第3話 この先もあなたと繋がれるように

 私たち二人は菜花温泉町の町中をぶらぶら雑談しながら歩く。

空はすっかり晴れきって雪の結晶のような細かい欠片が降ってきてたと思ったら冬の冷たい風にさらされた電線からサラサラと落ちてきている雪だった。


「あ、そうだ柚ちゃん!連絡先交換しない?」

「え?いいですよ?」

「なんで疑問系なのさ〜やっぱり都会人だから星の数ほど友達がたくさんいるとか?」


 佳代子さんは都会人でもコミュニケーション能力と勇気がなければ友達はできないのを知らないらしい。私自身連絡をよく取るのは両親と幼馴染のりょうちゃんだけだし…というか佳代子さんみたいな人間は上京しても絶対上手くいくタイプだと思う…そんな言葉を寸前で飲み込んだ。


「ほいっ!初めての都会の友達!なんかめっちゃ嬉しい!!」

「私も…初めてです、田舎の友達」

「これからもよろしくね!柚ちゃん!」

「は、はい!佳代子さん!」

「ねー佳代子さんってなんか二人とも同い年なのに私だけ年上に見られそうで恥ずかしいよ〜佳代子ちゃんって呼んで欲しいな」


 上目遣いで佳代子さんはおやつをおねだりする子犬のようにキラキラした瞳で私を見つめる。多分そこら辺の男子におんなじ顔をしたらなんでも買ってくれそう。神様、綺麗な顔ってのは随分ズルいと思う。


「じゃあ、佳代子ちゃん。」

「ありがとううぅう!」


 佳代子ちゃんは私に勢いよく抱きついた。不順だが大きな胸はふにっと柔らかい。誰かにぎゅっとされるとお母さんを思い出すけど、今はなんか違う気持ちがする。愛されてるより、そばにいたいって感じ。


「柚ちゃん、明日予定なかったら一緒にスキー行かない?」

「ええ!?私まともに滑れないよ!?」

「大丈夫!私が教えてあげるから!」

「おばあちゃんに行っていいか聞いてから連絡してもいい?」

「いいよ!連絡待ってるね〜!」


そのまま佳代子ちゃんとは別れて私はおばぁちゃんの家に向かった。


 豪雪地なので玄関は階段を登った先、二階にある。

ちなみに一階は車庫になっている。おじいちゃんが亡くなる前は二台あった車は今はおばあちゃんの車一台になっていて、どこか寂しさを感じた。


 インターホンを押す。

「はーい、今行きます〜」

今まで電話でしか聞いたことのないおばあちゃんの声がする。すぐして引き戸の玄関ドアが開いた。


「あら!柚ちゃん!?大きくなったねぇ!今日明日泊まってくんでしょ?」

「おばあちゃん、こんにちは、今日と明日お邪魔します。あと明日友達とスキー行く約束したんですけどいいですか?」

「全然いいよ!って友達、もうできたのかい?」

「すごい優しい子で初対面だけどさっきお風呂入ってきちゃいました」

「あっはっは!じゃあ楽しんでおいで、お部屋は上の階の突き当たりだよ」


 私は階段を登り突き当たりの部屋の襖を開ける。

この家に来たことはないが匂いを嗅ぐとなぜかどこか懐かしい気持ちになる。

多分遺伝子のどこかにこの匂いが組み込まれているんだろう。


 私はおばあちゃんのOKを貰ったので早速佳代子ちゃんに明日のスキーの連絡することにした。

『こんにちわ、柚です』


 送信ボタンを押すだけなのになんか妙にドキドキしている自分がいる。

送信ボタンを押してから数分が経った、既読がつくまで何回も画面を見てしまってそんな自分に羞恥心を覚え始めた頃。ピロリンと通知音がなった。


『ごめん〜!屋根の雪かきでスマホ見れなかった…明日の連絡?』

なんともこの地域らしい返信が返ってきた。

『うん、明日の連絡だけどオッケーだって』

私が返信すると『やったー!』と書かれた動くスタンプが飛んできた。

佳代子ちゃんらしいな、これからもこんな感じで関係が続けばいいなと心の奥で囁くようにそんな気持ちが芽生えている。

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