第二節(0202)

 居間に戻ると伯父と父は既に食事を始めてた。それもほとんど食器を空にしかけてて、私が置いた仏飯も適当な量かさが減らされていた。その場に祖母も居た。ただ、彼女だけは並べられた食事に手を付けず、サヤコさんが台所から引いてくるのを待っているらしかった。


 夕と違って朝はこんな具合だった。用事のある人から次々に食卓を囲って、ピストン輸送のように母屋を発ってゆく。先にスーツ姿の伯父が居間を辞して、次に作業着らしい半袖のジャンパーを羽織った父が出ていった。


 その伯父と父が箸を進めている姿を、しばらく縁側と居間の狭間から眺めてた。眺めてたというより身動きが取れなくなってたんだね。伯父からは何気ない口調で「まあ座ったい」って催促されたけれど、私も祖母とおんなじに、サヤコさんが戻ってくるまで待とうと思ったの。ところで伯父に催促されると途端に気まずくなって、私はなんとなく用事がある振りをしてお勝手へ向かおうとした。そこに折よくサヤコさんがやってきた。


「あら、コヨリちゃん」ってサヤコさんは出会い頭に顔をぱっと華やがせて、でもちょっと驚いたように言った。「お勝手にまだ用事?」

「いえ、他に手伝うことがあるかなって」

「ええ、ええ、それならもう大丈夫よ」って彼女は優しく言って、それから真に私を食卓に座らせた。


 そうすると、さっきまで無人だった空間が急に濃くなった。この空間で唯一正確に時を刻んでいるニュース番組の右上に表示された時計は、ウィークエンドがやっと八時間を過ぎたばかりであることを示してた。土曜日の朝という贅沢さを、この家では誰も甘受する気がないらしかった。


 本当ならこの時間はまだ夢の中のはずなんだよ。今でこそ昼も夜もない生活を送っているけれど、十七歳の私が普段の土曜日に行うことは、すべてがもう一時間先から開始する。サヤコさんと祖母に合わせて「いただきます」って手を合わせてみたけれど、お腹は空いてるともいえなかった。


 その間にも伯父たちはせっせと箸を動かしていて、ぼんやりしていると真っ先に伯父が食事を終わらせた。彼は食事のあいだ居間の長押に吊るしていたスーツをハンガーだけサヤコさんに預けて羽織り、それでさっきいったように多忙の人の様子で仕事に出ていった。

 横を見ると、父ももうすぐらしかった。


「お父さん、今日仕事だったんだ」って私はぼちぼち箸を進めながら訊いた。

「ああ」って彼はうなずいた。それ以上は会話が続かなかった。

 でもすっかり食事を終えて母屋を出てゆこうとしたとき、彼は突然私の肩をぽんぽんと叩いて、

「トモたちには内緒だかんな」って耳打ちするように言った。

「え?」

「ええ、その通りにすればいい」って父は初めから返事を決めてあったように言って、それっきり玄関まで向かってしまった。縁側の前を抜けるとき、父は笑顔でこちらに手を振った。

「まあず、なにがトモたちには内緒だ、だか」

「おばあちゃん聞こえてたの?」

「そういうろくでもない会話だけは耳ざといんだ」

 そっか、って私は愛想笑いした。


 でも、どうして父がそんなことを言ったのか、その場ではあまり深く考えなかった。疑問が浮かんできたのは朝食の後片付けもすっかり済んだ、ようやく贅沢な朝を満喫できるときになってからだ。


 祖母とサヤコさんと一緒になってテレビを見ている最中に、なんの脈絡もなくふと、昨日トモ兄が口にしたことを思い出したんだ。トモ兄の口ぶりからすると父は生家の引っ越し作業には元から無関心のはずだった。曜日がいつであろうが期日がいつまでであろうが、父が生家に寄り付かないことはトモ兄も理解しているようだった。トモ兄の態度を思い返すに、おそらく父から直接そう聞かされたんだろう。


