第9話 筋肉強化
盗賊が獣人の女の子に近づいて行く。
俺は立ち上がろうとした。
だけど殴られたせいで脳が揺れて、地面がグミで作られているように足がもつれた。
ゲームなら頭上にヒヨコが出ている状態である。
盗賊は獣人の目の前まで来ていた。
「やめろ」と俺は叫んだ。
その時、俺達3人の中でひ弱なハリーが盗賊に体当たりをした。
そしてクランチ。ハリーは盗賊を抱きしめて離さない。
「逃げるっす」とハリーが獣人の女の子に言う。
女の子は逃げなかった。
女の子は泣きながら盗賊を睨んでいる。
「尻尾を返せ」と彼女が言った。
ミカエルは撮影を続けていた。
こんな時にまで撮影しなくていいんだ。
撮影はやめて、みんなを助けろ、と俺は思う。だけど、すぐに思い直した。
ある考えが思いついたからだ。
俺は撮影しているミカエルのところに向かった。
ミカエルは盗賊に襲われている2人を撮影していた。
ミカエルが持つスマホを俺は覗いた。
同時接続1K。
初めて見るKという文字。
Kってなんだよ。
1万人!!??
これなら1人ぐらいはいるかもしれない。
俺はカメラの前に立った。
「信じられないかもしれないけど、俺の話を聞いてくれ」と俺が言う。
「俺は転生者で、俺のスキルは収益を物やスキルに変える事なんだ。信じられないかもしれない。今配信の収益は無い。だけど今、女の子が殺されそうなんだ。頼む。オラに力を分けてくれ」
こんな場面で、ついオラとふざけてしまった。なにやってんだよ俺。
「頼む。女の子をアナタ達の力で助けてくれ」
俺はミカエルが持つ画面を覗いた。
『新手の乞食が現れたぞ』
『早くサタンに頼め』
『投げ銭狙い。冷めました』
『それにしても迫力あるな。どこかの劇団がやってるのか?』
「クソ。ダメか。誰も投げ銭してくれねぇ」
と俺は唇を噛み締めた。
「もしコメントの色が変わったら教えてくれ」と俺が言う。
投げ銭をしてくれたらコメントの文字が変わる仕組みだということは知っていた。
俺は、また画面に映るように、スマホの前に現れた。
「みんな、このままじゃあ獣人の女の子と仲間が盗賊にやられちゃう。今こそ、みんな俺に力を貸してくれ。投げ銭をしてくれたら俺はスーパーヒーローになれる」と俺が言う。
まるで特撮ショーの呼びかけである。
「アニキ」とミカエルが言った。
「この文字だけ青色っす」
俺はスマホを覗いた。
『乞食乙』
のコメントの下に、
『やってみろよ 500円』と青文字で書かれたコメントがあった。
500円の投げ銭がされたのだ。
「ありがとう」と俺は泣きそうな声を出す。
そしてスマホのホーム画面に戻り、報酬アプリを起動させた。
右上にメニューがあり、そのメニュー欄からスキルを選択した。
500円でいったい何が買えるんだろうか?
キャンペーン中と書かれたスキルがあった。それが500円。選択肢はそれしか無かった。
『筋肉強化』のスキルをタップする。
ピポン、と購入できた時の音が出る。
スキルを購入した瞬間、自分に筋肉強化のスキルが使えるような気がした。
配信の画面に戻り、ミカエルにスマホを渡す。
そして俺は、ハリーと獣人の女の子をタコ殴りしている盗賊の元へ。
「筋肉強化」と俺は叫んだ。何のスキルを使っているのか視聴者にわかるようにスキル名を叫んだのだ。
体がボコボコと岩のように大きくなっていく。上半身が裸なので筋肉が盛り上がっているのが分かりやすい。
「なんだお前……」と盗賊が怯えた。
「アニキ」と気絶しそうになりながら、ハリーが呟いた。
獣人の女の子は地面に倒れていた。
「まだ50%しか強化してないんだぜ」と俺が言う。
そして俺は盗賊に向かった。
足の筋肉も強化されているおかげて、一瞬で盗賊の至近距離へ。
そしてパンチ。
ワンパンだった。
500円にしては強すぎないですか?
キャンペーン中だから実際の値段はもっと高いんだろうけど。
殴られた盗賊は吹っ飛んで行き、ログハウスにぶつかって気絶した。
俺は盗賊から3本の尻尾を奪い取り、倒れている獣人の女の子の近くに置いた。
「ありがとうニャ」と女の子が泣きながら言った。
「間に合わなくてすまなかった」と俺が言う。
その時、
「そこまでだ」と声が聞こえた。
その声の主を見ると、俺をボコボコした勇者と聖女が立っていた。
「盗賊が出たと通行人から聞いて来てみたら、またお前達か。やっぱりクズは殺しとけばよかったな」と勇者。
「次は殺しましょう」と聖女。
————————————————————
読んでいただきありがとうございます。嬉しいです。
面白かったと思う方は↓の☆での評価やフォローでの応援をよろしくお願いします。応援していただければ、より多くの人に読んでいただけます。
そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます