第4話 スマホのバッテリー1%

 スマホのバッテリーは1%。

 もう少しで俺のチート能力の夢は消えてしまう。

 2人の弟分の顔を見た。

 ハリーもミカエルも孤児だった。

 ミカエルは親に捨てられ、橋の下で丸まって死ぬのを待っていた。

 その当時の俺も下の毛も生えていない子どもで孤児だった。親の顔も知らない。誰にも親切にされた事がない。1人で生きて行くのが精一杯だった。

 俺には死にかけの奴に手を差し出す余裕はなかった。

 だけど死にかけの奴を見殺しにすることも出来なかった。

 俺が持っていたパンを彼にあげたのが、ミカエルとの初めての出会いだった。

 ミカエルは橋の下から動こうとしなかった。だから食料が手に入るたびに、俺は彼にあげたのだ。

 動物と同じで餌をあげたら懐いてしまった。

 しばらくしてからミカエルは俺の後ろに付いて来るようになった。

「アニキ」だとか「ドデカアタマアニキ」と俺のことを呼ぶから、本当の弟みたいに思っていた。


 ハリーと出会ったのは、ミカエルと出会ってから数年後の事だった。

 その頃にはミカエルも多少の盗みを覚えていた。

 ハリーと出会ったのは街である。見せ物小屋の前に彼は立っていた。

 その当時のハリーは7歳ぐらいだったと思う。

 すごく小さい少年だった。

 街で強盗と出会って両親は殺された。ハリーだけが生き残ってしまった。

 親族の引き取り手が無かったらしい。当時のハリーは両親が死んだことも受け入れる事ができず、見せ物小屋の前で両親を待っている様子だった。

 泣きじゃくる少年を俺達は見つけ、あまりにも不憫だから橋の下に連れて行って、わずかな食料を食べさせた。

 本当は幸せな家庭で育っていた奴なのだ。

 俺達は生きて行くために、ハリーの両親を殺した強盗みたいな事をした。

 ハリーは親を殺した犯罪者と同じ事をするのは嫌だったと思う。

 それでも生きて行くために俺達に付いて来た。



 俺は2人の弟分に犯罪をおかさずに生きていける道を作りたかった。

 だけど俺は知識がなくて、力もスキルも無くて、犯罪をおかさないと明日のご飯が食べられなかった。


 自分が転生者だと知り、スマホの能力を手に入れた時、これでようやく2人の弟分に犯罪をさせずに済むと思った。

 なのに……その夢は消えようとしている。


 俺はスマホを見た。

 1%のバッテリーの表示。

 500人も同接されていることが表示されていた。

 俺にとっては大バズりだった。

 だけど充電が無くなったら意味が無くなる。

 今は2000円の収益が必要だった。

 コメント欄には俺が起きたことで歓喜の文字が流れている。


「生配信には広告は付きますか?」

 と俺は視聴者さんに尋ねた。


 別の世界の日本という場所にいる視聴者。


『広告?』

『こいつ守銭奴か?』

『せっかく復活を待ってたのに見るの止めよう』


 涙がボロボロと溢れ落ちた。


「アニキ、大丈夫っすか?」とハリーが尋ねた。


『ミッドロール広告は手動だぞ、おっさん』

 と日本からのコメント。


「ミッドロール広告ってなんですか?」

 俺は震える声で尋ねた。

 俺の知識にはミッドロール広告というモノはない。


『ディスプレイ広告は付いてないぞ』

 と日本からのコメント。


「ディスプレイ広告ってなんですか?」

 と俺は泣きながら尋ねた。


『そもそも底辺すぎて広告付けられないのでは?』

 と日本からのコメント。


 涙で文字が見えない。

 もうスマホの電源は切れるだろう。


「ハリー、ミカエル、すまねぇ。お前達に配信者で稼いだ金でお腹いっぱい食わしてやりたかったけど、無理だわ」

 と俺が言う。

 少年だった頃のミカエルのことを思い出す。

 少年だった頃のハリーのことを思い出す。


「言ってることわかんねぇーけど、泣くのやめてください」

 とハリーが言った。



 その時、

『よくわかんねぇーけど、おっさん頑張れよ  5000円』

 と赤文字で書かれたコメント。

 誰かが投げ銭したのだ。


 やった、これでまだ可能性が残った。

 そう思った瞬間に画面が暗くなった。


 ダメだった。

 ボタボタボタ、と俺の涙が地面に落ちる。


「アニキ」とミカエルが悲しそうに言った。「あんな奴に負けただけで、そんなに泣かないでくださいよ」

「そうっすよ。俺達はアニキが一番強いことを知ってるんだから」とハリー。


「そうじゃねぇーんだ。そうじゃねぇーんだ」

 と俺は首を横に降った。

「犯罪以外の稼いだ金で、お腹いっぱいお前等に食べさせたかったんだ」

 と俺が言う。


 ニワトリのようなモヒカンで、弱いくせにマッチョで、さらに弱い人からしか奪う事ができないみっともない男が、チャンスを掴む事ができずに涙を流した。


 俺は泣きながら、もしかしたら電源を入れ直したら、少しだけスマホが動くかもしれないと思った。

 たまにバッテリーが切れてしまっても、少しだけならスマホが動く時がある。


 それにかけてスマホの電源を付けた。

 

 電源が付いた。


 パッテリー表示は1%。


 俺は報酬のアプリを開く。

 

 そしてお気に入りに入れていたバッテリーをタップした。


 スマホの電源が切れる。


 無理だったか?


 そう思った瞬間、俺の目の前に新品の箱に入ったバッテリーが現れた。













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 そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。

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