 それなら父の方ではどうして土曜出勤を秘しておく必要があったの? だって、どんなにトモ兄たちに任せっきりだとしても、何かしら名分は持っていたほうが都合がいいと思うんだ。「仕事なら仕方ない」って、いや、すんなり納得されなかったにしても、交渉の手立てにはなるじゃない。だけど父はまるで正反対のことを私に突きつけていった。


 そうやって一個の疑問が浮かんできたときに、今まで無色透明だった別の疑問が不意に私の頭にひらめいた。それは日付をさかのぼって私がまだ綿入に帰るかどうかを決めあぐねている時期のことで、そのとき父から「週末のほうが都合がいい」って打診があったんだ。「それなら駅まで迎えに行ってやれる」って。


 私はなんていうか、かなり優柔不断なところがあって、自分自身で決断できないときは他人に判断を任せて、そうやって自然と形作られていった成り行きに身を委ねてしまうことがある。この時もまさにそうで、父からの打診を運命のように決めてかかると、それで問題ないという返事を母から伝えてもらうことにした。


 それから日時の詳細を擦り合わせる段になっても、母いわく土曜日だったらいつでもいいってことだった。まあ、君も知っての通り、結局は私がぐずったせいで計画もずいぶん狂ってしまったわけだけど、ここでの問題はなぜ父の方から予定を週末に合わせて来たのかってことだよ。


 綿入に滞在しているあいだにちょっと探りを入れてみたんだけど、この時期の父はどの土曜日にもシフトが組まれてるらしかった。若い社員は週末出勤を避けたがるきらいがあって、それで何年も前からロートルの父に週末が任されていたんだって。とすると私の方では謎が深まる一方だった。

 結局この謎は自宅まで持ち帰ることになって、何日か経ったあと母に訊いてみたんだ。そのとき母はひどく呆れてた。


 母の見解はこうだ。まず私たちについた嘘には父なりのよくわからない固定観念があって、要するに父は彼自身にではなく私の側に週末を希望する気持ちがあると踏んでかかったっていうんだ。


「だけど夏休みなんだから曜日なんて関係ないよ」って私は母を父に見立てて反論した。すると母は、

「それでも週末のほうがいいと思ったんでしょ。理由はわからないけれど」

「その理由が知りたいんだよ。夏休みに入ってからだってことはお父さんにも伝えておいたのに」


「私はあの人じゃないの」って母は言った。「でも、昔からそうなのよ。勝手にこっちの事情を決めつけて、多少無理でもその事情に合わせようとするの。それが真実こちらの事情ならいいけれど、大体のところそうではないでしょう。だから、当たり前だけど齟齬が生じるじゃない。だけど生じたとしてもお構いなしなのよ。自分がこうと決めた事情に無理やり相手を押し込めようとするんだから。それだって念頭には自分が相手のために犠牲を払ってやるって義心があったはずなのに、いつの間にか相手のほうが犠牲を払うべきだって理屈にすげ変わってる。そうやっていつもトラブルばっかり巻き起こしてるのよ。独り相撲というか、はた迷惑な人というか」


「お父さん、見た目より思い込みが激しいんだ?」

「違うわよ、融通がきかないだけ。それにそうね、自分がこういう思考や状態なんだから、他人も同じように考えてるに違いないって、誰に対しても決めつけてかかってる。平たくいって想像力の欠如」

「ひどい言い草」って彼女の苛立ちの度合いを見て、私は笑って済ませることにした。これ以上突っ込むと母が爆発する。


 だから「それならどうしてトモ兄たちに対しては週末が休みであるような印象を付そうとしたのか」っていう本来の疑問は、また日を改めて訊ねたの。


 いわくこっちの疑問については、それが父の外交スタンスなんだろうってことだった。というのも父とトモ兄たちとの関係は生家の件が発覚する以前から冷え切っていて、トモ兄たちの方はいささか冷静だったけど、父の方では彼らに敵意を抱いていたようなんだ。十七歳の夏の時期に父が祖母の家に厄介になっていたのも、元を辿ればこのあたりが原因なんだよね。


