第20話 俺、ついに

 それから来たのはろくなものではなかった。

 明らかに金につられて来たヤツらが三人。

 報酬が高いのには理由があるに決まっているというのに、ただその額だけ見てやってきた者たちだ。


 依頼の概要を説明すると、途端に表情が消えていく。一人は血の気が引いて死人のような顔になった。

 そして、やはり自分には合わなそうだとか、そういえば別の依頼があっただとか、適当な理由をつけて去っていった。


 説明したことは、ちゃんと依頼書にも記載してあることなのだが。

 きちんと読まずに来る者がいるとは想定外だった。意外といるもんだ。


「やっぱ、あのヒーラーのオリーブが良かったんじゃないか? 今からでも誘ってみたらどうだ?」


 パームは言う。

 彼女については少し調べてみたが、たしかにヒーラー、薬師としての評判は高かった。

 回復役がいてくれると助かるのも間違いない。


「オリーブの目的は素晴らしいよ。世のため人のためになる。でも、彼女自身が行く必要がないんだ。薬草を取ってくるだけなら俺たちだってできるだろ? いたずらに危険に晒すわけにはいかない」

「それは……まぁ、そうだが」


 やはり理由が弱い。

 基礎的な戦闘力が低いことも問題だ。俺たちも彼女を守ってやるほど余裕があるかどうかわからない。


 迷いの森についてほとんど情報がないのだ。

 地理的なことはラードのおかげでだいぶ目処がたった。

 危険なモンスターが生息することはわかっている。だがその数やどのようなモンスターがいるのかがわからない。


 立入禁止地区に指定される前にあそこに足を踏み入れた者たちは、アンデット系のモンスターに襲われたらしい。

 中にはスケルトンナイトに攻撃され、命からがら逃げてきた者もいた。

 A級モンスターである。それも複数いたということだ。


 それであそこは立入禁止になった。

 わかっているのはそれだけだ。



 そんなこんなであっという間に二週間が過ぎた。


 いよいよ諦めて、三人だけで調査へと向かう準備を進めていたそんな矢先のことだった。

 ついに恐れていた事態がきた。

 俺はギルドマスターの部屋へ招かれた。そして告げられたのだ。


「王室から決闘の案内が来たぞ」


 意外に早かった。あの王子、なかなか仕事ができるじゃないか。

 カルニンはテーブルの上に手紙を置いた。

 すでに封は切られているので中身を取り出して読んでみた。


 日時、場所、ルールなどが記載されている。

 モンスターは、A級に相当するもの、とだけある。やれやれ、何が出てくるやら。


「話には聞いていたが、本当にやるとはな」


 カルニンは両腕を広げ、手の平を上に向けてみせた。

 彼には事の次第を話してある。

 王子の悪評は知っていたようだ。だが、まさか決闘までやらせるとは信じられない、そんな感想だった。


「やりますよ、あの王子なら」


 俺は本人に会っている。だからわかる。

 あれは、脅しだけで済ませるような顔ではなかった。


「決闘場で決闘が行われるなど、何年ぶりだろうか。私も六十年以上生きているが、初めてのことだよ」


 カルニンは六十代だったのか。白髪頭だからもっと上だと思ってたよ。


「何か仕掛けてくると思いますか?」

「ふーむ。モンスターがA級というならオライリーに倒せぬことはないだろう。罠をしかける、といっても決闘場という衆人環視の状況ではなにかできるとは思えんが……すまん。思いつかんな」

「いえ。なにかしてきても、俺がなんとかしてみせますよ」

「頼もしいな。むろん、私達も総出で応援にいくからな。おかしなことがあったら手を貸そう」

「それは助かります」


 ギルドメンバー総出で、か。

 それは安心だな……いや、待て。ちょっといやな想像をしてしまった。

 ギルメンの中にスパイがいたら? いや、誰がとかいう心当たりがいるわけではないけど。


 信頼していた者に裏切られれば、精神的に揺さぶられる。

 そうなれば本来の実力を発揮できない可能性は、ある。


 パーム、ベニー、ラード……身近な者たちの顔が浮かんでは消える。

 彼らが裏切るなど、とうてい考えられない。

 ありえない。流石にそれは。


「決闘まで一週間しかない。なにか必要な物があったら教えてくれ。練習相手になりそうな者も斡旋するぞ」

「いえいえ、練習など必要ありませんよ」

「そうか。遠慮はするな?」

「ありがとうございます」



 ロビーへ降りると、ベニーが駆け寄ってきた。


「オライリーさん! どんなお話でした? あっ、言えないことでしたら大丈夫ですので!」

「決闘だよ。ついに案内が来た」

「前、話されていたアレですね……」


 ベニーは神妙な顔つきだ。これから死地に向かう者を見送る、そんな悲壮感すらある。


「何?! 決闘だと?」

「どういうことです? オライリーさん」


 ベニーの声が大きすぎたのか、決闘という単語を聞きつけた冒険者たちが周りに集まってきた。

 どうせ、遠からず知ることになるのだ。

 今ここで話してやることにした。


「実は、来週決闘をやることになった」


 その時の皆の顔ときたら、まるでドッキリを明かされたお笑い芸人のようだった。

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