第8話 互いの一番星
温泉街の明かりがつき始め、道ゆく車もライトを点灯し始めた。辺りはどんどん暗くなる。
「滞在は長くてあと三日、もしかしたら新幹線の混み具合でもっと短くなるかもしれない…」
本当はこんなこと言いたくないな、ずっと佳代子ちゃんの隣にいたい気持ちが私の声を震わせて、目頭を熱くさせる。
「そうなんだ…あと三日か、じゃあ明日も温泉行かない?」
「え?佳代子ちゃんは温泉でいいの?」
「だって、柚ちゃんとの思い出たくさん作っておきたいんだもん、あと私も柚ちゃんも温泉大好きだし。あ!一番星!そう言えばいつの間にか空晴れたね〜」
佳代子ちゃんの指差す先のすっきりとした藍色の空には一番星が光っている。
「二番星見っけ!あ!三、四、五番星もみーつけた!」
佳代子ちゃんはまるで幼い子供のように夜空に手を伸ばし次々と星を見つける。
私はその手をそっと掴む。
「私にとって佳代子ちゃんはあの一番星と同じなの…!真っ先に駅で私を見つけてくれて、声をかけてくれた。佳代子ちゃんが一緒にいるだけで私の世界が一段と明るく見えるの!」
息が白くなるほど気温が下がってるけど、触れた手の温かさがどんどん上昇していく。
「ふふっ…柚ちゃん、私なんてそこらへんの星と同じ、ただのド田舎の女子高生だよ?柚ちゃんが駅にいてくれたから私が見つけられたんじゃん」
「私の一番星は柚ちゃんだよ」
「…うん」
思いっきり声が涙声になって、目が潤んできた。
「なんで泣いてるの〜こっちまでなんか悲しくなっちゃうでしょ!」
二人向き合ったまま佳代子ちゃんが慰める。
「今しか言えないから言うね!私、柚ちゃんのこと、大好き。
柚ちゃんの新しい表情が見えるたびに最初に声をかけてよかったなって思うんだ
だからこれからも、東京に帰っても、この町のこと度々思い出して!」
「……佳代子ちゃんだって泣いてるじゃん…」
佳代子ちゃんの目には今にもこぼれ落ちそうな大粒の涙が溜まっていた。
「ごべん…」
私はふかーく深呼吸をする。
「私も、佳代子ちゃんのこと大好き。東京に帰っても絶対忘れない。だから明日も温泉行こ?」
「うん!」
気がつくと頭上は満点の星でいっぱいで、一番星がどこにあったかなんて忘れてしまった。
「あったかい飲み物のむ?」
そう言って佳代子ちゃんが道端の自販機で缶ココアを奢ってくれた。
小さな街頭の下、ココアの缶と吐く息の白が星空に吸い込まれていく。
「一番星みーつけた」
佳代子ちゃんに向かって気づかれないように小さく指を指す。
「ん?柚ちゃん、なんか言った?」
「ううん…なんでもない」
そう言って私は缶ココアに口をつける。
別れることがわかってるのに、あなたのことが好きになってしまったんだ。
一番星みたいなあなたのその笑顔が本当に眩しくて、忘れられないのはお互い様かもね。
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