処す

 「大丈夫?治癒ヒール」(※本来は人を回復させるための魔法。アルベルは魔法を人外にも通用するようにイジった)

 

 「クゥーン!」


 俺は回復魔法でハンちゃんの傷を治す

 傷が癒えるとハンちゃんは元気良さそうに鳴いた

 

 

 「家族?もしかしてテイムした魔物だった?」


 「あぁ。お前らはその家族に手を出したんだ。ただじゃおかねぇぞ……!!」


 「ごめんなさい!そうだとは知らなくてつい!」


 「ごめん?そんな言葉で済んだら地獄はいらないんだよ」


 冒険者たちはハンちゃんが俺の家族だと知ると一転して頭を下げてきた

 ……こうは言ったけどやる気失せるな。そんな頭下げられたらやりにくいな

 ダメだ!やる気が失せても主としてケジメはつけさせないと!



 「本当にすいません!」


 「…………いい?ハンちゃん?」


 「クゥーン!」


 冒険者たちは再三、頭を下げてきて挙句の果てに土下座までしてきた

 こんな誠意を見せられて攻撃するのは野暮な気がする

 ハンちゃんに見逃していいかと聞くと元気良く鳴いた

 多分オッケーって言ってる(※アルベルはハンちゃんが何を言っているのか分かっていない)

 ハンちゃんがオッケーなんだし見逃すか



 「もう二度とやんなよ」


 「はい!すいませんでした!!」


 冒険者は再び頭を深々とさげてきた

 ここまで冒険者が来るとはな

 (※アルベルが住んでる辺りは森の深くで盗賊団のアジトもあるため一般人はおろか冒険者も近寄らない)



 「あ、あのぉ〜」


 「なんだ?早くどっか行け」


 「私たち何も食べて無くて死にそうなんですけど」


 「だから?」


 「何か食料を恵んで頂けませんか?」


 面倒くせぇ。これだから人付き合いは嫌いだ

 見逃してやったのに次は食料が欲しい?

 お前らの事情なんか知るかよ



 「知るか。植物でも食ってろ」


 「もう限界なんです!こんな以上奥進んでも家無いですし……」


 「あのな、人に頼る前に自分たちでどうにかしろよ。ここらへんなら食べられる植物はいっぱい生えてる。それ取って食えばいいだろ」


 「でも、どれが食べられる植物かわからないし……」

 (※アルベルの家付近には様々な植物が生えており、食べられるものもあるが食べると死を呼ぶものもある。その植物たちは見分けるのが大変難しい。アルベルは鑑定スキルで食べられるやつを採取出来るが、鑑定スキルを持っていないものは小さな違いに気付くしか無い)

 

 

 「鑑定スキル使えばいいだろ」

 (※鑑定スキルとはものを鑑定出来るスキル。植物を見分けたり、魔物の素材を見分けるのに使われる。人に使うことは出来ない。習得の方法はほとんどが先天性。だが、まれに植物や魔物を専門的に研究していると身につくことがある。アルベルは努力で習得してしまった)


 

 「そんなスキル持ってないし……」


 「じゃあ知らん」


 マジで面倒くさい奴らだな

 自分たちでどうにかしてくれよ



 「植物食えないなら狩りでもすればいいだろ」


 「狩りの方法分からなくて、毎回失敗しちゃうし……」


 「お前たちサバイバル向いてないだろ。それでよくこんな奥まで来たな」


 「お願いします!人助けだと思って!!」


 「知らん。自分たちでどうにかしろ」


 俺はそう言い放つと家の扉を閉めた

 もう関わるのはごめんだ

 飢え死にしようが魔物の餌になろうが俺は知らん

 準備をしてなかったあいつらが悪い



 「どうする?これじゃあ本当に死んじゃうよ」


 「奥まで来たせいで戻る道分からないしな……」


 「それに森の奥には盗賊団のアジトがあるって聞くだろ」


 「あの人が頼みの綱なのに……」


 冒険者パーティーはアルベルになんとか助けてもらおうとしたが、アルベルが見向きをせず家の中に入ったため、窮地に立たされていた

 冒険者たちがいる場所は盗賊団のアジト、魔物など様々な危険が渦巻く場所なのだ

 そして、自分たちにはサバイバル能力がない。誰かのスネをかじらなければ森で生きていけない

 


 「方法はある。襲えばいい。で、家を乗っ取る」


 「それじゃあ盗賊団と同じじゃねぇか!」


 素手の男が悪い顔でアルベルの家を指差した

 盾の男が目を丸くして声を荒げる

 剣を持った女も盾男同様、目を丸くした

 


 「生きるには仕方ないだろ。それにこっちは3人、相手は1人だ。なんとかなる」


 「でも、私たちの攻撃効かなかったよ」


 「それはたまたまだ。俺たちの本気をぶつければいけるさ」


 素手の男は力を合わせればアルベルを倒せると豪語した

 だが、ほか2人は半信半疑で素手の男の話を聞いていた

 


 「っていう会話をしてるのね。人って追い込まれると変わるもんなのかな」


 アルベルは家の中から冒険者パーティーの会話を盗聴スキルで聞いていた

 (※盗聴スキルとはある一定範囲の会話を聞くことが出来るスキル。習得に時間はかからないが、用途が限定的過ぎるためあまり使用されていない。範囲は人によって変わり、アルベルの場合は国全域。なお、一般的には半径50mが限界と言われている)



 そういう手段を取るのか。まぁやる気なら相手するけど

 せっかく見逃してやったのに、それを無駄にするまでが早いな

 生きるために豹変しちゃったのかもしれないけど、残念だ



 「なるほど。女が扉を叩いてくると。それで女の魅力を使って油断させる。で、油断してる隙に2人で倒す」


 冒険者パーティーはアルベルが盗聴してるにも関わらず、作戦会議をしている(気付くのは無理)

 アルベルは作戦の流れを知っているため、あらかじめ扉の前に立っている

 俺に勝てるって思ってるみたいだから痛い目に遭ってもらおう

 


 コンコン

 

 「何?今度は?」


 「気持ち良いことしませんか?」


 女はそういうと誘ってくるような顔で上着のチャックを少しずつ降ろし始めた

 なるほど。これで気を抜かせる寸法だったわけだ

 知ってるから意味無いけど。それにそういうの間に合ってるんで



 「気ぃ抜いてんじゃねぇよ!変態!!」


 「閃光拳フラッシュストレート!!」


 「象牙突進アイボリーラッシュ!!」


 「グルゥゥ!!」


 女の後ろから男が2人現れて、俺めがけて攻撃してくる

 ハンちゃんが駆け寄ってきてるけど手で制止した

 これは俺が倒す。ハンちゃんたちを巻き込むわけにはいかない



 「守護結界ゲレニウス


 「クソ!なんで効かねぇんだ!」


 「割りと本気だったぞ」


 2人の攻撃は俺の張った結界に防がれた

 冒険者たちは引いて、俺と距離を取る

 男どもの息が上がっている。さっきの攻撃に賭けていたわけか

 あの程度の攻撃で倒そうと思っていたのか……なめられてるな

 


 「やめるなら今のうちだぞ?」


 「うるせぇ!俺たちには命がかかってるんだ!」


 俺が諭すように言うと素手の男が猛反発してきた

 戦う方が命かかってるけどな……

 


 「自分たちが悪いのにそれを他人を傷つけることで補おうとしてるお前たちはクズだ」


 「黙れ!あんただってなんでこんなところ住んでんだよ?あんたこそ過去になんかやったんじゃねぇのか!」


 「俺がここに住む理由なんか知る必要ないだろ。お前たちには関係無い」


 変な推測してるな。めんどくせぇ、人間って

 


 「なるほどな……あんたは過去に罪を犯した。それから逃げるためにこんな森奥に住んでるわけだ。なら、犯罪者を捕まえたってギルドに言えば報酬がもらえる。あんたのテイムしたハンターベアだって狩らせてもらう。そうすりゃ大儲けだ!」


 「勘違いも甚だしいな……それでいて家族まで奪おうってか?処してやる……!!!!」



 自分がこれからやることを正当化してる。頭のネジがぶっ飛んだか

 正気の人間ならこんなことを言うやつはいないだろう。人間って追い込まれるとここまでイカれるのか。やっぱ人間めんどくせぇー

 家族奪う発言しやがった。絶対に処す。一度のみならず二度までも……

 俺は静かな怒りを露わに冒険者たちをにらみつける

 素手の男以外の2人が俺の迫力に怯んだ



 「粉骨砕拳クラッシュストレート!!!」


 「真力剣斬ヴレ・サンサーベル!!!」


 「熊手突進ベアードクラッシュ!!!」


 「守護結界ゲレニウス


 冒険者たちが一斉に攻撃してきたが結界を破ることは叶わない

 同じことの繰り返しだ。単調な攻撃、隙がいくらでもある

 試しに技を使わせてもらおう

 (※アルベルは特殊スキルの模倣スキルを持っているため、一度見た技を完全に使いこなせる)

 (※模倣スキルは先天性である。そのため、習得することは出来ないはずなのだが、アルベルは努力で習得してしまった)



 「粉骨砕拳クラッシュストレート


 「ウッ…!!ガハッ……!!」


 「ハンス!!」(※盾持ってる男)

 

 俺が素手野郎の技を盾男にぶっ放したら、盾ごと男を大木までふっ飛ばしてしまった

 盾は粉々に砕けている。男のことをパーティーメンバーが起こそうとしているが気絶しているため目を覚まさない

 意外と使いがっていいな。これからも使わせてもらおう。使う機会があるかは謎だが



 「てめぇ!!よくもハンスを!!!!」

 

 「お前らが悪い。自業自得だ」


 「死ねやぁぁ!!!龍骨碎拳ドラコスストレート!!!!」


 「はぁ?」


 「嘘でしょ……ルターの攻撃を止めた…?」(※素手の男)


 俺は向かってきた素手野郎の攻撃を片手で止めた

 男も女も目を丸くして信じられないといった表情をしていた

 この程度、魔法を使うまでもない

 


 「闇の道ダークロード」(※闇を操る魔法。人体に流すのが主な戦法になるため、拷問などで用いられることが多い。闇は一定であるはずなのだが、アルベルは闇の濃さや威力を自由自在に操ることが出来る)


 「はなせ!!!! うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 「うるさい……静寂サイレント」(※今回の範囲は森中。森の全域で音が消えている)

 

 俺は離そうとする男の手をがっちり掴み、闇を体に流す。闇が流れた瞬間、男は森中に響き渡る絶叫した。うるさい。耳障りだな。森をうるさくはしたくない

 1分ほど男の体に闇を流し続け、立つことも出来ない男の手を放す。男の顔からは生気が消え、瞳も色を失っている

 女がすぐに駆け寄り体を揺すったり、声をかけたりするも返答はない。意識が無いというより、返答する気力がない

 闇は心身に多大な影響を及ぼす。闇をもらい続ければ廃人確定コースだ。1分程度であれば、後遺症程度で済むだろう

 俺と俺の家族に喧嘩を売ったんだ。これくらいの罰は当然だ



 「やるなら相手をする。戦う気が無いなら帰れ。ここはお前たちが居ていい場所じゃない」


 「は、はい……すいません……」


 俺が冷たく言い放つと女は後退りをして俺から距離を取る

 間合いをとった?まだやる気か?

 俺は警戒を解かず女の動向を監視した



 「ハンス、起きて!!」


 「ルターも起きてよ!!」


 女はルターを担ぎ、ハンスが倒れている場所に一緒に寝かせる

 女はハンスとルターを交互に呼びかける

 だが、ハンスは何も言わず、ルターは「あぁ…うぅ」など言葉にならない声をあげ続けている

 女は2人の反応を見て声を詰まらせ涙を流す。女の両目からポロポロと涙が流れている。時折、嗚咽が聞こえる

 自業自得だな。でも、これは可哀想な気もするな。会話を盗み聞きしていたかぎり女は襲撃に乗り気じゃなかった

 自分はほとんど攻撃してなかったし……俺の気を引かせるために魅惑してたけど、下手だったし。ウブにやらせたら失敗するよ

 女の嗚咽が周囲に響いてる。女は嗚咽も堪えられなくなり泣き始める



 「助けて……くれませんか…?」


 「自分がどの立ち場で言ってるか分かってる?」


 女が泣き止んで俺を方を見てくる

 何かを訴えるような目つきだ

 

