理想の生活

 〜1年後〜

 

 

 「全く……どこ行ったんだ……」


 リーマンは忽然と姿を消したアルベルの居場所が分からずモヤモヤした日々を送っていた

 アルベルと最後に交わした会話、アルベルのやつれた表情が脳内に焼き付いている

 なぜ消えたのか、なぜあんなにやつれていたのか、リーマン今でも分かっていない

 リーマンはアルベルを捜索する任務を出そうかと悩むほどアルベルに思い入れがあった

 わずか2年とはいえ、アルベルはまだ若く将来が有望だった

 リーマンからしてみれば息子のような存在だったのだ

 息子同然の人間が消え、居ても立ってもいられなくなっていた



 「リーマンさん、今日も頭抱えてるの?」


 「そうみたい。部屋から出てこないもの」


 リーマンがやつれているのはギルド内では小さくない話題だ

 アルベルが消えたからというのは周知だが、1年もやつれているので心配になっているのである

 病気を疑う者も現れ始める頃だ



 「大丈夫かしら?リーマンさんが倒れちゃったら私たちどうなるの?」


 「さぁ……リーマンさんが元気になるのを待つしか無いわね」


 ギルドの職員もリーマンをどうすれば元気づけられるか分からないため放置してしまっていた

 他人任せな言葉を言うしか無いのだ



 「ようこそギルドへ。どんなご用件でしょうか?」


 「このクエストを受注したいです」


 「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ」


 とある冒険者のパーティーがギルドの受付で任務を受注した

 ハンターベアという魔物の退治の任務だ。推奨ランキングは1000位以上の冒険者となっている。冒険者の全体の母数は最近15万を突破したので、かなりの高ランクの任務といえる

 冒険者パーティーは意気揚々とハンターベアの住む名も無い森へ向かった

 

 

 ――――――



 「今日は大収穫だ」


 俺は誰も知らない名も無い森に住み始めた。いきなりのサバイバル生活は最初は苦しかったが1年も経てば慣れた

 今では一から作った家に住み、近くに畑を耕して、魔物・動物を狩って食事にする

 原始的な生活を営んでいる。前より生活レベルは落ちたが、不満はない

 幸せだ。誰とも関わらず生きるというのは

 


 「またお前らか……懲りないな」


 「同士の仇だ」


 俺が狩りのため森をうろついていると目の前に赤い服に身を包んだ男が現れる。格好からしてよく遭う盗賊団だ

 最近困っているのは盗賊団

 俺が住んでいる近くに盗賊団のアジトがあるらしく、盗賊団の人間がウロウロしている

 俺を見つけるといきなり襲ってくるので困っている

 平穏な日々を送るというのは中々難しい

 こいつらさえいなくなれば完璧なのだが


 