 それで、母の言を借りたまま続けると、私の父という人は一旦敵だと判断した相手に対して秘密主義を貫く癖がある。秘密主義というと大げさかな。要は無関心を装うために、自分にとって有利な情報でさえ一切与えないという、徹底した態度を相手に取るの。そうすることで精神的な優位を勝ち取っているつもりらしいんだ。例えばその情報が必要なものであったとする、そして根負けした相手が父に訊ねに来るとする、そのとき父が平静な態度でいればそこで勝敗が決するというわけだ。あくまで父の中ではね。


「それじゃお父さんが馬鹿みたいじゃん」

「馬鹿じゃなくて子どもなの。だからやることなすこと全部子ども騙しなのよ」

「だからお母さんは愛想が尽きたんだ?」

「じゃなきゃ離婚なんてしてないわよ」って母は言った。「私にだって意地が……あったんだから」

 それから母はいつものようにシンクに立って、苛立ちのバロメーターのタバコに火を入れた。それでこの話も終わり。


 ああ、でもね仔猫くん、決して勘違いしないでもらいたいのは、私はいついかなるときも父を恨みに感じたりはしなかったということだ。母の推測が正しければ、たしかに彼は情けない人物だったけど、それにしても私からすると肉親であり唯一の父親だ。言動に呆れてみることはあったとしても、心から軽蔑することはできなかった。


 それにね、仮に父とトモ兄と、どちらかの肩を持つべき場面に迫られたとしても、それでも私はきっと中庸を保つだろうと思う。一方に肩入れすることはできない。なぜなら近視眼的に姑息な手段で立ち回ろうとすることについては、トモ兄も同じ穴のムジナだからだ。


 頭に浮かんだ疑問にぼんやりふけっていると、朝食のあとネジの巻き直された柱時計が九時の音を鳴らした。それからしばらくもしないうちに玄関先の黒電話がベルを響かせて、サヤコさんが向かうと、すぐに私が呼ばれた。


 玄関に着くと、サヤコさんは、

「トモくんからよ」って言って受話器を渡した。


 なぜだか祖母の家では電話機が玄関の靴箱の上に置かれてあったんだ。上がり框に立って肘を靴箱に載せると、受話器を当てるのに具合いい格好になる。


「もしもし」って私はずっしりと重い受話器を耳に当てて言った。

「おう。コヨリか」って、聞こえてくる声は少し機械的だったけど、紛れもなくトモ兄だった。「伯母さんはどうした?」

「居間に引いちゃったよ。呼んでこようか?」

「いや、それでいいんだ」ってトモ兄は言った。「お前、うまくやってるか?」

「それなりに。もちろん自分ちと同じようにはいかないけれど」

「そうじゃなくてよ。要するに大丈夫かってことだよ」

「大丈夫って、なにが?」

「昨日のこん、バレてねえだろうなって話だ」

「ああ」って私はつぶやいた。てっきり心配をしてくれてるのかと思ったら、そういうことだったんだ。


「わかってるよな、俺と会っただなんて……」

「そうだね。うん。それは大丈夫」って遮るように私は言った。言ったあとになにか皮肉を返してやりたくなって、「ああ。そうだね。うん。お兄ちゃん。すごく久しぶり。十年ぶりだもんね。懐かしくって涙が出そう」


