第6話 俺、集落へ
「は?」
だが一体どうしてこうなった? 何が起きたのかわからない。
俺は手を出しただけで触ってもいない。
にも関わらず、ゴブリンは消滅してしまったらしい。
「さすがだよ、オライリー! こっちも負けてられないね!」
パームはそれを見てもさして驚きもせず、やってくるゴブリンをことごとく斬り倒していく。
ゴブリンは次々やられていく味方を見ても、その多くは戦意を喪失することなく、次々と突っ込んでくる
。
あれは俺がやったのか? などとゆっくり考える暇もないらしい。また新たな一匹が飛びかかってきた。
「うわぁ!」
ソイツを薙ぎ払おうと俺は手を横に振った。
ただそれだけだった。
なのに、振った勢いで突風が発生し、ソイツだけでなく、その先にいるゴブリンたちまで吹き飛ばされていった。
「な、なんだこりゃ?」
これは俺の力なのか?
なんとなくだが、これまでに感じたことのない妙な感覚があった。腕からなんらかのエネルギーが出ていった、そんなような感覚だ。
俺は試しに、一匹のゴブリンを人差し指と中指の二本の指でビシッと指してみた。
指先から見えない何かが出ていく感覚があった。
するとソイツは、空気を入れすぎた風船のように膨らみ、飛び散ってしまった。肉体だけが弾け飛び、腰巻きなどは地面に落ちた。さっきのはこうなっていたってことか。。
「ふっ、きたねぇ花火だ」
やべぇ! 俺すげぇ!
これが決闘値の力なのか?
これは気持ち良い。気持ち良すぎる。
調子に乗った俺は、次々と向かってくるコブリンたちを指さしていく。
奴らはパン、パン、とリズミカルに破裂していく。これじゃ趣味の悪いリズムゲーだ。
パームはゴブリンたちを斬りまくりながら、俺は破裂させながら、どんどん奥へと進んでいく。
もう何匹倒したろうか。パームの剣の切れ味が心配になってきた。だがよく見れば、彼の攻撃は斬るというより鉄の塊で殴り飛ばす、と言うほうが近いようだ。ゴブリンはその衝撃で伸びてしまっている。
「お、オライリー。奴らだぞ」
パームが顎で差す方を見ると、コーエンとザエムの姿があった。彼らもゴブリンたちを蹴散らしながら突き進んでいた。
コーエンは二本の剣を手に持ち、まるでダンスを踊るかのような華麗な動きでゴブリンたちを斬り伏せている。
ザエムは長い戦斧をブンブン振り回し、駒のように回りながら緑の子鬼を弾き飛ばす。
あっちはあっちで、とんでも無い。ゴブリンが可哀想になってきたぜ。
「やあ、お二人さん。調子はどうだい?」
パームが軽口を叩きながら近づいていった。
この程度の相手、A級冒険者の彼らの実力からすれば何匹いようと問題ないのだ。戦いっぷりを見ていればわかる。千という数字を聞いても驚かなかったわけだ。
「まずまずだな。にしても、千ってのは思ったより大変だな」
コーエンが言うように、俺たちはすでに百以上のゴブリンを倒してきたはずだが、まだまだ数え切れないほどの緑の集団が周りを囲っていた。
「勝負の件なんだけどね。これだけいちゃ数を数えるのも面倒くさいし、アイツを倒したほうが勝ちってことでどうだい?」
パームがある方向を指差す。
その先を見て、俺は目を疑った。
「は? え?」
そこには明らかに、普通ではないゴブリンがいた。
身の丈はゆうに二メートルはある。筋肉は隆々で、人間から奪ったらしき、両刃の大剣を持っていた。
服装も他の個体のような腰巻きだけでなく、動物の皮を加工した簡単な上着を着ている。
苔のような深緑の肌と琥珀のような黄色く光る目がなければ、あれをゴブリンだとは思わないだろう。
「お、おい! パーム! ありゃなんだよ!」
「うーん、あれはきっとゴブリンキングだね」
パームはこともなげに言う。
いや、ちょっとキングさん、すごすぎませんか!? いくらキングだからってこんなに体格差あります?
突然変異ってレベルじゃねーぞ!
