第5話誰だ
「誰だお前。泥棒か?」
耳元で囁く声の主に質問をする。顔を動かそうにもガッチリと固定されている。もし下手に動けば首を折られる。命はそう考えた
「そんな悪い人じゃないわよ。ただこの家を隠れ家に使ってただけ。急に人が来て驚いちゃって」
「空き巣じゃねーか。何が目的だ? 金か?」
財布にお金なら少しある。それを渡して消えてもらおうと考えた命だったが
「いいえ」
読みが外れた。犯人の要求が分からず少し考えていると
「アナタ見えるんでしょ?」
いきなり聞かれた。
「何が」
「穢レ」
「っ!」
その単語に反応してしまう。
「私も見えるの」
「だったらなんだよ」
「助けて欲しいの、ちょっと困ってて」
耳の真横で呟かれる。
「なら手を離せ」
試しに体を揺さぶるも緩みもしない。
「信用できないわ。痛い事するでしょ?」
「逆だろ。男子高校生をガッチリ掴んでいる時点でお前の方が強いぞ」
「フフフッ。それもそうね」
そう笑いながら犯人は拘束していた手を離して命は急いで後ろを振りむく。そこには濃い赤髪の女性が立っていた。命よりも高い身長に艶のある胸元まで伸びた長い髪。白く綺麗な肌。口元にある小さなほくろ。先程までの行為とは真逆の優しい雰囲気が漂う女性だった。命が顔をマジマジと睨みつけていると女性はニコッと笑って挨拶をした。
「こんにちは命」
「何で名前知ってんだよ」
「助けてくれるなら教えるわよ」
「……」
完全に舐められいる。そう感じた。まるで反抗期の子供を見守る親の様な感覚だ。全てを見透かされているような理解されているような気持ち。両親とほぼ一緒にいなかった為反抗期らしい事は何も無かった命だがこの何とも言えない気持ち悪さが胸に残る。
「内容を教えろ。助けるかはそれを聞いてからだ」
その気持ちを払拭する為強い口調で話を進める。
「私はね
「だから?」
「隠れる場所を提供してほしい」
昨日の小学校で穢レというモノが何かを少しだけ理解した命はその言葉に興味をそそられた。
「じゃあまず穢レ人って何だ? 穢レと何が違うんだ?」
「助けてくれるなら……ね?」
女性の笑った顔は崩れない。常に自分が支配権を握っている。そう分からせる言葉と振る舞い。命は諦めて飲むことにし、首を縦に振った。
「……わかった。助ける。その代わり一週間だけだ。俺はここに一週間しか滞在しない、ここにいる間は出来るだけの事はしてやる。それでいいか」
「ありがとう」
笑ったまま女性は命の手を握る。その瞬間左手の手首に熱湯が掛かった様な痛みが走る。
「熱っ!」
「左の手首を見て」
遅る遅る見てみると黒い桜の花が刻まれていた。
「何だこれ? 入れ墨?」
「それは
桜を触る。特に異常は無くただ皮膚に入れ墨を入れられた。「これ落ちるんだよな?」と質問すると「一週間後には消えるから安心して」と言われ半信半疑でその言葉を信じる。
とにかく危害は加えないと言われたのでリビングに言って座って話をしようと命が提案し二人で移動する。座布団を出して座ってもらいお茶を来賓用のコップに注ぐ。
「それで? 穢レに詳しいんだろ?」
「ええそうよ」
「教えてくれよ。そういう約束も#これ__・__#に含まれてるんだろ?」
手首の桜を見せた。
「どこから話そうかしら。じゃあまず自己紹介でも。私の名前は
「忘れた?」
「そう。私は穢レ人と言って一度死んで地獄に落ちてるの」
愛の口からでた地獄というワードを聞いて昔読んだ絵本を思い出す。鬼がいて閻魔様がいて舌を抜かれる。
「地獄ってどんな場所なんだ? 剣山とか血の海とか?」
「そんなモノは無いわよ。ただ何も無く暇な場所ね。でも
笑いながら命の話に応える。
「抜け出せて良いのか?」
