第9話 仕切り直し

 激しい雨は一夜にして止んだ。

 昨日の雨の雫が枝葉に滴る朝、ギルバートの手には一振りの細身の剣が握られていた。それは陽の光に当てられて刀身が瞬くように光った。

「人間一人運ぶの重たいから結果的に良かったな」

 一人呟いたギルバートは、異空間にその剣をしまいこみ、王国に一人で戻った。



 事の顛末を報告したギルバートに、国王はしばしパリスを悼んだ。そして何の疑いもなく、次の魔王討伐にも参加してほしいと頼み込んだ。それをギルバートも二つ返事で受けた。

「ええ、ええ──今回はゴブリンの棲家に繋がるルートが悪かったので、俺の過失もあります。今度は違うルートで行こうと思っております。同じ轍は踏みませんよ」

「うむ。経験者がいることの頼もしさよ! すぐに魔王討伐メンバーを選別するのでしばし待ってほしい」

 ギルバートのことを何も知らない国王は豪快に笑う。目の前の武器商人こそが元凶だと気付かずに。その言葉を疑いもせず。次の魔王討伐にもギルバートは参加する。

「いやしかし申し訳ない。国から資金は補填するとはいえ、装備の仕入れは旅をしながらでは難しいであろう?」

 仕入れ先は企業秘密で貫いているギルバートは、三日月のように口角を上げて答えた。

「いいえ。むしろ様々な地に赴いて発見する武器防具に心躍ります」

「それなら良いのだが……そなたに用意してもらった聖剣が無くなった今、その代わりなどは──あったりするのか?」

「ええ、もちろん」

 ギルバートは今朝手にしていた細身の剣を異空間から抜き出し、国王に掲げて見せた。


「こちら、勇者の剣でございます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る