「ふざけてる場合じゃねえ」って彼は冗談の通じた様子で言った。いや、だけど、ふざけてるのは全般トモ兄の方だ。「まあ、とにかく、問題はねえんだな?」


「私からは何も言ってないよ」って私は急に素に戻して言った。「みんなを騙してるみたいで気分はよくないけどね」

「嘘も方便だ」

「トモ兄に都合のいい、ね」って私は付け足した。「それで、トモ兄の方は、あれから大丈夫だったの?」

「ああ、俺?」って彼は言った。「そりゃ遅刻してんだから大丈夫なわけはねえけどよ。まあ、口先でどうにか切り抜けた」


「で、それよりもだ」って彼は続ける。「なあ、コヨリさ、実際のところ俺は昨日お前のことをばあちゃんちまで送ってやったよな」

「事実か真実かによるね」

「実際のところって言っただろ」

「うん。それで?」

「いや、なに、要は新町の家(生家のことを私たちは昔からこう呼んでいた)まで歩いて来てくれねえかって話なんだ」


「は?」って思わず私は聞き返した。「今日は、だって、トモ兄が迎えに来てくれるんじゃなかったの? ああ、つまり、事実としても真実としても」


「だからよ、その分は昨日お前を送ってやったことで先払いしただろ? そうすると今日はお前がツケを払う番ってわけだ」

「ちょっとその理屈が通ってるのかわかんない」って私は言った。「ツケは、だから、みんなには内緒にしておいたよ?」

「まあ理屈は別にどうでもいいや」ってトモ兄は自分から言いだしたことなのにすぐに身を返して、急に方針を変えてみせた。「よくよく考えてみりゃ、コヨリに一人で向かってきてもらわねえと俺らが困るんだ」

「それはどう困るんだろう」、私の方ではことが面倒な方向に転がり始めてるのを感じながら言った。


 とどのつまりトモ兄の説明は昨日と変わらなかった。これから引っ越しの準備を控えているのに、祖母の家へ挨拶に上がっている暇がないんだそうだ。どうせ建前で、本音は面倒を避けているだけなんだろうなと私は聞いていた。もしくは……もしくは父と顔を合わせたくないのかもしれない。だとしたら父の不在を打ち明けてやるべきだけど、そこには箝口令が敷かれてる。


「おばあちゃんたちには、どう説明すればいいの」って私は言った。どうも私の立場では反論の材料に不足して、トモ兄の要求を呑むしかなさそうだった。

「素直に歩いて向かうことになった、でいいだろ。大した距離でもねえし」

「心象は悪くなるよ」

「そんなもん、うまくやってくれや」って彼は言った。「出掛けに用事ができて迎えに行けなくなった、とか、方便はいくらでも用意できるじゃねえか」

「またそうやって私に重荷を負わす」

「ええ、そんな大したことじゃねえだろ。その場さえ納得させられりゃ、なんでもいいんだ」って彼はやや苛立ち気味に言い、「ほんじゃ、頼んだぞ」

 それで電話は一方的に切られた。耳から離した受話器をしばらく凝視する。ため息が出た。


 自分が不器用だってことは昔から嫌というほどわかってる。周りに隠しているつもりもない。でも父もトモ兄も私に器用を求めてくるんだ。だから私は二人のいずれにも肩入れをするつもりがないんだよ。


 居間に戻るとサヤコさんはトモ兄の様子を訊いてきた。一般的な社交辞令としての態度だったけれど、思ったより長電話だったことに心配している風でもあった。

 仕方なく、トモ兄の用意した口実をそのまま伝えることにした。幸い通話内容自体は居間までは届いてなかったようで、祖母もサヤコさんもいくらか不審がりつつも最終的には納得してくれた。


 ただ、そうするとサヤコさんは、

「それでしたら、私の車を出しましょうか」って言い出す人だった。


「え?」って私はどきりとして言った。「いえ、そこまでは、大丈夫です」

「ですけれど」って彼女は言った。

「全然、大した距離でもないので」


 実際祖母の家から生家までそれほどの距離があるわけじゃない。どだい同じ綿入の中のことだから、端と端とはいっても精々三十分とあれば着いてしまう。だけれども狭い空の街並みに育てられた私と違って、田舎の人たちは僅かな距離を歩くことにも敏感だった。


 サヤコさんの気遣いを辞退するのに、私はこれにもずいぶん骨を折ったんだ。彼女の尊厳を損なわないように、言葉を一つ一つ選ぶ必要があったわけだ。相手を傷つけずに申し出だけをすんなり断る、そんな綺麗な方法があるならどうか教えてほしいところだよ。


