第16話 闇の抵触
女性を介抱する場所を探し歩くガトン達の目の前に、淡く光るランタンを持った青年が現れた。白いフードを深く被っているため顔はよく見えない。だが青年はガトンに抱えられた女性に気づくと、着いてこいと言わんばかりにランタンの灯りを強めて迷いなく歩き出した。
「ついていくしかないよな……」
「アイリはついていくべきだと思います」
顔を見合わせるガトンとアイリの背中をギルバートが押した。
「他に道がわかる人いないし、いいんじゃない」
そう言って先を歩くギルバートに、ガトンとアイリは不安を抱えながら着いていった。
白いフードを被った青年に着いていった先にあったのは素朴な山小屋だった。青年は奥のベッドに女性を寝かせる様にガトンを先に室内に入れた。アイリには紳士的な振る舞いでソファーに案内したが、ギルバートは決して山小屋に入れなかった。
明らかな殺意。それをギルバートは察して山小屋に無理に入ろうとはしなかった。ただ、青年はただの人ではないことを、ギルバートはもちろんアイリもガトンも感じた。
「外で野宿するには厳しいだろう。幸い毛布はあるからソファーでよければここに泊まるといい。俺は少し外で彼に話があるから失礼するよ」
てきぱきとガトンとアイリに毛布とお茶を出した青年は、最後にベッドに横たわる女性のおでこにキスをして、突風のように山小屋から出ていってしまった。
有無を言わせない早さに、ガトンとアイリは状況が飲み込めずに、改めて顔を見合わせ、深く考えないようにしようと結論づけて先に寝ることにした。
「きっと彼は恋人や家族です! 彼女を傷つけた最低男に説教をしに行ったんですの。アイリは大人なので首を突っ込まずに寝ます」
「いや、違うと思うが……まあ、そういうことにしておこう」
ガトンはあの青年が山のヌシか精霊の類ではないかと思い、朝にはギルバートがいなくなっていそうだと頭を痛めながら毛布にくるまった。
山小屋を出た青年は、フードを脱いでギルバートに嫌悪を隠さない大きなため息を吐いた。
「君、魔王討伐を餌に古代魔術を乱用してるってやつだろう。悪いことは言わないから引き返しな。公国と帝国の領地外なら俺も目を瞑ってるんだけど、ここまで近づかれちゃあ寝ていられない」
青年の悪態をなんともせず、ギルバートはいつも通りに笑った。
「なんのことだか」
ギルバートの飄々とした態度に青年は再びため息を吐いた。そして顔を上げた瞬間、青年の足元から無数の黒く鋭い鉤爪がギルバートに襲いかかった。
「魔王はとっくの昔に封印されている。今も。それはこれからも変わらない。だから君のような魔王討伐を餌にするようなのが近づかれるのは困るんだよ」
身軽なギルバートといえど数には勝てず、地に押さえつけられた。
「ぐっ……ふ、ふははっ! やっぱり魔法には美学が感じられないなぁ。武器や防具のように作られるまでの物語が足りない」
多くの鉤爪に体を押さえつけられて身動きが取れない状態でも、ギルバートは笑っていた。
「あの女性は俺に怯えていたけど、ああいう人間ほど武器に転換させると光り輝くモノがある!」
青年は口の減らないギルバートを蛆虫のように見下したまま、氷のように冷たく言い放った。
「まあ、そんなこと俺がさせないけどね」
「そんなことをいうアンタは一体何者なんだい?」
ギルバートの質問に青年は名乗りはしないが、わかりやすく言った。
「魔王の半身だ」
「ああ、だからこんなに人間味が無いのか」
「他に言い残したことはないだろうな」
「あれ? 俺ってば殺される? だったらそうだな、うん、言い残したことあるな」
「最期の言葉くらい聞いてやるからさっさと言いな」
青年が鋭い鉤爪でギルバートの喉を裂こうとしているというのに、ギルバートは普段と変わらない声色で青年に笑いかけた。
「取引をしないかい?」
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