第2話 底辺クリエイターはチート能力の夢を見る

 とりあえず休憩するために街まで行って、冒険者ギルドに入った。

 冒険ギルドというのは仕事の斡旋と飲食の提供をしている場所である。

 割りのいい仕事があれば冒険者稼業をすることもあった。

 だけど魔力も無いしスキル無い底辺の俺達には割りのいい仕事は滅多に無かった。割のいい仕事をするためには冒険者ランクを上げないといけないのだ。

 だけど依頼をこなし続けても冒険者ランクは上がらない。ある程度の魔物を倒す実力がないとランクは上がらないのだ。だから魔力もスキルも無い俺達は底辺ランクから抜け出す事ができなかった。

 冒険者達は酒を飲みながら色んな噂話をする。だから冒険者ギルドに行けば情報が集まった。

 盗賊として情報は必要である。冒険者ギルドには休憩しながら情報収集をしに行った。


 なけなしのお金でビールを頼んだ。ツマミを買うほど金は無い。

 俺達の目の前に用意されたのは小樽のようなコップに入ったビールだけである。


 俺は頭を抱えた。

 お金が無いことで頭を抱えている訳ではない。

 異世界転生したのに、なぜ俺は咬ませ犬のチンピラなんだよ!! という事に頭を抱えていたのだ。

 異世界転生したんだったら普通は勇者だろう。魔王でもいい。Fランクスキル保持者だと思っていたら最強でしたみたいなパターンでもいい。前世は日本で大変だったので異世界ではチート能力を使ってスローライフみたいなパターンでもいい。

 なんでムキムキマッチョな脳筋のモヒカンなんだよ。

 しかも、なんで転生してからオッサンになるまで転生者って気づかないんだよ。

 それならそれで、もういっそのこと転生者と気づかずにチンピラ道を歩んで死にたかった。


「アニキすごい落ち込んでるな」とハリーが言う。

「ドデカアタマアニキも落ち込む事ぐらいあんだよ」とミカエルが言う。

 しかも俺の名前はドデカアタマである。日本語では大きい頭という意味である。

 俺はミカエルを睨んだ。

「えっ、俺なにかしましたか?」とミカエルが困惑しながら尋ねた。

「今日から俺の事をドデカアタマって呼ぶな」

「……どうしてですか?」

「お前みたいにカッコいい名前の奴にはドデカアタマって呼ばれる男の気持ちはわかんねぇーんだよ」

「そんな事はないです。ドデカアタマは、すごくいい名前です」

「もう2度と俺を名前で呼ぶんじゃねぇ。ドデカアタマなんて2度と聞きたくねぇ」と俺が言う。


 

 そして俺は溜息をついた。

 目の前にはスマホがある。

 あの青年にボコられて蘇った記憶は幻想ではなく、本当の前世の記憶なんだろう。

 前世の記憶を取り戻したせいで、あんなに似合って最高だと思っていたモヒカンも恥ずかしい。

 今の自分が生き恥に思えて仕方がない。

 半裸なのも恥ずかしい。死んでしまいそう。

 早く服を着たい。だけど服を買うお金すらもない。


「今はアニキに声をかけたらいけない」とミカエルがハリーに言った。「アイツにやられてアニキは落ち込んでるんだ」


 青年にやられたから落ち込んでいるわけじゃなかった。自分がモヒカンのマッチョの盗賊だから落ち込んでいるのだった。


 俺は大きく息を吸った。

 そして転生特典であるスマホを見つめた。

 俺はコレに全てをかける。来いチート能力。

 電源を入れた。

 顔認証らしく、ロックが解除された。


 4つのアプリが入っているだけである。

 1つ目は某有名な動画アプリ。

 このアプリでは短い動画も長い動画も生配信もできる。俺が前世で利用していたアプリだった。


 2つ目は簡単に編集が出来るアプリである。俺が編集作業をしていたアプリだった。ショート動画を作る際にはテンプレートというものがあり、それに動画をはめ込んだら簡単にショート動画が作れるような仕様になっている。それに動画内の言葉を読み取り簡単にテロップを作成する事ができる優秀な編集アプリである。


 3つ目は某有名な通販サイトのアプリ。

 会員なら運送代がタダになる世界的有名なサイトのアプリである。


 そして4つ目は見たこともないアプリだった。報酬と文字が書かれている。


 他の全ての機能は消されていた。使えるのは4つのアプリだけである。

 動画サイトのアプリを開いた。ホーム画面にはおすすめの動画とショート動画が表示される。

 懐かしい。

 胸がドキドキと高鳴った。

 このサイトで人気者になりたかったのだ。

 ショート動画をタップした。

 日本という平和な世界でカードショップの店長がトレーディングカードを開封している動画が流れた。


 次の動画を見るために画面をスワイプしようとした。

 そこで俺はある事に気づいた。

 画面の右上にあるバッテリーの数字が減っている。

 まさか転生特典で貰ったスマホなのにバッテリーが減るのかよ。


 俺は慌ててポケットを弄った。充電器を探したのだ。もしかしたら充電器もスマホと一緒にポケットに入っているかもしれない、と思ったのだ。

 だけど無かった。

 そもそも充電器を貰っていても、この世界にはコンセントが無いので充電ができない。


 詰んだ。


 転生特典だと思ったのに、完全に完璧に詰んだ。

 バッテリーが無くなればスマホはただの板である。

 俺は呆然と天井を見上げた。

 せっかく転生したのに、底辺のまま死んでいくのかよ。


 ちょっと待て。

 コレが転生特典なら、必ず何かあるはずだ。

 他のアプリもタップする。

 

