【破壊神を目指して】1話:狂犬、異世界到達

見たことない果物、見たことない魚、肉、あとは…………なんか名前の知らん料理。


大抵盗んだが大抵美味いな。


ここは夢の世界…………いやどうやら現実らしいから夢のような世界というのが正しいか?


前世では不登校+家無し金無しで盗みで生活していたクソ学生、現在はそんなクソみたいな前世の影響か、あらゆる物を盗むことに特化したスキル『強奪の右手スティールライト』なるものを習得していた。


名前は勝手に頭から出てきた、こういうもんなんだろうと受け入れた。


簡単に言うと、右手の掌をかざした物は俺の手に引き寄せられる、こっちがある程度強く念じれば壁やら人やらも貫通するおまけ付きだ。


…………死後直後の記憶は無いが、たしかに死んだという強い記憶はある。


俺は死んで、姿は特に変わらず泥棒にでもなれと言わんばかりの能力を得てこの世界に来た。


目覚めたら俺は気味の悪い紫色の全身覆われた装束を来た奴らが取り囲んでたもんだから、出口塞いでる奴をぶん殴って外に出た。


中は随分広かった。


数分走り回っても迷路みたいになっていて、出口が見つからなかったもんだから、窓を割って脱出した。


飛び降りた所を真っ直ぐ抜けるとそこには賑わってる街があった。


後ろから俺を囲んでいた連中かその仲間か知らないが、大人数追いかけて来ていたためひとまず人混みに紛れ込んだ。


腹減ったので、とりあえず見かけで美味そうな物を少々見繕う。


もちろん無一文のため全部無料だ。(?)


ここら辺ですでに、なんかいつもより物を掴みやすいことには気付いていた。


そんで、しばらく街中の賑わってる市場を駆け抜けて、街外れの路地裏で休憩中という感じだ。


ここまで言って何が言いたいかと言うと、俺自身も何がどうなってるか知らない。


まあ一つ言えるのは、死んで知らん世界に来ちまった、ってだけだ。


転生…………てやつ?


神もなんで俺みたいな底辺野郎を転生させたんだか…………もしや底辺だからか?


こういう奴程違う世界に呼び込んだらおもしれーだろとかほざいてんのか?神は?


いるかどうかも分からない神に怒りを抱いていると、俺の休んでる一方通行の路地の反対から、何やら怪しい輩が走ってくる。


手には…………キラキラ光って、色も赤くて…………まさに宝石と言わんばかりの玉が…………。


ふむ…………もらうか。


おそらく追っ手を撒いたのだろう、肩で息を継ぎながら盗っ人(たぶん)は地面に座り込む。


「それ、寄越せ。」


「ん…………?え……は!?おい!!」


俺は男が手に抱えていた赤いオーブのような物を奪う。


いきなりそれを盗まれた盗っ人は驚いた顔をしてすぐに取り返しにかかってきたが軽くあしらって無視しておく。


ふうむ、この手触り、重み、よく分からんが何かしら目に見えない力さえ感じるこの宝玉…………結構高く売れるんじゃね?


「てめぇ、いきなり出てきて、何人の物盗ってんだ…………返せ!!!」


ほう、殴ってきた。


そんなに早くなかったから避けたけど、殴られたから殴って良いよなぁ?


あ、手に宝玉持ってて殴れねぇ。


ということでうるさいので奴の土手っ腹に思いっ切り蹴りを入れてやった。


「ぐえぇ!?!?」


相当体重が無いのか、数m吹っ飛んで路地から通じてる露店街まで盗っ人は吹っ飛んだ。


…………まあ良いか!とりあえず質屋にでも行ってコイツの換金を…………。


「誰か!!捕まえてください!!アイツ、王国の秘宝である『紅の龍玉』の盗っ人です!!」


「何!?」


「りゅ、龍玉を盗んだ盗っ人だと!?」


…………アイツ、気持ち悪い性格してやがる。


まあ俺も人の事言えないけど。


こういう時は路地の反対に逃げるとすぐバレるし捕まる。


から…………俺はを選ぶ。


龍玉はギリギリポケットに収まるサイズだったため、機動力はそこまで失われることはないことも幸いした。




簡単路地裏上りテクニック

1.その辺のゴミ箱を踏み台にして届くところの壁で掴めるとこを探す。(大体ある。)


