02訪問
そして約束の日(約束ではなく強制に近いが)となり集合時間の三時間前――午前三時、俺は起床して集合場所に行く準備をした。
当たり前だが午前四時に電車など動いている訳がなく朝食を食べた後、自転車に乗って二時間掛けて、その自殺事故物件へと向かった。
両親に車を出してもらおうかと思ったが流石に時間が時間だったため、気が引けてしまい辞めておく事にした。
その道のりは過酷だったが、問題もなく集合場所に着いた。腕時計は五時五十分を示しており、なんとか集合時間に間に合ったようだった。
その集合場所であるアパートは一階と二階、合わせて十二部屋あるようだった。
「本当に、自殺なんてあったんだろうな……」
そのアパートは自分が想像したよりも新しく、とても自殺があったようには見えないアパートだった。
そんなことを考えながらアパートの駐車場に目を遣ると、そのアパートに似つかない真っ赤なスポーツカーが駐車されていた。
その車のフロントドアを背もたれにしながら腕を組み、目を閉じて立っていた人がいた……こんな車を持っている人は俺は一人しか知らなかった――そうあの化学教師である。
立ちながら寝ているのだろうかと思ったが、俺が自転車を押しながら近づくと棚夏先生は目を開けて腕時計を確認した後、こちらを向いた。
「おっ! 来たか、ちょっと遅くない?」
「まだ十分前ですよ……というか、なんですかその格好……」
先生は白いスーツを着ており、今回の調査に全くもってそぐわない服装をしていた。
だが、棚夏先生は女性にしては身長が高い(俺より高い)ため、そんな服装でも似合ってしまっており、さらに黒髪の長い髪と合わせてより一層見栄えが良かった……
「別に私の勝手でしょ。学校じゃあないんだし」
「まぁ、そうですけど……」
うーん、この先生に一々ツッコミを入れるとキリが無いな……
「ここがその事故物件ですか?」
「そう、ここがそのアパート」
「やけに新しくないですか?」
「まだ建って五年しか経ってないからね。それにここ女子大用のアパートだしね」
「なるほど」
そう言えば、この近くに女子大があったな。
「ん? って事は今回の依頼人って……」
「そう、その大学の学生が依頼人」
意外な事に今回は珍しく学生だったのである。てっきり俺はどうせまた、少しネジが外れた人の依頼だと思っていたが、どうやら今回はその心配をしなくてよくなった。
「珍しいですね。先生にそんなちゃんとした知り合いがいたなんて」
「私をなんだと思っているんだい君は……まあ、正確には私の元教え子なんだけどね」
「教え子ですか」
「一回もその娘に授業した事ないけど」
……それを教え子とは言わねぇよ。教え子っていう定義を知らないのか、この先生は。
「なんだい、一応顔と名前は知ってるんだよ。そんな事よりそれじゃあ行きますか」
そう言うと、浅谷先生は車から背を離し、車の後部座席のドアを開け、中から黒い大きな荷物を取り出した。
「それ、何が入ってるんですか?」
「ん? これ? この中にはサーモグラフィーっていって部屋の温度とかを測る機械が入っている。聞いた話によると、どうやら幽霊が近くにいると部屋の温度が下がるらしいじゃないか。それに打って付けの機械だという事だよ」
「は、はぁそうですか……てかそんな機械持ってたんですね」
まさか先生がこんな本格的な機器を持っているなんて思わなかった。こんなに本気だとは。
「そんな事よりほら、ちゃっちゃとチャリを置いて来て。部屋は二階の一番奥の206号室だからね」
「はいはい、分かりましたよ」
俺は自転車をアパートの自転車置き場に置いた後、階段でアパートの二階へ上がると、浅谷先生が206号室の扉の前で立っていた。
「どうしたんですか? てっきり、もう中に入っていると思っていましたよ」
「いや、インターホンは押したんだけどね。全然反応がないんだよ。何してんだか……って、お?」
不機嫌混じれに先生が言っていると、ガチャリとドアを開け中から黒髪の女性が出てきた。
女性は少し痩せており、あまり健康そうに見えず、服装の白いワンピースも少し黄ばんでおり色々と
「おはよう御座います……」
「あっ、おはよう御座います」
俺はその女性の容姿ばかりを見てしまい、挨拶をするのが遅れてしまった。
「ほら、ちゃんと来てあげたよ」
何故か先生は自信満々に言った。
「ありがとうございます……助かります」
「まぁちゃんと貰ってる物は貰ってるしね」
「いえ、それでもやはり来てもらったのはありがたいです……」
「しかし、結構痩せたねぇ。何? ダイエット?」
「いえ、そういう訳では……というか、先生もすごい格好ですね……」
「あっ? これ? どう? カッコ良くない? オシャレポイントはね――」
「あの……」
俺は段々、二人だけで会話が進みそうなので恐る恐る尋ねた。
「あの……名前を聞いてもいいですか?」
「あぁ……すみません。私は西村薫と言います」
「どうも、俺の名前は……」
と自分の名前を言おうとしたが"助手の名前なんて覚えなくていいから"と先生は俺の口を手で塞ぎ、話を遮った。
「ちょっと! 何するんですか!」
「私が話しているのに邪魔をするんじゃないよ、全く。そう言えば薫ちゃん。まだ依頼の詳細聞いてなかったから、聞かせてくれるかい?」
先生は完全に俺を無視してそのまま進めた。
というか詳細聞かずに、この依頼を受けたのか……相変わらず雑な人だ。
「その話は部屋の中でしましょう……どうぞ入ってください」
部屋に入ろうとしたその時、俺は少し違和感に気付いた。
「すみません。一つ聞いてもいいですか?」
俺は一つ質問をした。
「はい、何ですか?」
「なぜ他の部屋のドアノブと種類が違うのですか?」
「えーっと……それは……」
西村さんは、言い難い事なのか少し口籠もってしまった。
「別に言いづらい事なら答えなくても大丈夫ですよ」
「あっ、いえ、これは、その……防犯のためです」
「そうですか。いえ、すみませんこんな質問をしてしまって」
そうだよな普通に考えて、女子大生の一人暮らしは心配だよな。――でもなんだろうこの違和感は。
「どうぞ中に入ってください」
「どうも失礼します」
俺は部屋の中へ入った。
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