第7話 アルスと仲良くなろう
ハクトがララにアタックしているのを横目にアルスを探す。
隅の方で食事をしていた。
俺も食事を適当に皿に盛り付けてアルスのもとへと向かう。
「ごきげんよう。アルス・リーベン殿ですよね? お初にお目にかかります。オルト・ダークネスと申します。お食事はどうですか?」
「これはご丁寧に。オルト様は公爵家ですよね? そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ?」
アルスは俺の事を訝しむことなく受け入れてくれていた。武力はこの世界では強い者が地位が上という実力社会の様相を呈している。
だから、レベリングをして、自身を強くしているのだ。そうする事で、令嬢がこちらを認めるようになってくれる。という設定のゲームだったのだ。
「はははっ。すまないね。いや、実は初めての社交会で緊張していたんだ。アルス殿に出会えてよかった。仲良くなれそうだ」
俺は会えて仲が良くなる前提で話す。
「そう言って貰えてこちらも肩の力が抜けますよ」
「そうか。力が抜けたところで聞きたいんだが、狙っている令嬢は居るのかな?」
俺は直球に聞いた。ゲームではアルスの狙っている令嬢など出てこない。ただ、エマが最初に思いを寄せているという設定がある。
その為に、アルス自身はどうなのかを聞く必要がある。
「私はエマが話しやすいのです。ですが、エマと仲がいいマーニー様も気になっています。三人でよくお茶会を開いてましたから」
やはり少しはマーニーにも気があったのか。マーニーとエマは仲がいいという設定があった。だからもしかしたらとは思っていたが、本当にアルスが狙っているとは好都合である。
「そうか。実は折り入って話があるのだが」
「何でしょうか? オルト様にお力添えしますよ?」
「実はな? エマ様に心を惹かれているのだ」
暫しの沈黙の後に喉が鳴る音が聞こえた。自分が少し気にかけていた幼馴染を公爵が気に入ったと言っている。これでは、手を引くしか選択肢はないのではないだろうか。
アルスにはすまないが、もう少ししたらエマの前から退場してもらおう。マーニーとくっつけるのがいいかもしれないな。
そんなことを考えながら食事を食べていると、アルスの方から質問された。
「お噂で聞いたのですが、昨年の闘技大会を優勝したというのは本当でしょうか?」
俺を見ても半信半疑だったのか。それとも見てみて真実なのだろうと思いながら聞いているのか。
「あぁ。それは本当だ。兄上が失態を侵したので恥ずかしいかぎりであったがな」
「やはり本当だったのですね。オルト様はお強い様ですし、エマにはお似合いでございましょう」
こうアルスに言わせたのならこっちのものではないだろうか。恐らくこれで、エマから手を引いてくれるんではないだろうか。
「ありがとう。ウィンナーを取ってこようか?」
「ありがとうございます。しかし、そんなにお気を使わなくても……」
「いやいや。良いんだ。ウィンナー、美味そうだったぞ?」
そういうと別のトレイを取ってアルスが食べそうなものを皿に盛り付ける。ウィンナーとハンバーグ、パスタ、揚げ物。サラダに鳥の肉。
二つの皿に取り分けてアルスの元へ行く。
「なんかお気を使われていますか?」
「はははっ。わかるか? ちょっとエマ様をアルス殿から取り上げてしまうようで申し訳ないと思ってな」
ひとつの皿を差し出し、誤魔化すように笑う。
「いいんです。別に私が婚約者というわけでもありませんし。お気を使う必要はないかと」
「まぁ、私の気持ちのケジメというか、そういったところなんだ」
本当に申し訳ないとは思ってるんだ。けど、自分の作戦だからと割り切っている部分もある。
「オルト様は不思議なお方ですね?」
「ん? そうか? なぜそう思う?」
「なんか、公爵家ってもっとこう……」
「横柄か?」
アルスが言いづらそうだったので俺が代わりに言ってやった。けど、それもちょっと申し訳なさそうにしていた。
「はぃ。セイレーン様とか見ていると……」
スッと二人の視線がセイレーン様に向く。遠くからでもあの煌びやかな感じが伝わってくる。そして、お高くとまっている感じも。
「なんか上からだよな。態度が」
「私はそこまで言えませんが、なんか近づきにくい感じはあります。先程ご挨拶されてましたよね?」
「そうだな。形式上な。一応セイレーン様から挨拶しないとあとが面倒だろ?」
俺はアルスに寄っていって小声で話す。周りに聞こえてしまってはあまり良くないと思ったからだ。
「はははっ。たしかにそうですね。同じ地位だとそれはそれで面倒なのですね」
「そうだな。下のものは頭を下げるくらいでいいだろう。一々挨拶していたらそれだけで一晩終わってしまうわ。それに、セイレーン様は目も合わせないだろうしな」
「オルト様にもですか?」
目を見張ってこちらを見る。俺にも目を合わさないのであればかなり失礼だろう。
「それはなかったが、みろ?」
アルスに目線でセイレーン様を見るように促すとそこには男爵の御令息が挨拶に行っている。なかなか勇気があるな。
しかし、セイレーンは名前と位を聞いても料理から目を離さずにずっと食べ続けている。そして少し話すと御令息は悔しそうに去っていった。
「俺以外にはあんな感じだ」
たしかセイレーンは王子様にしか興味がなかったはずだ。王子様はまだ来ていない。けど、そろそろ……。
会場がワッと沸いた。
その方向を見るとこれはまた豪華な衣装に身を包んだ王子様がいた。
そう。ドタ恋の最大のライバルは王子様だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます