家族は守る

 コンコン

 

 「ご報告が」


 「入れ」


 リマーンが自室で作業をしていると扉がノックされ職員の声が扉越しに聞こえた

 リーマンは作業の手を止めることなく、入ってきた職員の顔すら見ようとしなかった



 「赤誠せきせい盗賊団の構成員が捕まりました」


 「またか?場所は?」


 「魔物の森です」(※アルベルが住んでいる森のこと。正式な名前は無いがギルドではこう呼ばれている)


 「今月入って50人目だぞ。冒険者がやったわけでは無いんだろう?」


 「はい。赤誠せきせい盗賊団を捕獲する任務は受注されておりません」


 「一体誰がやったんだ……」


 リーマンは作業を止め職員の話に耳を傾ける

 リーマンの頭を悩ませているのはアルベルの行方だけでない。最近、盗賊団が頻繁に捕まるのだ

 誰がやっているのかは謎。ギルドとしてはありがたいのだが、首謀者がどのような意図を持っているのか分からないため不気味なのだ

 故にギルドは盗賊団を捕獲している首謀者を探している。敵か味方かはっきりさせるために

 (※全部ではないがほとんどアルベルの仕業。アルベルがボコした後に森の出口付近に転がしているのですぐ見つかる)



 「捕まえたやつは口を割ったのか?」


 「いえ。自分が捕まるまでの記憶が曖昧になっていて、口を割る以前の問題です」


 「他の奴らと同じか……」


 リーマンは今回の捕獲者が首謀者の手がかりにならないと分かると困った表情を浮かべる

 誰に捕まったのか?という質問に対して捕獲した盗賊団の人間は全員口を揃えて「分からない」と答えた

 さらに、捕まる前の記憶が混濁しており、盗賊団の情報すらも聞き出せない

 酷いものは会話がままならない者もいる

 (※アルベルが捕まえた奴に記憶を混乱させる魔法と記憶を喪失させる魔法を使っているため、このような事態になっている。この魔法はやりすぎると廃人化し、廃人化しなくても認知症のような後遺症が残る。危険過ぎるため禁断の魔術に認定されている。なぜそんなようなことをしたのかというと捕まったやつが自分の名前を知っていた場合、居場所がバレることになる、容姿を詳細に言われたら知ってる人には気づかれる。世間から気づかれないようにするには記憶をめちゃくちゃにしてしまえばいいと結論出したためである。だが、アルベルが全員やったわけでないので残りは……)



 「症状を見るに禁断の魔術を使われてる」


 「記憶混濁メモリートゥーベルですか?」


 「いや、それだけじゃない。おそらく記憶喪失メモリーロスも一緒だ」


 「併せて使われてると?」


 「あぁ。詳しいことは検証してからだが、禁断の魔術を使ってるのは間違いない。ならば、首謀者は絞れるかもな」


 リーマンは手を顎に置き、頭を回転させる

 リーマンの頭の中に候補者が浮かんでは消えを繰り返した

 浮かんだ人物の中にはアルベルもいた。だが、アルベルはそんな事はしないと信じているため候補からすぐに消えた

 


 「禁断の魔術を使えるとなると、かなりの手練か、私たちの知らないような魔法を知っている魔法院の仕業ということですか?」

 (※魔法院とは魔法の研究を専門とした国の機関)


 「あぁ、おそらくはそうなるだろう」

 

 「でも、魔法院の人間がやったとしてどうしてギルドに言わないのでしょう?」


 「禁断の魔術が使われてるからだろ。禁断の魔術を使ってると公になれば終わりだ。国からも見放され魔法院はすぐ解体だ」


 「なぜ禁断の魔術を……?他にも禁断の魔術の研究を?」


 「それ以上は無しだ。今は仕事に取り組め。そこから先は違う奴ギルド外が咎める」


 「……失礼しました」


 リーマンは職員が部屋から出ていくのを見届けた後、椅子にもたれかかった

 もし魔法院が関わっているなら、事が大きくなる。誰か1人のせいであってくれと願うばかりだ

 リーマンはタバコとライターを取り出し喫煙を始める。リーマンはストレスが溜まるとタバコを吸うので、リーマンの部屋は喫煙室と同じ部屋づくりになっている

 


 「ふぅーとりあえずあいつに電話か」


 リーマンはタバコを灰皿に捨てると机に置いてある受話器を取り電話をかけた



 ――――――



 「もしもし、こちら魔法院院長・ハンスです」


 「リーマンだ。早く白状しろ」


 「いきなり、なんのことですか?」


 魔法院・院長のハンスは自室の椅子にもたれかかり優雅にコーヒーを飲んでいた

 休憩中に電話が鳴り、面倒くさいと思いながらも受話器を取った

 


 「とぼけんな!最近連続で捕まってる盗賊団、お前たちが禁断の魔術使ってるだろ。全員記憶がイカれてんだ。実験台にしてんじゃねぇのか?」


 「そんな根も葉も無い噂を……我々は第一に人を実験対象にはしません。法律・憲法にも魔法の実験対象は人外のみとかかれています」

 

 ハンスは呆れたように笑い、椅子の背もたれに深くもたれかかる

 

 

 「裏でやってんだろ。これ以上被害を大きくする前に非を認めたらどうだ?」


 「フッ…ですから、私たちが禁断の魔術を使っているという証拠がどこにあるんですか?」


 「見つからないようにしてても無駄だぞ」


 「うるさいですね。それ以上の用件が無いなら切ります」ツーツー


 魔法院とて暇ではない。リーマンの電話は迷惑電話も甚だしいものだった

 ハンスはかけている眼鏡をクイッと上げ、休憩を切り上げる

 


 「全く……院長の私にたかがギルド長が口出しをしてくるとは……というものを分かっていないみたいです」


 ハンスはため息をつくと作業に取り掛かった

 ハンスはギルド並びに冒険者を見下している

 ギルドが国営化されるという案に猛反対するなど、冒険者アンチの最前線を走っている人間である

 (※ギルドは結局国営化されなかった。増え続ける冒険者人口を賄う余力が経営会社になかったため、国営化という話があがった。実際国も急成長を続ける冒険者ギルドを自分の手中に収めたかったため、両者の思惑は一致していたのだが冒険者アンチ勢の猛反対に押され、却下された。ギルドは国内の大企業が管轄するということで収まり、破綻は免れた。大企業の安定した地盤の上でギルドは冒険者を人口を着実に増やし成長を続けている)



 ――――――



 「面倒なことになったな……」


 「クゥン」


 「とりあえず今日は寝ようか」

 

 俺はハンちゃんを撫でている手を止める

 ハンちゃんがもっとやってとさらにすり寄ってくる。めちゃかわいい

 (※ハンターベアをテイム出来てもここまで飼い慣らせる人間はこの世でアルベルただ1人)

 


 「もう夜になっちゃったし、明日ね。おやすみ」


 「クゥーン!」


 俺が家に入る前、後ろを振り返りハンちゃんに手を振るとハンちゃんは元気そうに吠えた

 多分おやすみって言ってる。はず

 俺はハンちゃんの声を聞いて笑顔になれた。今日は面倒くさそうなことがあったけどハンちゃんのおかげで気持ち良く寝られそうだ



 「ふわぁぁ……よくわからんのが来ませんように」


 俺はソファーにダイブして願いを言ってから眠りについた。寝る前に願いを言うのは愚痴の一環だ。起こってほしくないことを心に留めておくのではなく口に出してしまって吐き出してしまえばストレスにならないのではという考えでやっている

 (※アルベルの家にはベッドがない。アルベル曰く、ベッドもソファーも一緒)



 ――――――



 「グルゥゥ!!!!」


 「何事!?ハンちゃんめちゃ吠えてる!外で何か起こってるのか!?」

 

 俺はハンちゃんの勇ましい声で目が覚めた

 俺はソファーから起きて顔も洗わず、外に直行した



 「このハンターベア強い……」

 (※ハンちゃんはアルベルによって魔強化されているので並の冒険者では倒せない)


 「次で決めるぞ!俺たちもだいぶ攻撃を叩き込んだ。限界が近いはずだ!」


 「「了解」」


 俺が外に出るとハンちゃんと冒険者パーティー?が戦っていた(※冒険者パーティーの人数は3人で素手の男、剣を持った女、盾を持った男、という構成)

 ハンちゃんはかなりボロボロでゼェゼェと疲れてる時の息のつき方をしてる

 体も血だらけだし……やってくれたじゃねぇか

 冒険者だろうと俺の家族に手を出したらただじゃおかねぇ



 「岩砕拳ロックラッシュストレート!!!!」


 「真剣斬ヴレ・サーベル!!!!」


 「猪突進ラッシュ!!!!」


 「守護結界ゲレニウス


 ハンちゃんに冒険者の攻撃が当たる寸前で俺の守護結界がハンちゃんを守った

 (※守護結界を使える者は少ないがいる。だが、アルベルの場合は強度と範囲を自由に操れるのでアルベルより守護結界を操れる者はいない)

 (※強度を強くすると範囲が狭まり、範囲を広げると強度が弱くなる。これはアルベルに限った話)



 「嘘!!私たちの攻撃が!!?」


 「あんた誰だ!?」


 「俺の家族に手を出して無事で済むと思うなよ……」


 俺は駆け寄ってきたハンちゃんの頭を撫でながら冒険者パーティーを睨みつけた

 容赦はしない……

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