第13話 閑話 王室の誰も知らないシルバー

 魔王討伐などと言っているが、実際は触らぬ神に祟りなし。こちらが巣を突かなければ災厄など滅多に起きない。

 それでも国王が犠牲を出しながらも魔王討伐を完遂させたいのは、とても単純な理由だ。

「今は良い。だがもし魔王が攻めてきたら──そう考えるだけで夜も眠れない」

 それを聞いたギルバートは、隈も無く艶の良い国王の顔を指摘した。不敬罪も気にせずに国王はギルバートを笑いとばした。

「魔王討伐に出ている人間がいる間は安心して眠れるのだ。きっとその者達が成し遂げてくれるだろう、と思えるからな」

「つまりは他人任せ、と」

「痛いところをついてくれるな。国王として先読みして様々な不安の種を刈り取るのに、両の手だけではとても足りないだけだ。その為に治安維持や護衛の騎士団がおり、国の経済を支える管理部隊などがあるのだ」

「では、仮に勇者が魔王討伐を果たせなかった場合は?」

 国王は迷いのない目で即答した。

「もちろん。次の討伐部隊を編成して向かわせる。魔王討伐が果たされるまでな」

 不安からなのか、国王という役職からなのか、はたまた別の要因からなのか、魔物の実害は全く無いにも関わらず、国王は完全に盲目状態に陥っていた。

 それがいつからなのかは、ギルバートを含めた誰も知る由もない。だが、武器商人に出会う前の国王はそうではなかったはずだと、王室の執事が言っていたらしいとメイドが噂している。

 肝心の執事はある日忽然と姿を消し、キッチンに見知らぬシルバーが加えられていた。

 それが何を意味しているのかを理解した者は例外なく、城から姿を消していた。

「深く考えず口をつぐんで手を動かしなさい。それが一番平和に働けるわよ」

 いつしか王室のメイド達は噂をさえずるのは禁忌とした。特に外部からの客人や商人が来た時は、空気がひりつくほどだ。

 それは魔王討伐に武器商人が出ている間も続いている。

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