第7話穢レ人×穢消師

 愛と適当にテレビを見て時間を潰しているとグーと命のお腹が鳴った。時間を見ると十二時を少し回った辺り。駅前にあるコンビニで昼食を買おうと思い立ち上がる。

「腹減ったなぁ。穢レ人は飯食べるのか?」

「ええ、必要無いけど私は好きよ」

「じゃあ買いに行くか」

 そう提案すると「もちろん」と愛は立ち上がって後ろを歩く。鍵を閉めてポケットに入れて先程倉庫から出したママチャリへと移動する。

「自転車二ケツするか?」

「いいえ、アナタの中に入るわ」

「は?」

 予想斜め上の発言に戸惑っていたが愛は命のお腹に手を触れるとまるで穴が開いているかのように体の中へするすると入っていく。上半身が入りきると下半身も入っていき全身が命の体に入った。

「うお、キモ」

 SF映画でよく見る腹を食い破るタイプのエイリアンみたいだなと思っていると、

「さあ自転車を漕いで」

 と、愛は急かした。命は「はいよ」と言ってサドルに座りゆっくりとペダルを踏んで前へと進む。生ぬるい風が顔に触れるが歩くよりかはマシだった。

「なあ」

「どうしたの?」

 自転車に乗りながら命は愛へ話始めた。返事は頭の中。イヤホンを付けているように耳の奥から聞こえた。

「愛はさ、悪いことして地獄に行ったんだよな」

「ええ」

「何したの?」

 命自身も攻めた質問だと思ったがどうしても知りたかった。空想だと思っていた地獄が本当にありそこに堕とされた元人間。「知りたい」そう思った。

「結構深いとこ知りたがるのね」

「気になるじゃん。やっぱ」

「そうねぇ……」

 愛は昔を思い出す様にゆっくり話始める。

「色んな男を誑かして、狂わせて、殺し合いとかさせたわけ」

「ヤバ」

「軽蔑した?」

「まあ……でもした所でお前との契約が解消するわけでも無いし。過去は変わんない。ただ俺と契約している間だけは殺しとか無しだからな」

 嘘では無い本当の気持ち。不快でも愉快でもない。悪人が更生したら善人になるとは思わない。しかしかと言って全てを否定してはそれは思考する事を放棄した事になる。命は愛へもう一つ質問をした。

「お前は過去の行いが全部間違ってたって思うか? 人を殺した事とかが」

「思う」

 即答だった。

「なら、その気持ちを持って生きていたら良いじゃね? 何か上から目線で調子乗った回答しちゃったけど」

「いいの。悪いのは私だからね。でも人と話すのも良いわね。気持ちが軽くなった気がするわ」

 愛は悪人だ。しかし過去の行いを悪いと思って生きている。しかし思っているならなぜ#生き返ったのか__・__#。矛盾している。

 それを質問しようとした時、自転車で一人の男性の横を通ろうとする。「珍しいな」と思いつつも「もうすぐ駅だし普通か」と一人で解決し横を通った。

「ねえお兄さん」

 そう話しかけられた。自転車の速度を落としUターンして男性に近づく。短めのグレーの髪。そして緑の眼。辺りでは見かけない男性だった。特に大きな荷物は持っていなく観光ではない事が見ただけでわかる。

「道に迷いましたか?」

「いいや、臭いなぁって」

 半笑いで男性は命の質問に答えた。

「は?」

「お兄さん穢レ人でしょ」

「命、距離を取って」

 愛の一言で自転車を横に倒し一歩ずつ下がる。すると男性は一歩ずつ前へ進みだす。

「何で下がるの。図星?」

「お前誰だ。何の用だ」

「ん? ああ俺はてき。穢レ人だ」

「悪いが俺は人間だ。穢レ人じゃない」

「嘘つくなよ」

 すると適は大きく振りかぶり命を殴ろうとした。本能で両手で頭を隠し守ろうとする命だったが愛が右手を空中に出現させて拳を掴んだ。

「ほらっ出てきた」

 適は掴まれた手を振り払って距離を置き、両腕を構え戦闘態勢に入る。

「命、構えて」

「俺人殴った事なんか一回もないぞ」

「アナタは出来る限り避けて、避けきれなかったら私が何とかするから」

 焦る命に愛はゆっくりと的確な指示をする。一応両腕を上げて脇を閉めて防御の姿勢をとる。

「#あの人__・__#に穢レ人は出来る限り仲間にしろって言われてるけどいいや」

 ボソボソと独り言を呟いた。その後、命の左腕に激痛が走る。

「痛っー!」

 細い声が口から抜けて行く。愛のガードすらを貫き高速のパンチを食らわす。涙目になりながら命は必死に適から距離を取ろうと後ろに下がる。

「おい、さっきのパンチ見えなかったぞ。どうするんだ」

「思ってた以上に強い」

 耳元で愛はそう話した。痛む腕を再び上げて構える。しかし見えもしない速度のパンチをどう止めるか。命の答えはただひたすら下がる事だった。

「避けてばっかじゃ面白くないんだけど」

「知るか! こっちは人殴った事も無いんだぞ!」

 焦りながらも適に事実を話してどうにか一旦落ち着いてもらおうとするも、攻撃の手は止まらない。

「なら何で穢レ人なんかになったんだよ」

「だから俺は人間だ。体の中に穢レ人が住んでるんだよ」

「それホント?」

「ああ。本当だ」

 適が動きを止めて話を聞き始めた。一応不意打ちを警戒し、意識だけしておく。すると誰かの足音が聞こえてきた。その方を向くと、奈落で命を助けたロングコートの集団。

 穢消師えしょうしがそこにいた。赤色のモノを着ており胸元には「土」と刺繍されている。その文字の意味は分からないが「助かった」と命は思った。

「通報が入ってこんな辺鄙な田舎に来させられたと思ったら驚いた。まさか本当に穢レ人がいるなんて」

「穢消師……」

 適はそう言って少し黙ると口を開いた。

「ねえ、穢消師のお兄さん。コイツ怪しいよ」

「お前もだろ」

 穢消師は突っ込みを入れるも適は手を横に振りつつ

「いやいや、なんか本体は人間だけど中に穢レ人が住んでるだってさ。おかしくない?」

 そう言った。穢消師が命の顔を見る。

 助けてもらえると思ったが今思うと自分は穢レ人と契約をしている人間。どちらかと言えば適と同じ立場。それを思い出し小さな声で愛にどうするかを聞いた。

「一旦様子を見ましょう」

 男は少し黙って考え込んだ後、

「まあいいや。全員殺そ」

 そう言った。穢消師が足を踏み込むのが見えた瞬間命は咄嗟に両手をクロスして顔を守る。その直後ハンマーで殴られた様な痛みが腕に走る。

「へえ、できるじゃん」

 目を開いて驚きながらも口は笑っている。命も負けじと涙目で男を睨んだ。

「じゃあお二人でごゆっくりー」

 適はそう言うと沈むように地面へと消えていった。

「あ、おい!」

 命は必死で追いかけるもそこには何も無かった。

「まあ後で探せば良いか。コイツ雑魚そうだし」

 不敵な笑みと余裕そうな言葉に対し、

「そういう奴は大体足元掬われて負けるんだよ」

 と、精一杯の反抗を示した。

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