「あ、あんなもん倒せんのかよ!」
「オレもあれほどのヤツがいるとは思わなかったよ。だけど、オレたちA級が四人もいるんだ。勝てるさ」
「お先に」
そんなことを言っていたら、コーエンが疾風の如き速さでゴブリンキングに突っ込んでいった。
右手の剣を上に振りかぶり、左手の剣は横にして前に出している。防御と攻撃を兼ねているのだろう。
まず右の剣で一撃、ついで左で二撃と連撃を繰り出すが、ゴブリンキングは大剣でそれを受けきった。
「なかなかやる。だがこれはどうだ?」
ザエムは巨大な戦斧を振りかぶり、突っ込んでいった。だが足は遅い。
ゴブリンキングは向かってくるザエムに対し、剣を振った。
ガキィンという大きな金属音。ザエムは斧の柄の部分でそれを防いだようだ。だが、その威力で数メートルほど後ろに吹き飛ばされていった。
「なんてパワーだ」
パームはそれを見て、剣を構えその切っ先をゴブリンキングに向けつつ、そいつを中心に円を描くように横移動しはじめた。
これまでと打って変わって慎重な動きだ。
それほどの相手と見た、ということだろう。
三人に囲まれ、ゴブリンキングは背中を取られないよう首をキョロキョロ動かし、警戒している。
俺はその様子を見守っていた。
「いってぇ!」
突如、脇腹に走った激痛。
見ると、木の槍が俺の横っ腹に突き刺さっていた。
あまりに熱中しすぎて、周りのゴブリンたちの存在をすっかり忘れていたのだ。
槍を刺した野郎が、してやったりとばかりにニタリと腹立たしい笑みを浮かべた。
この野郎! 調子に乗りやがって!
いや、乗ってたのは俺のほうか。
自分の力に酔っていたんだ。
こんな無双状態ならしょうがない。
不幸中の幸い、槍の先が数センチ刺さった程度でそれほど深手ではなさそうだ。その程度ではこの分厚い脂肪は抜けきれない。臓器までは届いていないはずだ。今回ばかりはこのお肉に感謝した。
俺は裏拳で怒りに任せてソイツの頬を打ち据えた。
すると、ソイツの頭だけが、はるか遠くへ飛んでいくのが見えた。
胴体の方は槍から手を離し、その場へ力なく倒れてしまった。
問題はその後だ。
俺の声にパームたち三人の視線がこちらへ向いたその隙をついて、ゴブリンキングがこちらへ突進してきたのだ。
俺は刺さった槍を引き抜いて構えた。
といっても武術の心得ないどない。見よう見まねでボクシングの両手ガードの形を作り、頭を守ろうとした。
キングはこれまでの雑魚ゴブリンとは桁違いの迫力を持って突っ込んでくる。
大剣という凶器を持ったラグビー選手がタックルしにきた、と思えばその恐ろしさがわかるだろう。
俺も身長は190近くある。だが奴はそれよりも頭一つ分くらい大きいのだ。
十分に距離を詰めたところで、、奴は手にした大剣を大上段に振りかぶった。
武器も盾も持っていない俺はこれを受けようがない。
あ、これ死んだわ。
手を交差させ頭上に持っていき、ともかく頭だけは守ろうとする。
両腕が交差しているその中心に、剣は振り下ろされた。
俺は固く目を閉じた。
次に来るであろう、衝撃、痛み、そして肉が切られ骨が折られる音を覚悟した。
生き残れたとしても、腕はもう、使い物にならないだろう。これからの生活、どうしたらいいんだ?
だがしばし待っても音も衝撃もない。
ゆっくり目を開くと、そこには驚愕の表情をしたゴブリンキングがいた。
大剣は俺の腕に届いていない。
もうわずかのところで、目に見えない何かに阻まれ、それ以上進まないようなのだ。
腕に込めた力が、目に見えないエネルギーとなって腕を覆っている。はっきりとは分からないが、何かそんな気がした。
俺は両手を、バンザイするかのように大きく開いた。
大剣はその勢いで吹き飛んでいく。
両手が空になり、思わず自分の手のひらを見ているゴブリンキングのその間抜け面に、俺は渾身の右ストレートを叩き込んでやった。
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