第26話勇者になれただろうか
ロージャスの屋敷を出たルファは、ほっとしていた。
あるべき所に収まったような気がしたのだ。ロージャスはこれからも実家で過ごす事ができるし、望まぬ相手と婚約をする必要もない。彼女は、これからも自分の家で成長していくことだろう。願わくば、優しい伴侶と結ばれて欲しい
「巫女だなんて能力があるんならば、最初から言えって。とどのつまりは、赤トカゲと伯父さんが後見人になるってことなんだろ」
上機嫌に街を歩くルファの言葉に、リーリシアはあっけらかんと答えた。
「あれは口から出任せだ」
その言葉を聞いて、ルファだけではなくてシリエまでも足を止める。そして、しれっとしているリーリアスの顔をまじまじと見つめた。
「要らないと言っているのに生贄を押し付けられそうになったときには、よくああやって断った。人間というのは強大なものに関わりを持つことに安心したり、恐怖したりするからな。我の巫女うんぬんかんぬんになったところで、何かが出来るようになった事は特にないぞ」
おかげで断り慣れたものだ、とリーリアスは笑った。自分の嘘を誇っている様子に、ルファとシリエは頭痛を覚える。ロージャスの両親は邪竜に怯えていたが、その正体は口八丁の爬虫類だ。
「我が大幅に弱体化していることは、甥っ子も知っているであろう。今の我は、巨大化も出来ないほどに弱っているのだぞ」
そういえばそうだった、とルファは思い出す。
「その話は初耳だぞ」
説明をしていなかったシリエに、ルファは説明を始める。
「爬虫類は、伯父さんに不死の呪を解呪してもらっている。でも、段々と力は落ちていっているらしい。今は本気をだしても、さっきぐらいの大きさにしかなれないんじゃないのか。吐いている炎の火力も、それほどではないしな」
かつてのリーリシアは山のような巨大さを誇ったというが、今では見る影もない。
暴走したイアを止められない可能性がとても高く、普通のモンスターよりは強い程度の実力に収まっているのではないだろうか。そうでなければ、イアを抱えてルファを頼って逃げてきたりはしないだろう。
「幼い姫君の勇者への思慕は、大人になるころには消えているであろう。幼き恋心に悋気を起こすほど、我の心は狭くはない」
意外とちゃっかりしているリーリシアだが、彼の姿と脅しによってロージャスの身は守られた。それを考えれば、今回の功労者は間違いなくリーリシアだろう。
「ともかく、今回は驚いた。まさかロージャス様のご両親に、ルファが盾をつくとは思わなかったぞ」
シリエは、肝が冷えたと文句を言った。
ルファとしては、シリエを巻き込まないために彼女には事前に何も知らせなかった。だが、それでもシリエはルファの無茶に付き合う覚悟を決めた。ルファは、その度胸を尊敬する。
「別に……伯父さんだったら、どうするのかを考えたんだよ」
妹と自分に手紙を書き続けたイアならば、子供を助ける為に動くであろう。まずは動いて、その後で色々なことを考えたに違いない。手紙から察せられる天然気味な性格から間違いはないだろう。
「伯父さん……。今日の俺は、少しは勇者に近づけたかな」
誰にも聞こえないようにルファは呟いた。
こんな独り言は、恥ずかしくて誰にも聞かせられないからだ。
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