第2話――実家①
「で、これからどうするつもり?」
はっきり、訊いてみる。今の麗子は、今の状況に驚きすぎていて、これからどうするつもりか全く考えていないと思ったからだ。実際、僕も同じだった。
「えっ……帰ります」
「どうやって」
「それは……」
「まずは元来たルートを辿ってみるのが良さそうだな」
こちらから助け舟を出してやる。といっても、すぐ思いつきそうなことだが。
「そうですね! あ……でももう遅いですね」
「明日にでも行ってみようか。その駅とやらに」
「ってことで……!」
「ん?」
「今日は泊めてください!」
*
「……音を立てるなよ」
確かに、麗子はどこにも泊まる宛がない。僕は薄々気づいていた。だが、いきなり「今日家泊まる?」なんて聞くのは、もし気持ち悪がられたときのショックが大きい。「航一さん! 気持ち悪いです!」なんて言われたらたまったもんじゃない。なんせ、麗子は思ったことをすぐ口に出すのだから。そこで、彼女の方から切り出してくれて助かった。
だが、問題は僕は今帰省中ということだ。明後日に帰る定だが、それまでどうやって麗子をバレずにかくまろう。なんせ、麗子は居ないはずの人間なのだから、見つかったときの言い訳が非常にめんどくさい。僕でさえなかなか信じなかったのだから。とりあえず今晩は、僕用に用意されている、二階の和室で二人で寝ることにする。
「わかりました……ってうわあ! 虫! 虫!」
麗子は大声を出しながら、手をぶんぶん振り回した。
「しーっ!」
片手でガバっと麗子の口に手を当てる。「ん〜!」という声が漏れる。未来人というものは虫が苦手なのかな、それとも麗子だけかな。
「ここで待っとくんだ。後で窓開けるから」
「はい」
僕は「今帰った」と言いながら、玄関から家に入る。「ただいま」と言ってくれたのは、祖母だけで、他は寝ているのかも知れない。なんせ、時刻は既に十一時だった。麗子が待っているはずの、窓の前に行く。そこに麗子は、心細そうに体育座りをして、待っていた。表情はしょぼんでいても、目はぱっちりと開かれている。
「じゃあ、いこうか。余計な音を立てるなよ」
「はいっ」
そう言って、麗子はズカズカと家の中に入っていった。土足で。
「ちょっ、土足! 土足!」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
未来では土足が主流なのか。だが、たった二十年で文化が変わるとは思えない。これも、麗子自身の問題だろうか。
麗子の手を取り、階段へと向かう。今度は、麗子は大人しくしてくれていた。
「……ここだよ」
「はぁ……あの、言っておきますが……変なことしないでくださいね」
「なっ! するわけ無いじゃん!」
僕の顔は下心満載のように見えたのだろうか。確かに、あんなに可愛い女とひとつ屋根の下となれば、男として少しは興奮するが。だが、今の僕は、彼女をそういう対象として見てはいない。
「それはよかったです」
「君布団使っていいから」
「えっ、いいですよ……悪いですし」
「遠慮しなくていいから」
「私っ、人が寝た布団で寝たくないですっ」
「……」
また、ストレートに言ってくる。遠回しに言う事できるじゃん……。この際、「人」ではなく「航一さん」と、特定されなかっただけでもマシか。
「じゃあ、畳で寝るの?」
「はいっ。私どこでも寝れますよ」
「たしかにどこでも寝れそうだな」
「……何ですかっ」
麗子を少しからかった後、電気を消すと、僕はすぐに眠ってしまった。ありえない出来事過ぎて、逆に脳が処理を諦めている。これからのことは、考えたくない。寝ることだけに集中していた。その日は、夢を見なかった。
未来から来た迷える麗子さん 黒崎アテル @KurosakiAteru
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