第14話 召喚師との出会い
ピリカがいなくなって一番困ったのは、魔王城の位置の特定が曖昧になったことだ。魔王討伐と王命を受けたといってもその肝心の魔王のいる場所までは特定されていない。
武器商人としての人脈と風の噂で、ギルバートは大まかな場所を知っているが、ピリカの占いで行くべき方向がはっきりとしていた。しかし今はギルバート頼みになってしまった。
ガトンはアイリとギルバートのことを心配し、街で最新の地図を入手してこれからの事をゆっくり宿で話し合おうと提案した。
「ピリカがいない以上、ギルバートの情報だけでは特定は難しいだろ? 大まかな場所だけじゃあ、しらみ潰しに探したって無理がある」
「俺はそれでかまわないよ。久しぶりに女の子と遊びたいしさ」
「アイリも、賛成です……」
「じゃあとにかく街へ行こう。ピリカがこの先の山を越えた先にあるって占ってくれてたしな」
ピリカが昨日の朝に占ってくれた方角へ、三人は足を進めた。
山深くまで進んだ先で、三人は不思議な女性と出会った。王国では書物でしか知ることがない、魔物とも動物とも言えない獣を従える召喚師だ。実際に見るのは初めてだと三人は驚いた。
暗くなりかけた山道をその女性は召喚獣のうさぎと歩いていた。普通のうさぎと違い、薄らと淡く光る体は、女性の足元を優しく照らしている。
数匹のうさぎの耳が三人を感知し、女性も三人に気づいた。最初は動揺している様だったが、ギルバートを見るなり悲しい顔をした。
「ええっと、その……こちらに敵意はない!」
ガトンが女性に野宿できそうな場所を聞こうとしたが、それをアイリが手を引いて止めた。
「副団長、ダメです。アイリわかっちゃいました」
「え? なにがだ?」
「あの女の人、多分ギルバートの元交際相手とかですよ。明らかにギルバートを見て表情が変わりましたもの」
「なんだと!? ううむ、たしかにそれは不味いな。元交際相手が自分の活動圏内で野宿など気不味いだろうしなぁ……」
「あんな美女ならもう他に良い人がいてもおかしくないですが、ギルバートのことだからそんなことお構いなくグイグイ行きそうですし、ここは来た道を少し戻って野宿した方がいいと思います」
二人で声を抑えて話している間に、ギルバートは女性に話しかけていた。
「俺たち、どこかで会ったかな? お嬢さんのような美人なら一度会ったら忘れないんだけどなぁ」
ギルバートの軽口に女性は沈黙を貫いた。足元にいる召喚獣のうさぎはいっせいに強く足で地面を叩き、それは近くの池が波打つほどだった。
それをものともせずにギルバートが女性の髪に触れようとした瞬間、慌ててガトンがギルバートを羽交い締めにして女性から離した。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
そしてアイリが女性に謝りながらギルバートと女性の間に入った。これまでのギルバートの悪癖を知っているからできるガトンとアイリの連携だ。
ギルバートが女性から離れたことでうさぎ達は大人しくなった。それを見てアイリはやはりギルバートと女性との間で何かがあると確信した。
ここでやっと女性は口を開いた。
「ぁの、あ、あ貴女たちは、旅をしているの?」
吃りながらゆっくり紡がれた質問に、アイリは明るく答えた。
「はい! アイリたちは魔王討伐の旅をしています!」
「魔王討伐──」
女性は急に胸を抑え、苦しそうに膝から崩れた。アイリは慌てて女性の背中をさするが、女性の周りにいるうさぎはどんどん消えていった。それは女性が弱っているせいなのか。アイリは後ろでギルバートに説教をしているガトンに助けを求めた。
「近くに家なりなんなりあるはずだ。人が通った形跡のある道を探して運ぼう」
ガトンは女性を抱き上げ、その軽さに驚いた。中身がちゃんと入っているのか疑うほどだ。
「ギルバートも休める所を探してください! その女の人に近づいちゃダメです!」
「まだ俺は何もしていないんだけどなぁ」
アイリに怒られながら辺りを見回すギルバートは、ガトンに抱えられた顔色の悪い女性を冷めた目で一瞥した。
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