§011 初めて聞くお仕事の話

 馬車の中では、主にジェフリーが話を先導してくれた。


 正直、今日はエラルドと自分の二人きりだと思っていたので、街に向かう道中、何を話そうかといろいろ思案していたところだったが、エラルドの様々な面を知っているジェフリーが同席してくれたのはこの上ない幸いだった。


 せっかくの機会ということで、リズは少し前のめりになりながら、ジェフリーに普段のエラルドの様子を尋ねてみる。


「砦のエラルド様はどのような感じなのですか?」


「ああ、お嬢は砦に来たことがないんですもんね。そりゃもう『氷帝』の名に違わない厳しさですよ。機嫌の悪い時なんかマジで視線だけで人を殺せるんじゃないかと思いますもん」


「おい、ジェフリー」


「もっと聞きたいです」


「あ、そういえば、この前、将軍が単身で相手の拠点に切り込んだ時がありましたね。その時の将軍がマジですごかったんですよ」


「えぇ、単身で? そんなことあるんです?」


「いえ、普通はないんですけどね。御存知、将軍は我が国で最高峰の氷魔法を得意とする魔導士で、その実力は一個中隊に匹敵するほどなんですよ」


「……一個中隊?」


「ああ、ざっくり百人くらいの兵士の塊だと思ってください」


「え、エラルド様一人で百人もの兵士を相手にできるということですか?」


「そういうことになりますね。あのときも確か相手は一個中隊規模だったと思うんですけど、俺達が駆け付けた時には既にそこは氷河期が到来したかのような静けさで、見回すと相手の兵士が全滅してるんですよね。そして、その先、巨大な氷晶の上に佇む将軍の姿を見て……」


「見て?」


「思わず、『なにかっこつけてんすか』って言ってやりましたね」


「おい、ジェフリー」


「ふふふ、なんかエラルド様らしい」


「…………」


 こうして、普段では聞けないエラルドのお仕事の話を聞いていたら時間はあっという間に流れてしまい、気付いたら『街』に到着していた。


 馬車から降りると、そこはローレンツ領と比べて幾分温かく、煉瓦造りの整然とした街並みが印象的なとても綺麗な街だった。


「んじゃ、俺は軍の仕事を片付けてきますので、お二人さんは楽しんでください」


「え、エラルド様もジェフリー様と一緒に行かれるのでは?」


 ジェフリーの言葉を受けたリズは、エラルドとジェフリーを交互に見る。


「いえいえ、仕事は俺だけで大丈夫ですので、二人は夫婦水入らずのを楽しんでください」


「で、デート?!」


 リズは思わずエラルドを見る。

 すると、ほんのりと頬を赤らめ、照れくさそうな表情を浮かべた殿方がそこにいた。


「せっかくジェフリーが気を遣ってくれたんだ、行こうか」


「……は、はい」


 予想外に舞い込んできたエラルドとのデート。


 エラルドのことが好き……というわけではないのに、『デート』という言葉がそうさせるのか、この場の雰囲気がそうさせるのかはわからないが、恥ずかしさで顔が見れない。


 そうこうしていると、ふいにリズの手に、エラルドの手が触れた。


 最初は探るような控えめなものだったが、いずれリズの手は男の人のものとわかる手に包み込まれた。


「……あ」


 思わず吐息のような声が漏れる。


「嫌か?」


「い、いえ」


「じゃあ少し歩いてみようか」


「はい」


 リズは逆の手を彼の腕に添え、少しだけ寄り添うと、二人は街の喧騒に向かって歩き出した。


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