冒険者ランク1位になったけど掌返ししてくる奴らのせいで人間不信になったので冒険者辞めて隠居します
in鬱
冒険者なんて
「母さん。俺、冒険者になろうと思ってる」
俺は大事な話しがあると言って母を呼び出した
俺が座っている対面に座り、何で呼ばれたのかと分からない様子で首を傾げた
俺がそう告げると母は目を丸くした
冒険者には小さい頃からなりたいと思っていた。魔物たちを倒し、自由に世界を冒険する
冒険に包まれた日々を送りたいと思っていた。そして、俺は冒険者になれる16歳になった
俺は今まで何になりたいとかを親に話したことが無かった
話すとしたら今だろうと思い、母を呼び出した(父は仕事でいない)
「正気⁉悪いことは言わないわ。冒険者なんて辞めなさい」
「え?何で?」
「あんな税金泥棒になっちゃダメよ」
「免税が許されるのってごく一部の冒険者だけだし。別に良くない?」
「ダメなものはダメなの。私たちが言うことを聞いておけばいいのよ」
母は首を横に振りながら俺の手を握る
カチンと来た。俺の夢を踏みにじられたことに怒りを覚えた
こんな感情を親に抱いたのは初めてだ
俺は親の人形じゃない。俺は俺だ
「…………」
「ちょっとどこ行くのよ!!話の続きじゃないの?」
俺は手を握っている母の手を振り解いて席を立つ
俺は黙ってそのまま玄関に向かう
玄関に向かう俺の背中に母が何か言ってきていたが俺は無視し続けた
怒りを鎮めよう。このままだと八つ当たりしそうだ
適当に散歩して気分を落ち着けよう
「おう。アルベル、どうした?」
「適当に散歩」
「なんか機嫌悪い?何があった?」
俺が適当に散歩していると前から友人であるラルフがジョギングをしながら向かってきた
ラルフは近くまで来ると立ち止まり、俺の機嫌が悪いことに気づき顔を覗き込むようにして尋ねてきた
ラルフとは5歳くらいの時からずっと一緒にいる。よく遊んでいたので仲は良い
ラルフとは同い年だが俺よりも1回りほど体つきが大きい。身長も気づけば俺が見上げるまで大きくなっていた
「親に冒険者になるって言ったら反対された。しかも、【私たちの言う事を聞いておけばいいのよ】だってさ。俺は人形じゃないっての」
「お前、冒険者
「冒険者
俺はラルフに愚痴った
そしたら、マジか?みたいな顔で俺のことを見てきた
しかも冒険者なんかって言いやがった
ラルフも親の味方すんのか?
「いや、冒険者って言ったらあの税金免除される奴らのことだろ。それに冒険者って死人が多いって聞くし」
「税金免除されるのはごく一部の冒険者だけだし。死人って言ったって自分の力量にあった任務を受けてればまず死ぬことは無い」
ラルフも知らないのか。冒険者で税金を免除されるのは上位5位以内のランカーだけだ
まずまず、免除される権利は手に入らない
死人は確かに多いけど、それは自分の力量を計り違えた人たちは命を落とす可能性が高い
ちゃんと自分の力量にあった任務を受けておけばまず死なない
死人を減らすためにランキングがある。自分のランキング以下の任務を受けておけばいいのだ
「だとしてもな……冒険者になるってマジなのか?」
「マジだよ」
「どうして冒険者になりたいんだ?」
「冒険者に憧れてるんだ。世界を自由に冒険してみたい」
俺がなりたい理由を言うとラルフは正気か?みたいな顔をする
ラルフも親みたいに反対するのか?
「俺も悪いことは言わねぇ。辞めとけよ」
「どうしてだよ」
「冒険者なんて生きがいもない職業辞めとけよ」
こいつ、ベラベラと喋ってれば地雷をポンポンと踏みやがって……!!
俺の背中を押してくれるやつはこの世に誰もいないのか?
