第4話 佳代子ちゃんのスキー教室!

 緊張とワクワクで眠れない長い夜が明けて朝になった。こんな夜は小学校の修学旅行以来だった。

…てかスキーって何持ってけばいいの!?スマホで調べてみる。どうやらスキーウェアとスキー板とストックとブーツはレンタルで貸してもらえるらしい。これだけあればいけるかも!?後は、グローブと帽子…これはおばあちゃんに借りよう。

 

 そんなこんなで一応準備完了した。佳代子ちゃんが送ってきた待ち合わせ場所に向かって歩く、下手に走ると凍った雪で滑りそう。雪国は思ったよりデンジャラスだ。待ち合わせ場所は昨日入った温泉の前、しばらくすると柚ちゃんのお父さんの車が見えた。


「おーい!柚ちゃーん!!こっちこっち!」

「柚ちゃん、車乗りな!」


 車内にはスキーの板やスキーウェアが乗っけてあって、うまく言葉にはできないけどプロっぽい感じがした。

外と比べて暖かすぎて寝不足の私には良質なASMRぐらいよく効いた。

——ウィーン

初日に一度聞いた不穏な音がする。私は寒さで思わず目を見開く。


「ガッハッハ!眠気がバッチリ覚めただろ?」

「ふふっそういえば柚ちゃんスキー持ってないからレンタルするよね?」

「あ、そうだ、ゴーグルとか持ってないんだけど…どうしたらいいですか?」

「貸してあげるよ!私の兄弟の何個かあるし」


 佳代子さんって兄弟いるんだな

だんだん車は山道を登っていくバスも通るせいか思ったより結構広い道。

そして突然道が開ける。

「わあ…広い」

駐車場には大型バスが停まっていて県外からも多くの観光客が来ているのがわかる。


「よしっ、じゃあ、気をつけてな!」

「「行ってきまーす!」」


 ザクザクと雪を踏み締める。思ったよりスニーカーでもレンタルのできるインフォメーションまでは辿りつきやすかった。

店員さんに足の大きさや身長を聞かれてぶ厚いスキーウェアとスキー板とストックと結構重たいブーツを借りてスキーの板にドッキングする。


「足が…お、重い…」

「お、借りれたね!じゃあまずはあの開けているキッズゾーンでカニ歩きで坂を登る練習とうまく転ぶ練習をしよう!」

「カニ歩きとうまく転ぶ練習?」

「うん、私もいっちばーん最初に習ったのがそれ、と言っても十年以上前の出来事だから昨日お父さんに教えてもらったんだけどね〜」


 そう言いながら佳代子ちゃんは山の上を見つめる。

今やインターハイに出場するくらいの選手だけどこれまでたくさんの涙と汗を流して、成長してきたんだろうな。比べて私はそんな人生なんて歩いていない東京の隅っこに住むただの女子高生だ。


「柚ちゃんどした?不安?」

「いや、なんでもないよ」

「柚ちゃん、大丈夫だよ!絶対滑れるようになるから!」

佳代子ちゃんの言葉は色んな意味で私の心を押した気がした。

すっきりと晴れた心で、私の人生史上初めてのスキー教室が始まる。

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