 「火炎砲フレイムキャノン!!!!」


 「吸収アブソール


 男が殺気満々で魔法を放ってきた。俺は1歩も動かず魔法を消し去った

 男は魔法が消えたことに目を丸くしていた

 俺を殺せる自信があったのかあの威力の魔法で

 盗賊団のたかが知れるな



 「ハンちゃん。餌だよ」


 「ウワァァァ!!!助けてぇぇえ!!!!」


 俺は近くにいるテイムしたハンターベアのハンちゃんに合図を送る

 ハンちゃんは待ってましたと言わんばかりに男の背後から襲いかかり、男の骨を噛み砕いていく

 男の悲鳴が森中に響き渡った。悲鳴のせいで鳥たちがどこかへ飛んでいってしまった

 死ぬ時くらい静かにしてくれよ



 「静寂サイレント


 俺は男の周りを無音にする魔法を唱えた

 これで森がうるさくなることは無い

 ハンちゃんは男の肉を喰らい、骨を粉々に噛み砕いた

 男を食べ終わるとハンちゃんは満足そうな顔をした

 血が周りに付着している。汚れはとっておこう



 「召喚ヴィゾーフ・クリーンスライム」


 俺は何かと役に立つテイムした最弱モンスターのスライムの中の一種であるクリーンスライムを呼び出して血の汚れを取ってもらった

 このクリーンスライムは汚れだけでなく除臭もしてくれる。そのため血の生臭い匂いもこれ一匹で無くなる。掃除にはもってこいの魔物だ

 俺はテイマーというわけではないがテイムが出来るため、様々な魔物をテイムしている

 ダンジョンのボスや神話レベルの魔物もいる。俺1人でもあの男はどうにでもなるが、俺が手を下すより魔物にやってもらった方が楽なので面倒事は魔物にやってもらっている



 「狩りの続きをしよう。今日のご飯が無い」


 俺は満足そうな顔を浮かべるハンちゃんを連れて再び森をうろついた

 今日のご飯は狩りで決める。そのため狩りが成功しないとご飯が無い

 生活がかかっているので必死になって獲物を探す

 周囲を探索出来る探知スキルやハンちゃんの嗅覚を最大限に利用して獲物を探した



 「何も見つからなかった……」


 「クゥーン……」


 数時間ほど森をうろついたが獲物は一匹も見つからなかった。ハンちゃんも残念そうに鳴いた

 ハンちゃんの頭を撫でるとハンちゃんは嬉しそうな顔をした

 癒やされる。狩りの失敗を慰められてる気分になる

 手に入ったのは道中で手に入れた食べられる植物。1回食べたことがあるので安全だと分かる。最初はどれが食べられるのか分からなかったので手当たり次第食べて腹を下していたが、何回も腹を下せばどれが危険なのか分かってくる

 植物だけでは腹は満たされない。主食がないとな

 そうだ。海に仕掛けてある釣り竿にかかってないか見てこよう

 ここから海まではざっと400キロ以上離れているが、俺には魔法がある

 転移魔法を使えば何千キロだろうと一瞬で移動できる


 

 「お留守番しててね」


 「クゥーン!」


 「任せたよ。転移ワープ


 俺はハンちゃんの頭をもう一度撫で、頼んだという思いを伝える

 ハンちゃんは俺の思いを理解して元気よく鳴いた

 ハンちゃん以外にも見張りをしてくれてる魔物はいるが家の前にいるのはハンちゃんだ。家が荒らされるのは困る

 盗賊団なら家を荒らしにくる可能性もある。ハンちゃんに守ってもらうしか無い

 ハンちゃんはただでさえ強いが、俺がさらに強化したのでそこらの手練では倒せない

 人を辞めてるような強さをしてるやつじゃないと今のハンちゃんは倒せない

 あの盗賊団の底は知れてる。ハンちゃんで十分だろう

 俺は安心して海に飛んだ



 「かかってる!逃すか!」


 俺が海に飛ぶと前においてある釣り竿がグイグイ引かれていた

 かかってる!これを逃したら今日のご飯はあっさり過ぎるぞ

 俺は目を血眼にして釣り竿を引っ張る

 大人しく釣られろ!!抵抗すんな!!

 意地と意地のぶつかり合いだ



 「よっしゃあ!!」

 

 しばらく激闘を続けた後、魚を釣り上げた

 市場に出回ってるようなサイズの魚だ。魚の種類が分からないため、何の魚なのかは知らない

 でも、美味しそうな魚が釣れた。今晩はごちそうだ



 「転移ワープ


 俺は跳ねる魚を両手で抱え意気揚々と家に戻った

 良かったぁ、今晩植物だけになるところだった

 


 ――――――

 


 「ハッハッ!!」


 「よしよし!よくお留守番出来たね!」

 

 家に戻るとハンちゃんが俺めがけて突進してきた

 ハンちゃんは嬉しいことがあると突進してくる

 俺はハンちゃんの頭を撫でて褒めの言葉をかける



 「今晩はご馳走だよ」


 「クゥーン!」


 俺が釣り上げた魚を高々と見せるとハンちゃんは嬉しそうに鳴いた

 留守番してくれたしハンちゃんにもあげるか



 「半分ずつね。ハンちゃんはさっき食べたでしょ」

 

