第12話 アリバイ工作

 まだ朝日も昇らない深夜に、アイリは寝ずの番をしていたギルバートに起こされた。

「用を足しに行ったピリカが戻らないんだけど、さすがに俺が行くのもマズいから、アイリが探してきてくれない?」

「んんー? わかったぁ、探してきますぅ……」

 寝起きの目を擦りながらアイリは素直にギルバートの言われたまま、松明を片手にピリカを探しに辺りを歩いた。それをギルバートは笑顔で見送った。


 しかし、結局ピリカが見つかることはなかった。野営地に戻ったアイリはギルバートにガトンも起こして全員で探すべきだと言ったが、ギルバートは朝になるまで待った方がいいとアイリを制した。

「暗い中で闇雲に探すより、明るくなるのを待とう」

「でももしも何かに襲われてたり拐われてたら急いだ方がいいですよね」

「そうだとして、もしかしたら俺たちを誘い出す為だったらこの暗闇じゃあトラップがあっても気づきにくい。それこそ相手の思う壷だろ?」

「あうぅ……たしか、に……」

 落ち着きなく自分の手を握るアイリに、ギルバートは懐から短剣を取り出して見せた。

「それは……」

「前に言ってただろ? 勇者の剣に合う短剣が欲しいって。次の町に着いたら渡そうと思ったんだけど、今の方がいいだろうからね」

 アイリはギルバートから受け取った短剣を握りしめた。勇者の剣と柄が同じ作りで、まるでこの短剣は勇者の剣と一緒に振るうために作られたかのようだ。

「気に入った?」

 アイリは笑顔で応えた。


 森に朝日が差し込む頃にガトンを起こして事情を話し、ピリカを探しに野営地を中心に辺りを回った。そして見つけたのは、野営地から少し離れた場所にある、崖の途中の小枝に引っかかったピリカの服の一部だった。

「まさか、この下に──」

 崖の下は木々が鬱蒼として見えない。ガトンは足元の小石を落として高さを確認したが、音がするのにかなり時間がかかった。

「この高さじゃあ、助からないな……」

 下に降りる道はここからは見当たらない。這いつくばって崖の下を必死に覗こうとするアイリの首根っこを掴みながら、ギルバートはガトンに判断を仰いだ。

「下がどうなっているかわからないまま降りるのはおすすめしないけど、どうする?」

 ピリカだけいる可能性も、鬱蒼とした中に魔物が潜んでいる可能性も、攻撃的なナニかがいる可能性もある。ガトンは眉間に皺をよせて目を閉じて考えた。

 魔王討伐が最終目的なのだ。

 ここで生存の可能性の低いピリカを探しに行くリスクを考え、ガトンは唇を噛み締めながら崖に背を向けた。

「先に行こう──ピリカには悪いが、魔王討伐の前に俺たちが全滅するリスクは減らさないといけない」

 苦渋の決断をしたガトンにアイリは反対しようとして口を開いたが、ガトンの背を見て何も言えなかった。

「アイリ、花を手向けてあげな」

 ギルバートは先ほど見つけた花の場所を教えてあげた。そして肩を震わせているガトンの背中を叩いた。

「君の判断は間違っていないよ、ガトン」

 ギルバートの深くきざまれた目のくまを見て、ガトンは少し休んでから行こうと提案したが、ギルバートはそれを丁重に断った。

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