第9話 心の葛藤
「裏ルートなんてあるんですか?」
俺は正規の六ルートしか攻略法を知らない。まさか裏ルートなる物があったなんて。
「あぁ。裏用のシリアルコードを打ち込むと裏ルート仕様のシナリオになる」
「でも、奴は俺のことを知りませんでした。要するに一回しか攻略してないんですよ?」
「おそらく最初から裏ルートを使って攻略したんだろう。邪道にも程があるけどね。実は僕の食事に毒を盛られたんだ。毒味役が今も寝込んでいる」
そんな恐ろしいことになっていたなんて。
「どういったものなんですか? その、裏ルートって?」
「プレイをしたことがないから詳しくは知らない。ただ、部下に暗殺者集団を飼えるらしい」
「ってことは……」
「邪魔者は殺して令嬢を手に入れるんだ」
なんていう暴力的なルートなんだ。そんなのなんにも楽しくないじゃないか。王子がライバルなのは決まっている事だから先に殺しに来たのか。
「僕はここから出られない。レベリングができないんだ。君は出来てるんだろう?」
「はい。ハクトもしてるみたいですが、闘技大会の感じだと俺が上だと思います。暗殺者を飼ってるとなると、暗殺者を殺るには俺のレベルが足りないかもしれないですね」
中ボスのコーザとラスボスのダクアも邪魔だから殺すというリストには入っているとみて間違いない。
そうなって来るとレベルが高くなる前に狙ってくる可能性はある。コーザ、ダクア、共に俺よりレベルは低い。
助けたいのは山々だが、少し様子を見よう。どこから狙ってくるかはまだわからない。あんまり彼らには思い入れないしな。
「どうか助けて欲しいんだ。頼む!」
転生者だからなぁ。助けてあげたい気持ちはある。それに、王子様が味方の方が何かと動きやすいはずだ。
「わかりました。とりあえず王子様よりこちらが邪魔だと思わせましょう」
「それだとオルト殿が!」
「アイツらには悪いんですが、元々主人公にやられる運命です。少し早いですが、囮になってもらいましよう」
ここは割り切るしかない。コーザ。ダクア。役割を果たしてもらうぞ。
「すまないね」
「いえ。では、俺も帰って鍛え直すとします。最終目標は生き残って五回目の社交会を終えること。俺もタダではやられません。レオン様も、気をつけてください」
「うん。騎士団には警戒するように伝えておくよ」
────パチンッ
指を鳴らして魔法を解除する。
「それではな。有意義な会になったよ。ありがとう」
「はっ! 勿体なきお言葉でございます」
扉を開けて出ていくレオン様。その背中は少し小さく見えた。もしかして、転生前は俺より年下だったのかな。舐められないようにあぁいった言葉遣いだったのかも。
それなら尚更だ。俺は王子様を助ける。そして、自分も生き残る。まずは、アイツらに連絡しよう。
自分もその部屋を出るとそそくさと王城を後にした。馬車が待っていたので申し訳ないなと思い労いの言葉をかけると目を潤ませていたのは少し驚いた。
屋敷に戻って自分の部屋に入ると真っ先に通信用の魔道具を引っ張り出した。
『……こちらコーザ』
「コーザか。社交会は楽しめたか?」
『はい! あのルールー様は私と気が合いますぞ! すごい楽しかったのです!』
胸が締め付けられる。ルールー様と上手く行きそうなところを、俺はぶち壊そうとしているんだと改めて思い知らされた。
アイツらには悪いけど囮になってもらうだ?お前は何様だよ。裏ボスそのものじゃねぇか。せっかく転生してこの世界の知識もあるのに、俺はキャラそのものと同じ動きをしているようなもの。
あぁ。胸糞悪い。あんなに裏ボスを恨んでいた気持ちはどこにやった。俺はそんな奴にはならないと決意したんじゃなかったのか?
「そうか……。よかったな! それを聞きたかっただけなんだ! すまんな!」
『なんだ! そんな事ですか! では、また!』
「あぁ。またな……」
俺は……人の命を弄ぶ権利などない。ゲームの世界かもしれないが、今の俺にとっては現実の世界。みんなにとってもそうだ。
考えろ。考えるんだ。ハクトは暗殺者たちを飼っていると言っていた。金で飼っているのか?シーライズ伯爵家はそこまで裕福な家柄ではなかったはず。
主人公の仲間と呼べるキャラか。誰かいたかな。お助けキャラ的な誰か。スラム街の子達にご飯を分けてあげるイベントがあったな。
あれ?その後に懐かれるんじゃなかったか?その方面からスラム街の荒れくれ者達を手なずけたのだとしたら。
王城にはスラム街からも拾い上げた子供たちが居たはずだ。その子たちにやらせたんだとしたら説明はつく。
どうすればやめさせられる?こっちから接触すれば寝返らないか?報酬を倍出すといったらどうだろうか。いけるんじゃないか?どう接触すればいい?
待てよ。こっちから接触すればもし寝返らなかった場合、全面対決になる。こっちは俺ぐらいしか戦える人員がいない。仕方ないな。やつの狙いはララだろう。ララにダクアをあてるか。それで、俺が護衛をする。
そうすればいいんじゃないだろうか。
ちょっと次の社交会でいかせてみよう。
再び通信魔道具を手に取った。
「ダクアか? 頼みがあるんだ─────」
こうして俺は第二回の社交会に向けて準備を進め始めた。
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