3 呪う
「そういえば
「
「……塚が折れるってなんか縁起が悪そうですね」
「折れ曲がった塚の方がいいか?」
「……明らかに良くないです」
「そういえば、お前、源だけど出身地関門海峡とかじゃないんだな。」
「僕のは源氏と関係ない源さんだし、そもそも源氏って鎌倉に行ったんじゃないですか?」
「さあ?」
何故僕らが名字の話をしているのかというと、今回囮のターゲットになっているらしい人がちょっと珍しい名字だったからだ。
「花園さんって実際にいるんですね……。本の中だけだと思っていました」
「ちなみに本の中の花園さんは誰なんだ?」
「死神です」
「どんな本読んでんだ」
……
⦿
腕をかけて、足をかけて、体を支える。すべてあるべき場所にあるように。誰も壁を登る
「…さすがに鍵はかけてあるか。いや、もしかしたら…」
囮は古い窓をガタガタと揺らし始めた。すると、窓のクレセント錠が振動で下り始めた。完全に鍵が開くと、囮はガラガラと音を立てて窓を開けた。物が多い部屋だ。物に埋まるように、老女が座っていた。
「やあ、あなたが千枝さんだね?」
老女、千枝は囮を見た。囮は既に人に認知されるようになっている。
「俺は囮って言うんだ。千枝さん、あなたは嫌いな人がいるだろう?」
千枝は、ゆっくりと頷いた。
⦿
「ん-、こっちかな」
及さんは何かを覗き込みながらこの町の神社のほうを指差した。
「及さん、ターゲットがどこか、とかなんでわかるんですか?」
神社のほうに向かう及さんについていきながら尋ねた。及さんはすこし考えると、「それはまだ言えない」と言った。
「まぁ、超常パワーだと思っておけば遜色ない」
企業秘密みたいなことか。
「今回の標的は恐らく、花園千枝、63歳。この街の怪談は多分、丑の刻参り。」
「丑の刻参りって何ですか?」
「丑の刻、つまり午前2時頃に決められた日数決められたことをして呪う。わら人形に呪う相手の毛髪や写真などを入れて釘で御神木に打ちつけるものが多い。御神木に住む霊かなにかにこいつを呪ってください、とお願いして、霊がなにかが了承したら呪いが成就するって仕組みだ。」
わら人形が何かするわけではなかったのか。ずっと怒ったわら人形がほかの人に復讐するのかと思ってた。
「まあ、そう思っている人は多いらしいけどね。ちょっとでもオカルト好きな人はほとんど知っている。……神社、意外と遠いな」
……やっぱり神社に向かうのか。前回は学校だったのに、急に本格的になるんだ……。
「その前は新築の幽霊屋敷だったしな。ほとんどの場合、中身は壮絶でも表面はそうでもない」
そして、神社の目の前で及さんがピタッと足を止めた。目前には、怯んでしまうほどの量の階段があった。
「……まさか怪談ではなく、階段で足止めを食らうとは。思ってもみなかったな」
及さんは階段を登り始めた。
15分後くらいに、やっと僕も登り終わった。及さんは先に神社に着いていて、鳥居の前で待っていてくれた。
早速境内に入ろうとした、のだけれど。
まず及さんが弾かれた。
次に僕も弾かれた。
「……え?」
ゆっくりと手を伸ばしてみると、何かに押される感じがする。手を伸ばせば伸ばすほど、圧力が高まる。
及さんに至っては、なんか紫電が走ってるし。
「及さん、それ、痛くないんですか? なんかバチバチ言ってますし……」
「うん……、溜まりに溜まった静電気にやられる感じ。うっわ、手ぇ痺れてきた」
そこでさすがに及さんも手を伸ばすのを止めた。
「及さんはともかく、なんで僕も弾かれたんでしょうか」
「多分、その目じゃないか?お前の街の寺、あれ何も効果ないし。人が招き入れることで入れるようになるやつもあるしな」
確かに、今まで一人で行ったことはない。
「……どうしますか?」
「私とて、策の幾つかくらいあるさ」
「浄化結界」
及さんがそう唱えた瞬間、僕らの周りに二重に結界ができた。二重の結界の間が浄化されているらしい。別に1個でもいいんじゃないかと思ったけど、それだと浄化されると困る呪物等も浄化されてしまうらしい。
「この前の呪文より短いですね」
「あー、今のかなり端折ったからな。元々は遥か天空どうたらこうたら、禊ぎ祓い給えみたいな感じだったよ。この前のは端折れないやつ。ほら、わかったらさっさとわら人形探せ。結界切れたらどうなるか私にもわからない」
境内の木を順番に見ているのだけど、なかなかない。それでも境内が広くなくて助かった。社の裏辺りで、やっと木に打ち付けられたわら人形を見つけた。わら人形には、ちょっとどろどろしてそうな、暗い赤紫の糸が絡みついていて、それが神社の外に繋がっていた。
「これを抜いたらいいんですか?」
「いや。お前に跳ね返る可能性がある。やめておけ」
そういうと、及さんは懐から黒い傘を出して、僕に手渡した。
「……なんで傘が懐に入るんですか?」
「まぁ、イギリスの某乳母さんの鞄と似たようなものだ。ちょっと見られると困るから、これで隠しておいてくれ」
そう言って僕に傘を広げさせると、また懐からライター(!?)を出して、わら人形に火をつけた(!⁉)。
「えっ!?ちょっ、及さん!?何やってるんですか!?」
「見ればわかるだろう、燃やしている。この手のものには火が有効だ。……お前は真似するなよ?」
わら人形はたちまち燃え上がって、そして糸にも燃え移ったかと思うと、あっという間に糸の先へ燃え広がった。不思議なことに、御神木も、他の何物も燃えなかった。
「あの火って、どこに行ったんですか?」
「呪った人間のところだよ」
はっとして及さんのほうを見ると、及さんは暗い表情で、「人を呪わば穴二つ」と呟いた。
後で知ったことだけれど、その時間、とあるアパートで不審火があったそうだ。部屋の中に焼死体があり、しかし他に燃えたものはなかったそうだ。部屋の住人と連絡がつかないため、死んだのは住人だろうと推測される。窓の鍵は緩んでいて、誰でも侵入できる状態だったが、目撃情報はないらしい。
◎××村で発見された凍死体について
××村で発見された凍死体は、そのほとんどが劣悪な状態であった。
しかしながら、一体のみ、異様に状態の良いものがあった。
かの死体——村の名から、仮にFとする——は、××村唯一の生存者と手を繋ぐように死んでいた。
発見箇所は、山中の湖の上空である。
死因は、心臓を刃物で刺されたことによる失血性ショックであると見られる。
記録:■■ ■■
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