 最後には祖母の助けもあってどうにかサヤコさんを巻き込まずに済んだわけだけど、ああ、まったく、これだから私は嫌なんだ。トモ兄は物事を平面的に処理しようと企むけれど、平面には左と右があるってことを彼は知らない。作用に対しては必ず反作用が生まれるんだ。人のいいサヤコさんのような人は、常にその反作用を背負い込もうとしてしまう。作用の裏で事態を中庸に調整することは、思っているよりも難しい。


 例えばこうだ。

「それでしたら、自転車をお使いになります?」って彼女は一つの提案が崩されると、妥協点を見出すように次にそう言った。「少し古いのですけれど、昔使っていたものが、まだ取ってありますから」


 いや、たしかにこのときのサヤコさんはちょっと過保護だった。彼女には二人の息子しかいなくって、三人の娘を持った祖母と違い女の子を育てた経験がなかったの。あるいは他人の子どもを預かってるという意識だってあったかもしれない。とにかく私が奔放になろうとすると、彼女はいつものサヤコさんではいられなかった。


「ああ、でも、帰りは送ってもらえるはずなので」って私はとっさにひらめいた言い訳を利用した。

 それでようやく収まった。こういう後始末を考えずに、トモ兄は簡単に言ってくれるんだ。


 だから、ねえ、仔猫くん、君だって注意が必要だよ。もしも君が将来的にずる賢さを獲得して、そいつを自分の利益のために用いてしまうと、必ず私やサヤコさんのような、尻拭いの役を生じさせてしまう。そこで消費されるエネルギーは君が思いつきに使用した量よりも実に膨大で、きっと誰かを疲弊させる。


 ううん、ことがそれだけで済むならまだいいの。そうして他人に消費を強い続けたツケは、いつか君自身が支払わされることになる。だって、そりゃそうだよ、他の誰かが労力や心情を融資し続けていたものを、ただ君がその場その場で利益と感じ続けていただけなんだから。そして返済が滞ると、多くの人は君を見限って、そっと君のもとから離れてく。あとに残るのは孤独の日々だけだ。


 そして悲しいことに、こうしたほとんどの策謀家は原因に思い当たらないまま、孤独と苦悩の日々を続けてく。長年に渡ってこつこつと積み上げられてきた鬱積が、まさか自分をこんな場所へ陥れてるだなんて、想像もしないの。身の回りで起こることはすべて近視眼的な結果の連続で、失敗というのは、一手なにかを間違えただけの綻びでしかないと考えるんだ。仮に優しい誰かが諭してあげても「まさかそんな下らないことで」って歯牙にもかけようとしない。返って彼らは、孤独の穴から抜け出すために、もっと大掛かりな小手先の罠を張ろうとしてしまう。省みることだけが唯一その穴から抜け出せる道筋なのに、彼らは真逆の方向を指し続けてしまう。


 この美しいばかりの夏の日々の物語のなかではおそらく触れることもないだろうけど、いずれトモ兄もそういう孤独の穴に陥った。彼はずいぶん悩んでいるようだったし、今もきっと悩み続けてる。だから私は今の話を、決して勧善懲悪のシナリオや道徳的な絵空事として語ってるわけじゃない。これは現実に目の当たりにしてきたことなんだよ。


 だけど目下のところとして、この時期のトモ兄は世の中がすべて順調に回っていると思いこんでたし、見かけ上も実際その通りに運ばれていた。あとで私の口から突きつけられる不満も、彼にとっては些末なことだ。


 ようやくことが一段落つくと、私はいそいそと外出の準備をはじめ、五分後には祖母の家を出た。昨日の散歩のときと違ってカンガルーポケットに文庫本を収める暇もなかった。約束なんてもうあってないようなものだったけど、それでも徒歩で向かうとなると予定をいくらか押してたの。


「行ってきます!」の挨拶で発つ。

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