第31話 俺、相談する

「なるほど。そりゃ悪い話じゃないね」


 パームが俺の話を聞きながら、飲んでいたカップをテーブルに置きつつ言う。

 意外な返答に俺は目をむいてしまった。


「おいおい! 決闘だぞ? 本気かよ」

「ああ。俺たちの問題はいろいろあるが、そのうちでも大きな問題の一つは資金だよ。それが解決するのなら悪い話じゃないだろう?」

「まてまて。王は支援してくれると言ってくれてるんだ。決闘までやる必要あるのか?」

「資金はあるにこしたことはないよ。考えてみてくれ。迷いの森探索、そして魔女ヴィガーン討伐まで、どれくらいの時間がかかると思う?」

「さ、さぁ?」

「オレは早くて三ヶ月、最低でも半年はかかると見ている」

「そんなにか!?」

「迷いの森は広い。案内人のラードがいかに優秀でも、いまの迷いの森はどうなっているか不明なんだ。まず一回のアタックでは無理だろう。森の探索だけでも厄介なのに、敵の正体もまったくわからないんだぞ。確実に勝つためには情報収集が必要なんだ。となると、森の近くに拠点を築き、何度かアタックすることになるだろう。その拠点作り、物資の運搬、そのために人夫を雇って、と考えるだけでも頭が痛いよ。オレもこれまでに貯めた資金を投入するつもりだが、足りるかどうか。足りなければギルドの依頼をこなして稼がなければならないが、そうなるとまた期間が伸びることになる。大会を一回やるだけで王の提示した金額が入るなら、これは魅力的だよ」


 王からは莫大な金額を提示されている。その額は俺たちの年収くらいはあるのだ。さらに盛り上がり次第ではボーナスも付けると約束してくれた。

 大会は参加者の数によって何日かかかると思われるが、俺は暫定チャンピオンなんで、勝ち抜いた一人と一戦すればいい。そう考えるとかなりコスパがいいってわけだ。


「もちろん危険であればオレも止めるところなんだが、レオのようなA級モンスターじゃなくて人間なんだろ? 国外からも募集するってのは不安要素だけど、オレにはオライリーが負ける姿が想像できないよ。かすり傷一つ負わないんじゃないか?」

「そりゃ俺を買いかぶりすぎじゃ……?」


 モンスター相手の戦いには慣れてきた。並のA級には負けはしないだろう。だが人間には知能という武器がある。色んな流派があり、色んな技があるだろう。


「そんなことは無いと自信を持って言えるね。武器が使えるならまだしも、素手で勝負なんだろう? なら、なおさらオライリーは無敵だよ」


 人間が生物の頂点となって君臨している理由。それは道具を使えるからだ。

 身体能力だけで言えば、人間などD級モンスターにもかなわないだろう。それを補うのがセル=ライト、そして数々の武器や防具だ。


「でもなー。国外にゃどんな奴がいるか、わからんだろ?」

「それは確かに。ただここまでの旅費や滞在費を考えると、国外からの参加者がどれだけいるか。オレは一人もこないと思うけどね」

「逆に言うなら、来る奴はそれだけ自信があるってことだ。可能性があるとしたらどの国だ?」


 ここに来て、生活に余裕が出てからは俺もなるべく、この世界の事を勉強するようにしていた。分かっているのは俺たちの国、セブラーア王国はブトン大陸の最北に位置する国である、ということだ。


「もっとも可能性が高いのは三つの隣国、つまり東のショルッド王国、南のロカタース共和国、そして西のレグハム帝国だね。これらは普段から交易もあるし、行き来もしやすいだろう。それより遠い国は物理的距離ももちろんあるが、国境越えも大変だ」


 大陸にはまだ国があるらしいが、話に聞く中では最南端のベリーコン王国なんてもの大きい国らしい。ただ、南のロカタース共和国を抜けてくるとなると、かなり旅費がかかるだろうな。ご多分に漏れず、この世界でも国境ってのは簡単には越えさせてくれないもんだ。袖の下も必要になってくるだろうな。


「あるかもしれない、という点では一国だけ見過ごせない国がある」

「へぇ、どこだ?」

「言うまでもない。極東のスノート皇国だよ」


 なぜ言うまでもないのか。それはスノート皇国が武術で有名な国だからだ。俺もそれ以上、詳しいことは知らない。というのも、スノート皇国は距離的に遠いうえ、国交を絶っている国なので情報がほとんどないのだ。


「オライリー」

「どうした? 改まって」


 にこやかな顔で話していたパームが、急に険しい顔になった。なにやらただならぬ雰囲気だ。


「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか? 俺たちは命運をともにする仲間なんだ」

「話すって、何を?」

「オライリーの出身地について、だよ」


 俺は胸に棘が刺さったような痛みを感じた。ついにきたか。

 のらりくらりとかわしてきた質問だったが、俺の秘密。転移について明かすときが来てしまったのかもしれない。

 別に隠そうってわけじゃないんだ。ただ、信じてもらえるかどうか。それが不安だった。

 いや、きっと大丈夫だ。今の俺達は十分な信頼関係を築けているはずだ。

 俺は腹を決めた。こんなだらしない腹でも決めるときは決めるのだ。

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