俺は世界中を自由に冒険したい
それを誰も分かってくれないのか?
「一緒に真っ当に働いて幸せに暮らそうぜ」
ラルフはそう言うと肩を組んできた
真っ当だと……?冒険者は真っ当な職業じゃないのかよ
友人もこれか。誰なら俺の言う事を肯定してくれる?
「幸せは人それぞれだ。俺にとっての幸せは世界を冒険することだ。それに生きがいがあるかどうかは俺が決める。何も知らないお前が勝手に冒険者には生きがいとか決めるな」
俺はそう言うと肩を組んでいるラルフの手を解いて前に進んだ
いいさ。味方がいなくても
俺が生きたいように生きてやる
「アルベル……冒険者は辞めとけよ!!」
俺がラルフに背中を向けて歩くとラルフが何か大声で言ってきたが俺の耳には入らなかった
雑音なんかに耳は傾けない
俺は俺の人生を歩む。誰かが生き方を肯定しなくてもいい
俺の生き方を貫いてやる
「アルベル!!ちょっと来なさい!!」
しばらく散歩して家に戻ってくると仕事から帰ってきていた父に大声で呼ばれた
俺がリビングに行くと父が座っていた。俺が父の対面に座る
父の顔を見ると怒りの表情を浮かべていた
なんか怒ってる?俺、怒られることしたか?
「母さんから聞いたぞ。お前冒険者になりたいらしいな」
「うん。冒険者になって世界をぼう……」
「ふざけるな!!!!父さんはお前を冒険者にするため今まで育ててきたんじゃない!!立派な大人になってもらうために育ててきたんだ!!それをお前は踏みにじる気か!!?」
俺が話している最中にも関わらず父は大声で俺を怒鳴りつけた
父も反対するのか。父母揃って猛反対か
四面楚歌だ。やっぱり俺の味方はいない
立派な大人って……それは自分が決めることじゃないのか?親が決めることではないはずだ
「立派な大人は俺が決めることじゃないの?」
「お前はまだ子どもだ。大人の俺たちの言う事を聞いておけばいいんだ」
本日何度目か分からないがカチンときた
子ども?もう冒険者になれる年になったんだ
それにあと2年もすれば成人だ。いつまでも子どものままでいるわけにはいかない
父も母と同じ事を言う。俺は親の人形じゃない
「俺はあんたらの人形じゃない……!!どう生きるかは俺が決めることだろ!!人生まで指図するのか!?」
「なんだ!!文句があるのか⁉」
「あぁ!!文句しかないさ!!俺の人生は俺のものだ!!あんたらが決めることじゃない!!」
父と俺は口論がヒートアップしてお互いに席を立ち大声で言い合っていた
俺は絶対に引かない。説得しようなんて思ってないし、説得しようなんてしても無駄だ
俺の思いをぶつけてやる
「子どものお前には何も出来ないだろ。だから、言う事を聞いておけ。そうすれば幸せは保証してやる」
「いつまでも子ども扱いしやがって……!!幸せは人それぞれだろうが!!俺の幸せは世界を冒険することなんだよ!!」
俺がそう言うと父は目を血走らせた
こんな怒ってる父みたことがない。俺もこんな熱くなったの人生で初めてだ
「わからんやつだな!!何度言えば良いんだ!!」
「わかってないのはそっちだろ!!」
「もういい!!勝手にしろ!!」
「言われなくても勝手にするさ!!」
父は呆れたように言うとリビングから姿を消して2階に向かった
自分の部屋に行ったんだろう。俺もリビングを出て2階にある自分の部屋に入る
自分の部屋に入り、ベッドにダイブする
あぁ。勝手に生きるさ。誰の指図も受けない