2.掴んでる壁をキックして一方の壁までたどり着く。高さにもよるが高い場合はこれを3~4回繰り返す。(※というか3~4回が限界、俺調べ。)


3.ここは賭けになる、ので事前に上を確認しておく必要がある。(今回はちゃんと見てる。)

大抵水道管だのダクトだののパイプが建物に繋がっているため、それらを掴めるもの掴むor乗っかる。


後は、2と3の繰り返しで大抵は上に行ける、というかこれで行けなきゃ挑戦せず大人しく路地裏の反対に行った方がマシ。


ということで、路地を作っていた建物の屋根にたどり着いたわけだが、さすがに追っ手は…………まあいるわけないわn……。


「待てこらぁぁぁぁぁ!!!!!」


…………あの盗っ人も路地は登れる系盗賊だったか。


俺の蹴り受けてすぐ喋ったり、こんな高価そうなもん盗んで追っ手撒いてたり、実はアイツそこそこ上澄みの盗っ人か?


まあ何でもいいが、俺はこれで金を作ってとりあえずこの追っ手ばっかの国をオサラバするんだよ。邪魔すんな。


とりあえず俺は露店街の屋根を走って質屋かこの国の出口を探す。


やはり上から見るとみやすいもんで、どうやら俺が逃げてきた城を中心に東門と西門で分けられているっぽい。


人が多そうなのは…………西門だな。


紛れ込みやすそうな方を優先して、俺は門を目指す。


宝玉の盗っ人も結構足が早いらしく、真っ直ぐ俺に着いてきている。


めんどくさいな……。


気絶するまでボコしても良かったが、気付かれてこれ以上追っ手が増えるのも面倒だ。


このまま行こう。


俺はもう少しスピードを上げて建物をそれぞれ渡っていく。


元々死ぬ前からやってた逃げ方だから、パルクールはお手の物だ。


城下町の建物を、1軒、2軒、3軒と屋根を飛び越え伝っていく。


もう数分もすれば着くはずだ。


後ろの盗っ人との距離もこれくらいなら…………ん?アイツ……どこ行った?


「やっと捕まえたぞごらぁ!!」


!?


