第8話 王子様と
煌びやかな王子は皆に手を振りながら入口から入ってくる。すると、周りを見回しながらこちらを見たとき僅かに目を見開いたのだ。
なんだろうか。あの驚いたような仕草は。俺がいることに驚いている?
たしかに社交会は今回が初めてだし、他の次期当主に会うのも初めてだからそういう反応なのかもしれないが。何か少し気になるな。
一直線にセイレーンの所に言って挨拶をかわす。そのあと七大美麗の一人一人に挨拶をしていった。
ちょっと待てよ。こんな場面あったか?
初回の社交会で王子が一人一人に挨拶?
俺は眉間に力が入っていることにも気が付かずにずっと王子を見てしまっていた。まさか、こちらに来るとは。
「ごきげんよう。オルト・ダークネス殿だね?」
名前を知っているのは当然か?
「はっ! お初にお目にかかります! レオン・テトラ王子!」
俺は咄嗟に跪いて挨拶をする。
「……挨拶に違和感はない」
小声で話しているのが聞こえた。
俺を試してる?
もしかして、王子も転生者か?
「オルト殿は闘技大会で優勝していたな。いやー。強くて羨ましいよ。そうとう鍛錬しているんだろうね?」
「はっ! お国を守るために周辺の森で鍛錬を積んでおります!」
どうだろうか。いい受け応えだと思うのだか。そう思いチラリと様子を伺うと口角を上げていた。
「令嬢を落とすためじゃないのか?」
「はっ?」
静かな声であまり周りに聞こえないようにそう言ってきた。
思わず反応を口に出してしまった。
まずい。消されるぞ。
王子が手を差し伸べてきた。
手を取り立ち上がると耳元に顔を近づけてきた。
「オルトは裏ボスだ。表に出てくるはずがない。君も転生者なんだろう?」
頭から熱が引いていく。
ヤバい。ばれた。
どうする?
どうすれば俺はこの場を切り抜けられる? 恐らくだが、闘技大会からみて狙われていたのだろう。
────ゴクリッ
自分の喉の音が耳に響き渡る。
どうしたらいいか分からない。
どうすれば俺は消されないでいられる?
「……王子様の……邪魔は致しません」
目を見ながらそういうとニコッと笑った。
それでいいということか?
「後でお茶でもしようか」
「はっ! 有り難きお言葉でございます!」
「皆に挨拶したら一緒に行こう」
「はっ!」
これで終わらないということか。どうしたらいいんだ俺は。頭が働かない。王子は去っていった。
「オルト様は凄いですね! 王子様に気に入られるなんて!」
アルスはそう褒めてくれるが、俺の中では絶望が広がっていた。もしかしたら、自害しろとか言われるんじゃないだろうな。
そう言われたら俺は断れないんじゃないか?だって王族だぞ?俺を殺したところで罪には問われないだろう。なにかしら罪をでっち上げればいいんだから。
そこから社交会が終わるまでの一時間は食べたものの味もしなければたっている間はフラフラするし。ヤバい状態に追い込まれていた。
「オルト殿? 大丈夫か?」
気が付くと目の前には王子様がいた。
「はっ!」
「行こうか。社交会はおひらきだ」
「はっ!」
俺は後をついていくしかなかった。
俺の人生、短かったな。
案内されるがままに部屋に入っていき、扉が閉じられる。
「オルト殿は魔法は使えるのかな?」
「はっ! 使えます!」
やべぇ。魔法を警戒されて抵抗できないように取り押さえられるのか?
「この部屋に音を遮断するものは張れるかい?」
今の俺のレベルは28だ。魔法は攻撃魔法とデバフ魔法。防御魔法と空間干渉系までは使える。大規模魔法はないが。
「はっ? はぁ。張れますが?」
「よしっ! みんな部屋から出てくれ。オルト殿と二人にして貰えないか?」
ニコッと笑うとそう言葉を紡いだ。
「しっ! しかし、王子!?」
騎士達が狼狽える。
「大丈夫だよ。オルト殿は信用できるから。絶対大丈夫」
目に力が篭っている。なんだ?どういうことだ?
「はっ! わかりました! では、外で待っておりますので、何かあったらお呼びください!」
「うん。何も無いから外で待ってて」
手をヒラヒラと振ると部屋から出ていく騎士たち。
扉が閉まる。
「魔法を頼む」
「はい! ダークルーム」
部屋一面が黒色になり、黒一色の部屋に変わった。これは敵を逃がさないようにするもので、これでオルトは拷問などに手を染めていたようだ。
王子はおもむろに席を立つと扉の前に立った。
「おーい! 使えない騎士共ー! 聞こえるかー!?」
急に大きな声を出した。
「なっ!? どうしたんです?」
俺が問掛けると壁に耳を当てて満足そうにやって来てソファーに座る。
「はぁ。すまないね。急に呼び出すみたいになって。実は僕も転生者なんだ。いきなりで驚いたよね? 実は闘技大会で見た時に転生者だと気付いて話がしたかったんだ」
急にフレンドリーになったな。さっきまでは王子として振舞っていたということか。
「実は、助けて欲しいんだ。僕は命を狙われている」
「えっ!? 誰に? そんな設定ありましたか?」
「ないんだ! だから、転生者が他にいるんだ!」
俺はもう一人の転生者を知っている。
「ハクトが転生者ですよ?」
「主人公が?」
「間違いないです」
「それなら、奴は……裏ルートの攻略をしてるかもしれない」
「えっ!?」
裏ルート?
そんなルートがあるのか!?
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