 

 「やったことは申し訳ないと思ってます……」


 「で、謝ればいいと思ってんの?」


 「違います!迷惑をかけたのは事実ですが……2人をこのままにしておいたらどうなってしまうか……ですから、保護して頂きたいんです」


 「自業自得じゃん。俺は知らないよ」


 「お願いします!」

 

 女が土下座してくる。仲間のために自分のプライドを簡単に捨てれるのか

 この一連が演技という可能性がある。というか演技だろ

 仲間がやられてピンチです。泣くことで同情してもらおうとか思ってんだろ

 連帯責任だ。お前たちでどうにかしろ



 「無理。自分たちでどうにかしろ。あと早くここから消えて。邪魔だから」


 「そんな……!!見殺しにするのですか?」


 女が信じられないといった表情でこちらを見てくる

 演技力高いな。冒険者じゃなくて他の職業だったら活躍出来ただろうに

 


 「聞こえなかった?。これ以上居座るなら消すぞ」


 「ヒィ…!!す、すいませんでした!!」


 俺が脅しをすると女は男2人を抱えてどこかへ消えた

 やっと邪魔が消えた。ゆっくりしよう



 ――――――



 「寒い……」


 先程の冒険者パーティーが森を抜けようと森の中を右往左往している

 女が男2人を背負った状態だ。未だにハンスの目が覚めない。ルターはどうにもならない(※女は演技などしていない。アルベルの勘違い)

 迷っているためどう行けば出られるのかを探している最中だ

 だが、うまくはいかない。森は気温差が激しい。慣れれば支障は出ないのだが、森に慣れていないこの冒険者たちは夜の寒さで体が凍えている。さらに雨上がりであるため気温が一気に冷えているのだ



 「何か火を……」


 女はちょうど良く見つけた切り株に腰を落とし、男2人を側で寝かせる

 女は火を起こすため周りの捜索を始めた。寒さで体が凍えているため捜索範囲は狭かったが、使い物になりそうな木の枝を見つけることが出来た

 


 「これで火を……」


 女は拾った木の枝どうしをこすり合わせる。摩擦で熱を起こそうという作戦だが、寒さで手がかじかんでいるのと、雨上がりで湿度が高いため思うように火がつかない

 (※サバイバル知識0であるためなんとなくで火を起こそうとしている)



 「どうやったらつくの……?」


 「ヴォォル」


 「ヒィ!!魔物!?私1人じゃ無理だよ!!」


 中々火がつかず困惑していると近くで魔物の声が聞こえた

 女は精神的にも肉体的にも限界である

 朝から何も食べず、戦闘に参加させられて、大の男2人を担いでいる

 今の女に魔物と戦う気力はない

 それでも、女は仲間を守るため剣を抜き、魔物を探す

 


 「ゴブリンの群れ!?こんないっぱいは無理だって!!」


 女が辺りを捜索していると近くにゴブリンを見つけた

 ゴブリンの方に寄っていくと一体だけでなく少なく見積もっても数十体はいる

 女は不幸なことに群れと遭遇してしまった

 (※ゴブリンは魔物の中では最弱クラス。だが、群れることで危険度が一気に増す。数が多ければ多いほど危険。ゴブリンには様々な亜種が存在している。木の実や動物の肉を餌としているが、時折人間も食べる。ゴブリンは繁殖力が強いので多種の生物だろうと交尾する。人間も含まれる)

 


 「ヴォォル!!」


 「誰か、誰か助けてぇぇ!!」


 ゴブリンたちは女を見つけるとニタァと気味の悪い笑みを浮かべた

 気味の悪い笑みを浮かべたままジリジリと女に一斉に近づいていく

 女は逃げようと後ろを振り返るも後ろにもゴブリンがおり、女は囲まれてしまった

 女は腰を抜かし、その場に尻もちをつく。その顔は恐怖、絶望で支配されていた

 女は必死に助けを呼ぶが、その声は誰にも届かない



 「イヤァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 女の悲鳴が森全域に響いた

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