いつの間にか足には糸が絡まり、俺は屋根の着地が出来ないでいた。


高さは大体3階層の一戸建て、ここから受け身できず落ちれば…………死。


と言っても、受身はできないことは無い、問題なのはアイツに捕まることだ。


そう思いながら、地を背に空を眺めると、あの盗っ人は上に居た。


どんな芸当を使ったのやら、低めのマンションなら飛びこせるくらいの上空から、か細い糸を操り俺を引っ掛けたらしい。


ちょうど俺が距離を話そうと速度を上げた時に目を離した際飛んだのだろう。


しかしまあ、捕まるのは面倒だな、アイツ意外と強い感じするし……。


ひとまず俺は身体を180度捻り地面と向き合ったところで、着地のタイミングに合わせ絡まった両足を勢い良く振りかぶることで、何とか足裏で着地してやった。


全身に衝撃が伝わりとても痺れるが、なんてことはない。


さて、走るためにはどうしたら…………。


「……たく、落下で死ぬと思ったら、しぶといヤツだ。まあいいや、絡んできたお前が悪いんだからな、死ね。」


先程の盗っ人が、上空から着地してきて目の前に現れた。


片手には、短剣…………持って突撃して来てる辺り殺す気らしい。


…………舐めやがってガキが。


ちょうどいいや、俺には良いスキルがあるんだよ。


「『強奪の右手スティールライト』♪」


「はぁ!?」


突撃して来た盗っ人に俺はスキルを使用してナイフを奪う。


そのまま凸ってきた盗っ人には、左ストレートを顔面にお見舞い。


結構良いのが入ったのだろう、しばらく悶えていた。


俺はその間に奪ったナイフで絡んでた糸を切る。


切ったあとは、とりあえずこいつがそろそろめんどくさいから馬乗りになって少し


「おいオマエ、さっきからしつこい。俺が奪ったもんしつこく取り返しに来るな。めんどくさいからオマエ殺すわ、何か言いたいことあるか?」


すると盗っ人は、怯えたり泣いたりすると思いきや、反応は意外と淡白なものだった。


「チッ…………オレの負けだ。殺せ。それを盗られれば元々オレの命の価値は無いようなもんだ。」


そう言い盗っ人は目を瞑る。


まあそういう矜持なんだろう。


殺せと言ってくれてるのだから、殺さない理由も無い。


殺さなきゃ追いかけて来るし殺しておこうそうしよう。


そう思い俺は、ナイフを盗っ人の心臓目掛けて振り下ろす。


しかし、ナイフを振り下ろそうとする腕は、頂点に達したまま動かない。…………なんでだ?


「そこまでだ。」


すると、またもや上から声がする。


見上げると、大体150cmくらいだろうか?それくらいの女が立っていた。


……あの服は…………忍者か?


そして、忍者風の女は飛び降りてきて、俺の持っていたナイフを取り上げる。


と、同時に目にも見えぬ速度で俺は糸でグルグル巻きにされる。


おいおいこれじゃ、俺がまるで悪者みたいじゃねぇかクソが。


「大丈夫か?アル。」


「ねえちゃ…………!姉御!助かったァ…………。」


まずいなぁ、盗っ人も自由になっちまったし、その連れも来てその連れは盗っ人よりよっぽど強そうだ。


おまけに身動き取れず…………。


負け確?


「たく、手間取らせやがって、これは返してもらうぜ。」


盗っ人にポケットに入れていた龍玉を盗られる。


チッ、俺の資金源が。


「姉御、コイツとりあえず殺そうぜ、よく分からないけどヤバい奴だよ。害悪以外の何者でもない。」


「動けないからって酷い言い草だなぁおい。」


「ハハハ!強がりか?お前の命は今オレたちが握ってるんだぞ?」


「お前は死ぬのが怖いのか?」


「は?怖くない奴なんていないだろ。」


「ハン!浅いな。」


「あ!?何だと?」


物理的に痛いことも死ぬほどやってきたし、今更刺して殺されようが糸で首を絞められようが、殺されることに大して恐怖は無い。


唯一気がかりなのは、せっかく新しい世界に来たのにこんなしょーもない死に方は、つまんねぇなぁとは思う。


そんな俺を見て、先程からずっと黙って俺と盗っ人のやり取りを眺めていた女忍者が話しかけてくる。


「お前は、死ぬことを怖いこととは思わないのか。」


「別に、痛いこと、辛いことも死んだら全部無くなるだろ。それに……やりたいことやれずに老いぼれるより、やりたいことやってすぐ死んだ方が俺は俺だと認められる。やりたいことやって、そのために死んだなら、まあしょうがないかって感じ。だからといって、今みたいに目標も達成出来ず死ぬようなしょうもない死に方、正直つまんねぇなぁとは思うけど。」


