第4話桜龍町
ブーブーブー。
命のスマホが着信により震える。昼寝をしていた命は眠たい瞼を開いて電話にでた。
「もし……もし?」
「寝てたのか? 命。昼間から寝るとは夏休み満喫してるな」
聞き覚えのある男性の声だった。
「父さん。どうしたの?」
「ああ、実はな仕事が長引くみたいでお盆に帰れないんだよ。だから今年は命一人でいってくれないか?」
「いいよ」
「よろしくね」
通話が切れる。「久しぶりに会えると思ったんだけどなぁ」と独り言。
命の両親は同じ仕事をしており、海外などの出張が多くあまり家にいない。命にとってそれが普通の事だった。しかし稼ぎが良く、ほぼ一人暮らしにも関わらず複数人住めるおっきいマンションの一室を借りている。命のお小遣いも一ヶ月食費とは別で数万円。欲しいモノがあればその分振り込んでくれるというリッチな生活をしていた。
「腹減ったなぁ」
電話で目が覚めた命が時間を確認すると夜六時。少しお腹が空き作る気力も無いので外食で済ませようと考え財布を持ち家を出た。ヒグラシが鳴き夕日が照らす道を歩く。
「外も暑いなぁ」
クーラーの効いた部屋にいた為、いつもより空気が生温い。そんな空気をかき分けながらいつものラーメン屋に向かう。向かう最中も色々と見えるも眩暈はしなかった。
ラーメン屋に着き扉を開ける。
「いらしゃい!」
元気な従業員達の声が聞こえた。そこまで混んでおらず「好きな席に」と言われた為手前のカウンター席に座る事にした。メニューは見ない。命は小学生の頃から通っていた常連なので何が一番美味しいのかを知っている。
「醤油ラーメンのチャーハン定食お願いします」
「はいよ!」
いつもの定食を注文し、コップの水を飲みつつスマホでSNSをチェックする。トレンド一位は「ガス漏れ」だった。命はニュースの記事を読み始めた。
次第に人が増えて来て段々と厨房も客も騒がしくなってくる。
「隣いいかい?」
「いいですよ」
女性が命の隣に座る。するとメニュー表を開いて少し悩んだ後、
「ねぇこのお店は何が美味しい?」
そう質問をした。命は女性の方を向き
「おすすめは醤油ラーメンっすね。いつも頼んでますよ」
醤油ラーメンが掛かれた場所を指差した。
「じゃあ私もそうしよ」
その後は特に会話も無くただの見知らぬ客同士。やがて命の定食が届き、女性のラーメンも届いた。以外にも女性の食べる速度は早く命とほぼ同じタイミングで食べ終わった。会計をしようと伝票を取ると女性が逆に伝票を取り、
「少年。今回は私が払うよ」
そう言った。命は財布のお金を見せて
「いや、お金あるんで大丈夫ですよ」
と、言ったが
「いやいや、少し話したい事があるんだ」
言っても聞かないと思い諦めた命は御馳走になり店の外で待機していた。すると「ありがとうございました!」と元気な声と共に店から出てきた女性はポケットから煙草を取り出し火をつけた。そして設置されている灰皿の前に移動し話を始めた。
「黒い靄見えるんだろ?」
その一言に命は驚いた。少し考えた後、
「はい」
と、返事をした。
「それが何かを教えてあげようと思ってさ」
一本目を吸い終わり二本目に突入する。
「さてと、黒い靄は何だと思う?」
「脳の異常?」
「違う。これは
「はぁ」
そして二本目を吸いきった所でいきなり立ち上がりこう言った、
「例えばこの近くに学校とかあるかい?」
「小学校ならこの先に」
「なら行ってみよう。行けばわかるから」
命のナビで二人は歩き始める。女性は命より少し小さいが女性にしてみればかなりの高身長だ。染めた黄緑の髪に意識して顔を見ていなかった為気付かなかったが左目に黒の生地に赤の薔薇の綺麗な刺繍が入っている眼帯を付けている。
今思うと結構不審者だと思いながらも後に引けない命だった。そんな事を思っていると三本目に入る。しっかりと手にはポケット灰皿が装着されている。歩きたばこを悪びれずにする辺り常習犯なのだろう。
「人が集まるとその分塵の出る量が増える。そして塵が積もれば?」
「……山となる?」
急に話始めたので少し反応に送れる。
「そう、正解。塵が積もりすぎると奈落という穴が開く。詳しく言うと長くなるからここは省くね」
「じゃあ今見えてる穢レはできるだけ掃除した方が良いんじゃないんですか?」
命は自分なりに考え質問をする。するとすぐに返事が返ってきた。
「感情を出さない人間はいない。毎日教室を掃除しても多少のホコリとかが出るのと同じで消しても消してもキリが無いんだ」
そう言うと小学校に到着する。「ここが小学校です」と言うと女性は校舎を指差した。
「今なら見えるだろう? 大量の穢レが」
校舎全体にべっとりと纏わりつく穢レ。そこら辺りに漂っている。
「はい。見えます」
「アレが穢レ。そろそろ奈落に落ちそうだから後で言っておかないと」
独り言を言ってメールを誰かに送信した。そして
「そう言えば自己紹介忘れてたね。私の名前は
「どうも。
舞桜の名刺には穢消師”金1”と書かれた文字が掛かれていた。
「そう、こういう穢レを消滅させて人の役に立つ仕事をしているんだ。隣の金とかは気にしなくて良いよ」
「明日もっと詳しく話がしたいからさ。どう?」
舞桜はタバコを命に一本渡そうと差し出した。命は「俺未成年です」と断った後、先程の父親の電話の内容を思い出し、
「あ、明日から祖母の家行くんで」
と、断った。
「どれぐらい?」
「まあ一週間ほど?」
「ああ、お盆か」
「そうです」
「分かった。じゃあ一週間後予定が全部終わって時間取れたらそこの番号に電話してね」
「バイビー」
そう言うと舞桜はフラフラとタバコを吸いながらどこかに消えた。
「これが穢レか」
君の悪い校舎を見てそう言った後明日の用意をする為に帰宅した。
「相変わらず遠いなぁ桜龍町」
次の日ガラガラに空いている電車に乗って命は祖母の住む桜龍町へ向かっていた。背中には三日分の着替え。手にはお供え用の大量の菓子。誰もいない車内なので隣に置いて目的地へと向かう。
「ホントどこにでもあるな穢レって」
車内の入り口には穢レが漂っていた。目的では無い駅に止まって再出発。後ろの景色を見ようと首を回す際、誰かがいるような気がした。
「人?」
そんな気がしたが気のせいだと考えて景色を楽しんだ。駅に着くとそこから数十分の歩き。強烈に暑い日差しを浴びながら歩く。やっとの思いで祖母の家に到着し、まずは窓を開けて換気。使う部屋のクーラーを掃除モードに切り替えなど色々忙しく動く。大体のやることが終わりお菓子を神棚に置いた所で扇風機で一旦休憩する。
「ふぅ……家デカいから窓開けるだけでもしんどいな」
自販機で買ったお茶を飲みながら涼む。
「そうだ自転車出さないと」
小屋からよく祖母が乗っていたママチャリを取り出しタイヤなどを確認した。全てやることが終わり冷たい部屋で涼む前に線香だけ上げようと火をつける。
「ただいま」
そう言った瞬間、誰かが命の顎を手で掴み、顔が固定された。誰かが後ろにいる。しかし振り向けない。
「こんにちは」
そう耳元で誰かが囁いた。
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