすよね」とハリーが言う。
俺は首を傾げた。
弱い部分?
人に出来ないモノ?
「お客さんを集めるのは、流行ってるモノの後追いすることじゃないのか?」と俺は言った。
俺は流行りを追って動画投稿をしていた。最後の餅の早食いは、あまりにもバズらなさすぎて、もう何でもいいやっと思って餅を啜って死んだのだ。
「見せ物小屋の人達は時に自分の弱点を見せ、時には誰にも真似できない事をやってお客さんを喜ばせるっす。ピエロと曲芸師の役割が必要っす」とハリーが言った。
「ハリーは見せ物小屋には詳しいからな」とミカエルが言う。
「小さい時は親が好きで行ってたっす」とハリーが言う。そして寂しそうに笑った。
小さい時の事をいつまでも覚えているのは、何度も何度も繰り返して過去のことを思い出しているからだろう。
「まぁ、お前等は配信の事はわからないから俺にまかせろ」と俺は言った。
それから手元に残った銀貨で回復薬を買って頬の傷を直し、残ったお金でパンを買って、いつも寝泊まりしているテントに帰った。森の中なので、あまり人は立ち寄らない場所である。
さっきの俺の配信は何百人も見てくれたのだ。次の配信も見てくれるんじゃないか、という期待はあった。
俺達は焚き火を囲み、ミカエルにスマホを持ってもらって配信をスタートさせた。
本当は流行りの事をしたい。だけど何が流行っているかわかんない状態である。
まずは自己紹介がてらに自分語りをしてみた。異世界に転生してからの俺の話である。
「今、何人ぐらい見てる?」
と俺はミカエルに尋ねた。
「どこに書いてるんですか?」
俺はミカエルに近づき、スマホを確認した。
誰も視聴してなかった。
つまり0人である。
「0」と俺が言った。
「アニキの自分語りで誰が喜ぶんっすか?」
とハリーが言う。
「知らん」と俺が言う。
「そんなのやるんだったら、普段やっていることを見せたらいいじゃないっすか?」
「普段やってること?」
「馬車を襲う」とハリーが言った。
「誰が見んだよ」
「見ると思うっすよ。馬車を襲うのは誰にでもできる行為じゃないっす。それに商人達のリアクションも見せ物になるっすよ」
「俺はお前達に……」
お前達に犯罪行為はさせたくないんだ、と言いそうになって言うのをやめた。
俺には綺麗事は言えない。配信が上手くいかなかったら犯罪行為にまた手を染めなくてはいけなくなってしまうのだ。
俺の気持ちを察したのかハリーは「馬車を襲うのはやめましょう」と言った。
「女の子を襲いましょう」
「もっとダメじゃん」と俺が言う。
「そもそも俺達は女の子を襲ったことがねぇーだろう。そんなことをしたら一生後悔する」
「違うっすよ。驚かせるだけっす。人が驚いているのはいい見せ物になるっす」とハリーが言う。
たしかにドッキリというのはコンテンツの一つだった。
「やりましょう。そうじゃないと俺達はまた盗賊になるっすよ」とハリーが言った。
「わかった」と俺が言う。
明日、女の子を襲う事が決定してしまった。
それから俺達はテントに入って、3人並んで横になった。
俺はスマホを使って、今日の動画の編集をした。
配信したモノを編集して、アーカイブに残すのだ。そうしないと初めの目標であるチャンネル登録者数1000人を超えられない。
「なにやってんっすか?」と隣にいるハリーが尋ねた。
「今日の動画を編集してんだよ」
と俺が言う。
俺の言っている意味がわからないらしく、しばらく動画の編集を彼は隣で見ていた。
「記録する魔道具になってんっすね。記録を改ざんしてるんっすね」とハリーが言った。
「まぁ、そういう事だ」と俺が言う。
「コレも別の世界の人が見れるんっすか?」
「そうだ」と俺が言う。
「ちょ、何で勇者にボコられてるところを消したんっすか? 1番の見どころじゃないっすか?」
「カッコ悪いじゃねぇーか」
「カッコ悪いのが、面白いんじゃないっすか」
「なんでカッコ悪いのが面白いんだよ」と俺が言う。
「ハリー、アニキの邪魔をするな」とミカエルが言った。
「……わかったっす」
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そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。
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