「簡単な事では無いわ。本来は悪人を閉じ込める場所から抜け出すから考えられない程の苦痛を味わうの。それでも戻りたいと思える強い信念を持った者だけができるよ」
「二回目は?」
一回できるなら二回三回といけるのではと思って聞いてみた。
「噂程度だけど一歩動くたびに全身を刺されるほどの激痛が襲い続けるらしいわ。それで頭がおかしくなって自殺するとかなんとか」
「それは……確かに諦めるな。というか話変わるけどお前は何で戻ったんだ?」
「え?」
命の質問に初めて愛の表情が崩れる。
「いや、ほら現世に未練とかやり残しとかがあったから這い上がって来たんだろ? その理由を教えてくれよ」
「何だったかしら。忘れちゃった」
アハハと笑う愛に「おいおい、大事な事だろ」と突っ込むも、
「だって私が死んだのは数千年前ですぐに穢レ人になったから」
「苗字もその時に忘れたのか?」
「ええ、段々と消えていくの。でもアナタも消えた事があるでしょ?」
「何が?」
愛が質問に答えるターンだったが急に会話の舵を取られる。
「左足、傷があるけどどうしたの?」
「あ……」
ズボンを捲ると何かに噛まれた様な傷があった。そしてその瞬間に家電量販店で穢レに襲われた記憶が蘇る。謎の生物にロングコートの集団。注射を打った医者。全て取り戻した。
「あ、俺。何でこんな大事な事忘れてたんだろ」
頭をさすりながら独り言。それからもあったことを復唱していく。
「化け物に襲われまくって。それで助けられて。注射打たれて」
「思い出した? なら一個ずつ紐解いていきましょう。まずあの地獄の様な場所が
愛はリビングに置いてあった裏が真っ白なチラシを取り出して絵を描き始める。
「その塵が集まったものがアナタを襲った
猫の様な犬の様な姿の動物が描かれる。
「ハッキリと確立した形では無く靄が掛かった見た目をしていたでしょう? それは知性が無い無機物の塵が適当に集まってるから。そして穢レは#人間__・__#を嫌う。だから穢獣は殺そうとするの」
棒人間を書いて大きなバッテンを上書きする。
「そしてあのロングコートの集団。それが私が逃げている
動物の絵にバツを上書きした。
「そいつらから逃げてる為にこんな辺鄙な町に?」
「ええ」
「穢レは人間を嫌って殺そうとするなら何でお前は俺を殺さないんだ?」
「私達穢レ人は全員が全員人間が嫌いな訳では無いわ。私達は元人間。知性がある」
「それが獣と人の違いね」
そう言って紙をグチャグチャと丸めてゴミ箱へと入れた。その最中に、
「それに契約期間中は互いに裏切り無し。危害を加えるのも駄目。もし約束を破ったら破った方は死ぬ。そういう風にできているのよ」
軽く言った。しかし最後の死ぬという単語が聞き捨てならなかった命は、
「待てよ、そんな条件知らないぞ」
と当たり前な反応を示した。
「そりゃあそうよ。だって言わずに契約したんだもの」
「はぁ……」
愛の無茶苦茶なやり方にため息が出てしまい柱に飾ってある時計を見るともうすぐお昼に差し掛かる所だった。その時ふとまだ終わっていない事に気づき急いで立ち上がる。
「ちょっと社の掃除だけしてくるからお利口にテレビでも見といてくれ」
「はーい」
テレビのリモコンを愛に渡して命は家を飛び出し裏山に入る準備をする。
「一週間かぁ……。なんか俺この夏休みで変な事ばっか巻き込まれてるな」
独り言を呟きつつ虫よけスプレーを体に吹きかける。ツンとする匂いに咳が出る。
「全部夢とかじゃねーよな?」
もう一度スプレーを拭きあまりの刺激に涙がでる。
「夢じゃないか……」
そう言ってさっさと終わらせようと裏山へ登って行った。
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