第11話 パリスの妹

 古代魔術の対象はギルバートにとって人型であれば当てはまる。それはギルバートの守備範囲を意味していたのだが、今回の旅でギルバートは気づいてしまったのだ。

「傷口から俺の体液を流しても、それは発動条件に当てはまるな」

 そう気づいてからは血と血の契約のように、魔物や野盗の傷口にギルバートの血を押し当てる行為が散見された。

 それに気づいたのはピリカだけだった。


「姉さんの最期を聞かせてほしい」


 野営をした時だった。ギルバートとピリカの二人が寝ずの番をしていた夜に、ピリカはわかったような目でギルバートの笑顔の仮面の奥を睨んだ。

「パリスの話か──聞かない方がいいんじゃないかな、ピリカは特に」

「国王からおおざっぱに聞いてる。ゴブリンの群れに囲まれて、両腕を失って、止血薬の効きが悪く失血死。死体はギルバートがその場に埋めた」

「うん。それで終わりだよ。あと俺から話せることと言ったらパリスの悲鳴の再現くらいだ」

 肩をすくめるギルバートに、ピリカは手に持っていたコップの水をその顔面に浴びせた。

「本当のことを話して。あなたの気持ち悪い、女性に声をかける行為の目的も。ただの遊びで魔王討伐に誘うような馬鹿じゃないのはわかってるの」

 静かに燃える炎のように怒りを燃やすピリカに対し、手で顔の水を払ったギルバートは無表情で落ち着いていた。いつもの笑顔が剥がれたことにピリカは少し臆したが、本性が出てきたと気を引き締めた。

 次に何を言葉にするのか身構えていたピリカに、ギルバートは黙って己の指の腹を噛みちぎった。その行動に何の意味があるのかと困惑するピリカは静かに流れるギルバートの血の雫を目で追った。


「ピリカはパリスに似てるね。好奇心? 気になったことを素直に俺に聞いちゃうとこがさ、なんか似てる。パリスもなんかそんな感じだった気がするよ」


 ゆらりと立ち上がったギルバートにピリカは咄嗟に、寝ているアイリの方へ駆け寄ろうとした。だがそれをギルバートがさせるはずもなく、呆気なく腕を掴まれ引き戻された。

「パリスに話したからピリカにも話してあげるよ」

 そして嫌悪の目で睨むピリカに、ギルバートは自分の武器の仕入れ方法とパリスの本当の最後を告白した。全てを聞き終わる前にピリカが憤怒し暴れたが、それはギルバートが血の流れる指をピリカの口に押し込んだことで鎮静化した。

「この……外道、がっ!」

 自分がこの後どうなるのかを理解したピリカは、目を充血させながらギルバートに忌々しく暴言を吐くことしかできなかった。戦えないピリカなりの、精一杯の抵抗。それをギルバートは微笑ましいと口角をつり上げて受け止めた。

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