誰から肯定されなくてもいい。味方になってもらえなくていい
俺は俺のやり方を貫く。それだけだ
他人なんか信用できない。信用出来るのは自分だけだ
見返してやる。親なんかに友人なんかに負けるもんか
そんな奴らに負けているようでは冒険者になっても死ぬだけだ
俺の人生は俺のものだ
――――――
〜2年後〜
俺は親、友人の反対を押しきって冒険者になった
親、友人は俺に失望して離れていった
俺は気にしなかった。それが俺の選んだ道だから
冒険者になった最初は苦労した。慣れない生活、時には野宿もした
それでも世界を冒険している時は幸せだった
冒険者の稼ぎである任務を順調にこなし、気づけばランキングで1位になっていた
2年で冒険者ランク1位は異例の速さらしい。努力してきて良かった
何万、何十万といる中で1位になったのだ。自分を褒めてあげたい
これで奴らを見返せる。貶した冒険者で1位になってやった
稼ぎも圧倒的に多い。この先何もしなくてもいいほどの金は手に入った
ランク5位以内だから税金は免除されてる。そのため税金泥棒と言われることはあるが気にしてない
1位になって大変なのは大きな権力に巻き込まれること。国の上層部からしてみれば俺は強大な軍事力を持った兵器なのだ
ゆえに何か国同士のトラブルや魔物との争いがあるとすぐに派遣される
軍に入る打診を受けたが断った。俺は冒険者でありたい
世界中を冒険するという夢は叶ったが死ぬまで冒険者であり続けたい
そういった思いから断った
「少し地元に帰ってます」
「そうか。戻ってきたら報告してくれ」
俺は急に任務が入ることがよくある。だから、どこか行く際はギルド本部の長であるリーマンさんに報告しなければならない
俺が言うとリーマンさんは端的に告げると仕事に集中した
俺が今いるのはリーマンさんの部屋。机には様々な書類が散らばっており仕事は多そうだ
邪魔するといけない。すぐに出よう
俺は一礼してリーマンさんの部屋を出る
久しぶりに地元に帰ろうと思う。理由は今の姿を見せつけるため
貶した冒険者で見返せるほどになった俺の姿を見せつけてやる
「あらぁーアルベルじゃない。元気にしてた?」
俺が実家に戻ってくると母が馴れ馴れしく言ってきた
なんだこの違和感は?そんな歓迎するか?
顔ニコニコだし。なんだこれ
「おぉーアルベルか。元気そうだな」
父が奥から出てきて俺の姿を見ると笑顔でそう言った
父まで……なんだこれは?
なんで俺こんな歓迎されてるんだ?
俺はあんたらが嫌ってる冒険者だぞ。毛嫌いするのが普通じゃないのか?
だけど、1位になったから見返せして悔しい表情を見せると思ったのに
なんでだ?これは夢か?
「なんでそんな歓迎するんだよ。俺はあんたらが嫌ってる冒険者だぞ」
「「アハハ」」
俺が言うと父と母は顔を見合わせて大きく笑った
何が起きてる?何なんだこれは
「何言ってるんだ。お前は俺たちの自慢だよ」
「そうよ、父さんの言う通りよ。アルベルは私たちの自慢の息子よ」
は?何が自慢だよ
冒険者になるって言ったら反対したくせに
成功したら掌返しかよ。呆れて何も言えない
「なんだよ。成功したら掌返しすんのかよ」
「掌返し?何言ってるの。私たちはずっと
「そうだぞ。忘れたのか?」
何だこれ?夢か?幻聴か?
俺の記憶上、あんたらが俺を応援したことなんて一度も無い
ずっと応援してた?もうボケたのか?