…………普通に喋っちまったけど、なんだこの女は。


あの盗っ人と違って、真っ直ぐこちらの目を見て話を聞いてきやがる。


こんな連れのお宝盗んだ泥棒の話を。


「そうか、良い信念だな。」


すると、女忍者はこちらに背を向け、盗っ人に指示を出した。


「アル、そいつウチに連れてくぞ。」


「ハァ!?ねえ…………姉御!?何言ってんだ!!コイツ龍玉盗んだコソ泥だぞ?平気で露店の食い物も盗んで歩いてるし、挙句コイツオレを殺そうとしたんだぞ?」


「なら、実力はお墨付きなわけだ。行くぞ。」


そう言うと、女忍者は一瞬で消えた。


速いなアイツ。


すると、グルグル巻きの俺は、さっきの盗っ人の脇に抱えられる。


「おい、なんのつもりだ?」


「知るか、オレだってどうなってるか分からねぇよゴミ。ただ一つ分かるのは、なんでか知らねぇがお前をオレたちのアジトまで連れて行かなくちゃならねぇってことだ。」


そう言うと盗っ人は、何かが染み込んだような布を俺の口にあてがう。


「グッ、てめぇ…………急に……なに…しやが………………………る……。」


その瞬間、俺は意識を失った。





















気が付くと、俺はグルグルに糸で縛られたまま椅子に座らされていた。


「おはよう、よく眠れたか?」


「クソ寝覚めわりい挨拶をどーも。」


目の前には、俺を縛っている忍者女がいた。


さっきまで一緒に居た盗っ人はこの場にはいない。


「さて、ようやくお目覚めのようだし、少しこちらの話をしよう。」


そう言うと忍者女は目の前に置いてあったもう一脚の椅子に座り質問してくる。


「断れば殺すが、お前ウチに雇われる気は無いか?」


訂正しよう、質問ではなく脅迫だった。


「俺が死にたくない場合それは一択しかない訳だが、生憎俺は死ぬしか無いならどんなにしょーもなくても諦めるたちでね。だから、内容による。」


まあ俺にとっちゃ脅迫ではないのだがな。


「そうだな、ほぼほぼなんでも屋みたいな感じになるだろうが、主にやってもらうのは……盗み、破壊、殺人等等、表沙汰にしたら=おたずね者になることばかりだな。」


…………普通ならコイツ何言ってんだって感じだが、コイツの部下的な位置であろうあの盗っ人も俺の居た国のお宝っぽい宝玉盗んでたし、まあそういう集まり何だろうと納得する。


だが、俺が聞きたいのはそこじゃない。


「内容はどーでもいい。俺はやれと言われたら大体はやってやる。だが、その先の目的は何だ?俺は興味あることなら大抵は乗ってやるが、しょーもない目的なら断る。」


その盗みやら殺人やらの犯罪で、いたいけな孤児やら貧相な村を助けたいとかなら、ありきたりな偽善過ぎてつまらん。


それこそそうだな、もっとこう、社会が一気にひっくりかえるような…………。


「そうだな…………今ある世界を壊したい、と言ったらお前は笑うか?」


「…………へぇ?どういうことだ?」


ムカつくが、ちょっと面白そうなこと言うじゃん。


「具体的なやり方はお前が乗れば明かすが、私達はある方法で、この世界の主要国それぞれを壊滅させ、今ある社会を壊し、その根幹を一から作り直そうと思っている。もしお前が協力するなら、それを手伝わせてやってもいいってことだ。どうだ?お前みたいなやつなら正直乗ってくるかと思ったが…………違うか?」


………………まあ乗ってやって方法を聞いて、面白そうなら逃げるか死ぬかすれば良いしな。


「正直、勇者として魔王ぶっ殺すとか、哀れな妖精やらエルフやらを助けるとかなら自死でもしてやろうかと思ったが、そういう話ならあんたの言う通り大好物だ。良いぜ、盗みだろうが殺人だろうがなんだってやるぜ。」


俺がそう言うと、今までビクともしなかった糸が、スルスルと解けて椅子の下に落ちていった。


「その言葉が聞けて嬉しいよ。では自己紹介でもしておこう、『スレッドファミリー首領ボス』マルノリヤ=スレッドだ。」


「まあ、すぐ抜けるとは思うが、一応よろしくしとくわ。ただのコソ泥もとい、いつかアンタら含め世界をぶっ壊したりでもしようと思ってる男、トドロキ 壊斗カイトだ。」


こうして、いつの間にか死んでいつの間にか来た異世界で、俺は思うがままにぶっ壊せそうな道を進み始めた。




これから楽しくなりそうだ。

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