 編集のアプリ。

 通販サイトのアプリ。

 そして報酬と書かれたアプリ。


 見つけた。

 泣きたい気持ちになる。


 前の席の2人が不安そうに、コチラを見ていた。

 そんなの関係あるか。

 咬ませ犬マッチョ半裸の盗賊から脱却するチャンスなのだ。ついでに魔力無し、スキル無し、彼女無し、である。


 報酬アプリは動画の収益をお金に変えたり、某通販サイトのポイントに変えたり出来る使用になっていた。

 お金に変えたら通帳に振り込まれるのか? 俺、通帳無いけど。

 もしかしたら不思議な力で目の前に現れるのか?

 通販サイトで買った物は通販サイト様の力で届けてくれるのだろう。


 しかも動画で得た収益は、現金や通販サイトのポイントに変えるだけではなく、特別な物を購入できるみたいだった。

 魔法系のスキル、攻撃系のスキル、回復系のスキル。それと前世の姿。日本への帰宅まで購入できた。

 欲しい力は全て購入できる。帰りたい場所にも帰れる。

 ただし、ありえない報酬を獲得すれば。

 日本に帰宅は10億円である。

 どんなバケモンが10億円も動画で稼げるんだよ?


 報酬アプリの収益で購入できる物の中には、充電がMAXになった持ち運び充電器もあった。

 なんで充電器が報酬アプリの中に? 普通に通販サイトで購入できるのでは?

 通販サイトで購入したら充電がMAXになっていないのかな?

 充電器を得るために必要なのは、2000円である。

 俺が3年間も動画投稿して2000円の報酬も手に入れることはできなかった。そもそも1円の報酬も手に入れることはできなかったのだ。

 それをスマホのバッテリーが無くなるまでに達成しないといけない。

 無茶だ。

 俺は底辺クリエイターだぞ。


「アニキ」と小声でミカエルが言った。

「アイツ」と彼が指さした先に、さっきの青年がいた。

 後ろには20歳ぐらいの可愛らしい女がいる。僧侶らしく杖を持ち、聖女のような格好をしている。

「あんな女いたか?」と俺は尋ねた。

「離れた場所にいたっす」とハリーが言う。


 俺の勘が間違いなく、アイツは勇者だと言っている。

 バズらなくてはいけない。

 最低でも2000円。

 俺の配信者としての勘が、どうやったら視聴者に受けるのか導き出した。

 勇者に絡む咬ませ犬を演じるのだ。この目線を視聴者様に配信するのだ。

 だだし俺の配信者としての勘は、底辺配信者としての勘である。



 俺は動画サイトのアプリを開いた。

 どうやら俺の前世のアカウントでログインできるらしい。

 アカウントにログインして入り、生配信を押した。

 あれ、配信って広告がついたっけ?

 広告がつくからお金になるのである。

 配信で広告収入が得れるのかどうか、前世の記憶なので忘れてしまった。

 それでも生配信はスタートした。

 考えるより、やるべし。

 俺には時間バッテリーが無いのだ。


「どうも異世界でモヒカンマッチョをやってますドデカアタマです」

 と俺はインカメラにして、叫んだ。

 久しぶりに自己紹介をしたけど声は出た。


「どうしたんっすか? アニキ」とハリーが驚いている。

「ドデカアタマって自分で言ってるじゃないですか」とミカエルが言う。


「私、ドデカアタマは異世界に転生しました。そして今日は弱そうな奴が冒険ギルドにいるので絡んでいきたいと思います」


「アニキ、本当に何やってんっすか?」と不安そうにハリーが尋ねた。

「殴られた後遺症だ」とミカエルが言う。



 青年と、その仲間の女が受付で喋っている。青年が職業適正判断をするらしい。宝玉に手をかざせば自分の職業を知る事ができる。


「こんな弱っちょろそうな奴が冒険者になるだって」と俺は青年を嘲笑った。


「アニキ何を言ってんっすか? さっきやられたばっかりじゃないっすか?」とハリーが言う。


「バカ。それを言うな。殴られすぎてアニキは忘れているんだ」とミカエルが言う。


「そこのネェちゃん。そんな弱そうな奴より、俺と楽しもうぜ」と俺は言った。


「楽しまないで下さい。あんな強い奴の仲間と楽しまないでください」とハリーが言う。


 青年が宝玉に手をかざしている。

「えっ!!!」と受付のお姉さんが驚いている。

「職業は……勇者みたいです」


「ドヒャー、勇者だったのかよ」

 と俺はインカメラ目線で叫んだ。











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 そして『家出少女を拾ったので部屋に連れて帰って一緒に寝たら、その子は魔王の娘で俺はチート能力を無駄遣いしているおっさん勇者だったけど、女の子が懐いてきたのでバカップルになる。そんなことより彼女がクソカワイイ』という作品も同時連載しておりますので、もしよろしければソチラの方も読んでいただければ嬉しいです。

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