何でそんな平然とした態度で言えるんだよ
気色が悪い。吐き気がする
「あんたら誰だよ……?」
「誰って、アルベルの親じゃない」
「何をおかしなことを言ってるんだ」
父と母は平然とした態度を崩そうとはしない
誰だよ。こんな奴ら俺の知ってる親じゃない
「違う、違う……俺の親はこんな俺のことを受け入れてなかった。もっと反対してた。それを見返してやるって気持ちで今までやってきたのに……なんだよこれ」
「あ、ちょっとアルベル!!」
「どこ行くんだ⁉」
俺は平然とした態度を崩さない親に対して吐き気が止まらなかった
親の笑顔を貼り付けた顔が歪んで見えてきた
そして、その場から走って逃げ出した
怖い。あれは親じゃない。親の皮を被った別人だ
夢だと思い込んで走り続けた。足を動かし続けた
走ってれば少しは気分が紛れるだろうと思った
「おう。アルベル。どうしたんだ?」
「気分転換で走ってる」
俺が走っていると前からラルフが歩いてきた
2年経っても容姿は変わってない。見慣れたラルフだ
俺は変わってないラルフを見ると安心して走るのを止めた
「そういえば冒険者ランク1位になったんだろ。すげぇな」
「気づいたら1位になってたよ」
「気づいたらって本当にすげぇな」
ラルフも何か違和感がある気がする
俺の気のせいか?
「ところで、金貸してくれないか?」
「え?」
「ちょっと金に困っててな……お前すごい金持ってるんだろ。少しくらい良いだろ?」
ラルフは申し訳なさそうな顔で言う
違和感があるのは気のせいじゃない。そう確信した
ラルフはこんなことを言うやつじゃない
金の貸し借りは絶対しないって言ってたのに
何でだよ。言ったのお前だろ
「俺たちの間で貸し借りはしないって言っただろ?忘れたのか?」
「そんなのどうでもいいんだ。俺今すぐに金が無いと困るんだよ!!分かってくれるだろ!!俺たち
ラルフは切羽詰まった表情で俺に言ってくる
ラルフの言葉を聞いて俺の中で何かが音を立てて崩れていった
友人も掌返しか。誰も信じないとは言ったけど、これじゃ誰をこの先信頼すればいいんだ
誰も信じられない。誰も信じたくない
もう無理だ。人なんか、人なんか無理だ
拒絶反応が出る。もう誰とも関わりたくない
「なぁアルベル、助けてくれよ!!」
「…………だ」
「え?なんて言った?」
「無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ」
俺はうつむいて機械のように言い続けた
もう無理だ。俺には
人という生物が無理だ。生理的にとかではない
存在が無理だ
「アルベル、どうしたんだよ……」
「もう無理だ。自分でなんとかしろ。俺はもう無理だ」
そう言った俺の表情は憔悴していたと思う
俺の居場所なんてどこにも無い
誰とも関わらず生きたい
冒険者とかもうどうでもいい
今はただ人を信じたくない
「おい、アルベル!!行かないでくれよ!!助けてくれって!!」
俺の背中の奥で必死に訴えかける声が聞こえる
でも、その言葉は俺には届かない
誰の言葉も聞きたくない。耳を塞ぎたい
早く誰もいない場所に行きたい
「もうお帰りか?帰ってきて早速で悪いんだが……お前どうした?顔真っ青だぞ」
俺は冒険者を辞める報告をするためギルド本部に戻ってきた
リーマンの部屋に入ると相変わらず仕事に夢中になっていた
でも、今の俺にそんなことを気にする余裕は無い
「冒険者、辞めます……」
「はぁ!?冒険者を辞める!?お前自分が何を言ってるか分かってるのか!?」
俺が辞めると言うとリーマンさんは目を丸くして大声を出した
でも、リーマンさんの大声は耳には全く入らなかった
「はい……」
「お前、冒険者が夢って言ってたじゃないか?いいのか?ここまで頑張ってきたのに」
「いいんです。もう。疲れました」
もう全部どうでもいい
冒険者なんて辞める。人と関わらないで生きれたらそれでいい
「じゃあ、さよなら」
「お、お、おい!!アルベル!!」
俺は別れを告げるとリーマンさんの部屋を出る
そしてギルドの外へ出て誰もいない、誰も知らない場所に向かった
これで終わった。もう人と関わらずに済む
人間関係なんて疲れるだけ。疲れるものはない方がいいに決まってる
俺はギルドの外に出ると辺境に向かって力無くあるき始めた
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