第30話 俺、チャンピオンに

 魔女ヴィガーン討伐への足がかりができはじめていた。いよいよだ。

 恐るべき迷いの森。そこへ足を踏み入れるときがきたのだ。


 なんて思っていたんだが、ちょっとおかしな事になってきた。

 王から俺へ書状が届いたのだ。先日の詫びだとか書いてあったが、かいつまんで言うとちょいと城まで来て欲しいとのこと。

 なんぞ大事な話があるらしい。


 おおかたあのグルテン王子からの謝罪でもあるんだろう。

 もうどうでもいいし、あの顔も見たくないんだがな。

 だが王からの招きを断るってことはできんだろう。


 俺は指定された日、午前中に城へ向かった。

 通されたのは謁見でも使われたあの王の部屋だ。

 デスクで書類に目を通していた王は、俺が入ると立ち上がった。


「おおオライリー。呼び立ててすまんな」

「いえ。ご命令とあらば」

「うむ。元気そうでなにより。腕のほうはどうだ? くっついたとは聞いたが」

「おかげさまでこの通りです」


 俺は右手の袖をぐいとまくり、傷跡を見せながら手を開いたり握ったりしてみせた。


「うーむ。跡こそ残ってしまったが、見事なものだな。あれ程の大怪我がここまで回復するとは。して、治したのはどこの名医かな?」

「医者ではなく、薬師にしてA級冒険者のオリーブという者です。彼女の持つ幻のポーション、ヴァイタミンによってこの通り、というわけでございます」

「ほほう。そのヴァイタミンとは素晴らしいな。我が兵団にも欲しいところだが、手に入るか?」


 あー、なるほど。王子の姿が見えんと思ったが、話はそっちだったか。

 ちょっとホッとしたよ。

 どれだけ謝られたって、俺も対応に困るからな。


「残念ですが、私めに使ったものが最後の一本だったのです」

「なんと! だが致し方あるまい。それでオライリーの腕が治るのならばな」

「ですが、量産できるかもしれません。その製法を現在研究しております。もちろん私ではなくオリーブが、です」

「素晴らしい! 何か手助けできることはあるか? 協力は惜しまんぞ。もちろん、完成した暁にはこちらへ売ってもらうことになるが」


 俺は原料バイラミーについて説明した。


「なるほど。魔女討伐だけでなく、重大な医薬開発も同時にこなしてしまおうというわけだ。さすがはオライリーよ。これは一冒険者だけの話ではなくなってきたな」

「とはいえ、あの森へは軍で押し入るというわけにはまいりません。それはいたずらに兵力を失うだけでしょう」

「少数精鋭で行くしか無い、か。分かった。物資などの心配はするな。こちらで手配しよう」

「それは助かります」


 探索にどれほどの期間がかかるかは不明だ。あまりに長期になれば俺たちも資金繰りが厳しくなってしまうだろう。国の援助があればかなり心強い。


「ところで、その、資金についてなんだがな、ちょっと協力を願いたいことがある」

「私がですか? 何かできることがありましょうか?」

「うむ。実はな、例の決闘だが、大好評でな。ぜひまたやって欲しいと要望が絶えんのだ」

「え? ええ?! あんな悲惨なことになったというのに、ですか?」

「悲惨、といっても観客に被害は出なかったし、唯一の怪我人であるオライリーも見事回復してみせたのでな。落ち着いてみると、またあのような決闘が見たい、ということになったらしいのだ」

「それはお貴族様の話でしょう?」

「いや、それがそうでもない。庶民からもまた決闘を、という声が届いておるのだ。それにあのときの出店、覚えているだろう。どこもかなりの儲けがあったらしく てな。商人たちからも強く要望されておる」

「それは一階限りの大イベントだったからでは? それに、モンスターはどうするんです? レオはもう戦えませんよ」


 俺はなんだか頭がキリキリしてきた。

 俺とレオの気も知らず、どいつもこいつも勝手なことを言いやがって。

 こうして腕がくっついたから我慢してるけどさ。ぶっちゃけブチ切れ寸前だよ。


「モンスターはやはり危険ということになってな。今度の決闘は人同士で行おうと思うのだ。国内外から腕自慢の出場者を募ってな」

「人間の決闘を見世物にしようとおっしゃるので? 観客は安全でしょうが、出場者のほうに怪我人が出ますよ」

「それはもっともな心配だ。そこで、武具の使用は禁止とし、己の肉体のみでの勝負ということにしようと思っている。きちんと審判をつけ、命の危険が及ぶ前に勝負を止める。もちろん医師も用意するぞ」


 決闘というより格闘大会みたいな感じだな。

 ま。娯楽としてはいいんじゃねーの?

 俺には関係ないけど。


「よくお考えのようですね。しかし、そうなると私に協力できることはなさそうですな」

「何を言う。お主が暫定チャンピオンだぞ」

「え? 私が?」

「それはそうだろう。お主という強者と戦えるからこそ、参加者も集まるというもの。そうなれば必然的に観客も入るわけだ。どうだ。盛り上がりそうではないか?」


 なんで王がそんな格闘技大会プロモーターみたいになってんだよ。

 俺はいよいよ頭を抱えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る