Episode5
午後の授業が終わり、ようやく下校時刻となった。玲音に声をかけて一緒に下校するつもりだ。今は少し勇気が足りないから声をかけるのはまた後で…なんて思って帰り道にわくわくしながら帰る支度をしていると
「小林ー!!」
と自分の名を呼ぶ声がした。声の主は…担任だった。今日、玲音と帰ることはもうできないだろう…と諦めながら担任の方へ体を向けて
「なんですか?」
「ちょっといいか?」
と言い手招きされたので先生の隣に歩いて行く。
「なんの話ですか?」
「あ、いや、そんな話ってほどでもないんだけどね。どう?これから大丈夫そう?」
「あ、全然平気っす、むしろ福岡より楽しいかもしれないです。」
玲音っていう可愛い子もいるんで、と付け加えそうになる。段々と口角が上がってしまっているような気がする。
「そうか、なら良かった…や、やけに笑顔だけど、なんか嬉しいことでもあったのか?」
やばい、やっぱりだ。
「い、いやなんともないっす。」
「そうか…まぁ、なんかあったら気軽に相談してくれ。いくらでも乗ってやるから。」
「あ、ありがとうございます…」
「じゃ、気をつけて帰れよっ!」
軽く会釈をして自分の席へと戻り、荷物を持って教室をあとにした。
廊下に出て、階段を下って、下駄箱から自分の靴探してを出す。地面に軽く落としてそのまま履く。つま先で地面を蹴って位置を合わせ、歩き出す。
新鮮味の残る景色を見ながら駅へと向かう。すると、学校から10分ほどのところでの玲音のような姿が見えたような気がした。小走りでその姿に近づいてみるが、もう見えなくなってしまっていた。今日出会ったばかりだし、家事情はほとんどわからない。だが、一人暮らしと言っていたからきっとアパートとかに住んでいるのだろう。なんて考えてみたりもしたがもう姿が見えないことに変わりはない。
少しため息をついてまた歩き出した。改札をくぐって乗る方向をもう一度確認してホームへと入る。少し待って到着した車両に乗って二駅。
もう一度改札をくぐって、駅を出て少し歩く。
まだ落ち着かない自分の家に着いた。
「ただいまー」
「おかえりー」
リビングの方から姉貴と母さんの声が重なって響く。包丁で食材を切る音がする。母さんは調理中のようだ。
「学校どうだったー?」
と姉貴がスマホを見ながら話しかけてくる。
「んまぁ、よか感じだわ。」
「ふーん。あぁそう。可愛い子とかいなかったと?」
「そげなんどーでもよかやん。」
「その反応はいたってことやね!?どんな子!?一目惚れした!?」
「いーもう、おらんから!!」
「相談乗るよ?女の子?もしかして…男の子!?」
「はぁ…」
このまま話を続けても正直何にもならない。ただの腐女子は放っておくことにする。
飲み物を取りにキッチンへ向かう。
「母さん今日の夕飯なにー?」
「お好み焼きー」
「うぃーっ」
冷蔵庫から大好きなコーラを取って姉貴の隣に座る。
コーラを少し口に含んで口の中で転がす。やっぱり姉貴の言うように、玲音に一目惚れしているのは確かだ。でも、姉貴に頼って良かったと思った経験はほとんどないし、何ならちゃんと恋をしたのは今日が初めてかもしれない。
自分の力でちゃんとした恋をする。そう、決意し手に持っていたコーラを一気に飲んだ。姉は驚いていた。
朝が来なければ。 紬衣 @Sta_
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