 「クゥーン」


 ハンちゃんは分かったと言わんばかりに首を縦に振った

 魚を半分あげるとして、俺は残りを植物で賄うか



 「魚は焼いて、植物は煮込むなり焼くなりするか」


 俺はキッチンに移動して料理に取り掛かった

 魚を焼きすぎないように注意して、植物は煮込んでスープにすることに決めた。水を張った鍋にコンソメを入れ、植物と一緒に混ぜ合わせる

 


 「出来た!いい匂い!」


 魚は焦げておらず良い焼き色がついている。スープも味付けは俺好みの薄味になっている

 完璧だ。料理スキルは本当に便利だな。なんとなく作ってるだけで美味しくなる

 料理に没頭していたら30分以上経っていた

 


 「ハッ!ハッ!」

 

 「ハンちゃんの分はこれ」


 料理を持って外に出るとハンちゃんがしっぽを振り、料理を今か今かと待っている

 料理を運んでる時は突進しないようにしつけてあるので料理を落とす心配がない(最初の頃は何度も突進され料理を落とし台無しにしてた過去の教訓)

 ハンちゃんの前に半分に切った魚を盛り付けた皿を置いて、俺の分の料理を机に置く(外で食べるためにわざわざ椅子と机を作った)

 ハンちゃんは魚が目の前に置かれた瞬間、かぶりついた。美味しそうに食べている

 俺も椅子に座り、ハンちゃんの幸せそうな顔を見ながら食事を始める



 「幸せだ。邪魔盗賊団する奴らが居なければ、もっと幸せなのにな」

 

 「クゥーン」


 ハンちゃんがねだるように俺の食事を覗いてくる

 もうダメ。これ以上食べたら太っちゃうから。最近痩せてきたんだから

 ご飯をやる代わりに俺はハンちゃんの頭を撫でる

 ハンちゃんは満足そうに目を細めた

 この生活が死ぬまで続けばいいのにな。そうはうまくいかないもんなのかね

 後ろから誰か来てるし……

 


 「何の用だ?」


 「襲いに来たのではありません。交渉しに来たのです」


 俺がゆっくり後ろを振り返ると赤い服に身を包み、顔の半分をフードで隠した男が立っていた

 盗賊団の連中だ。全く……何の用だ



 「交渉?」


 「ボスがあなたと交渉をしたがっています」


 「は?何で?」


 「それは我々のアジトまで同行していただければ分かります」


 こいつらのアジトに来いって言ってるのか

 何で俺と交渉したいのか分からないし、わざわざアジトまで連れて行かせるのも意味不明だ

 交渉したいなら自分で来いよ

 それにこいつが素直にアジトに連れて行ってくれるかどうかも怪しい



 「断る。交渉したいなら自分で来い、そう伝えとけ」


 「そうですか……困りましたねぇ……」


 「グルゥゥ!!」


 ハンちゃんが今にも男に襲いかかりそうだ

 制止はしてるけど、このままだと振り払って行っちゃうな

 男の顔はフードで半分が隠れているが、口元は見えている

 男の口元がため息をついたような動きをする



 「帰れ。ここはお前がいる場所じゃない」


 「日を改めてお伺いさせていただきます」


 男は一礼するとハンちゃんが制止を振り払って突進していった

 だが、ハンちゃんが当たる寸前のところで男は姿を消した

 ハンちゃんは居たはずの男が消え困惑している

 辺りを見回しても男はいない。どこかへ消えたようだ



 「厄介なのに絡まれたな……」


 俺はため息をついて駆け寄ってきたハンちゃんの頭を撫でる

 ハンちゃんの満足そうな表情で癒やされ、顔がほぐれたが、俺の目はジト目のままだった

 

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