金魚鉢 

@ciel-amour

第1話


「ちょっと昔の話をしよう。」

祖父は語り出した。今僕たちの世界にないものの話を。


時は20xx年。AIが進化を遂げて何もかもがそれに動かされる世界になりつつあった。

僕らの今生きている時代とは違い、全てがAIに任されているわけではなく人間の作業だって当たり前にあった。ただ、楽を覚えた人間は貪欲になる。これよあれよとAIに頼るようになっていった。それに人口減少も止まらず働きての減った世界にはどうしても頼らざるを得なかった。進化のスピードは著しく、止まることを知らない。

AIの進化に対しては、反対派もいた。進化を遂げるAIを前に、人間がいかに退化しているかを反対派は訴えた。反対派がいたとしても今の世界が回っているのはAIのおかげだと大多数の人が思うしかなかった。


そんな中、世界中の言葉を習得しなくても翻訳してくれる技術が開発されて、思った通りに話せなかった場面でも話せるようになっていった。精度は上がり、いつしか外国語という概念も消えかけていった。外国語が話せる話せないは誰も心配せず、旅行も仕事もできるようになった。例えば、英語圏で日本語を話せば、勝手に翻訳して頭上に会話が現れるスクリーン式の翻訳機だ。当時これは大発明として、多くの人が求めた。グローバル化が進む世界には必要だった。言葉の壁がなくなったのだ。そのうち、脳内で考えた言葉をスクリーンに映し出す機能のついた翻訳機が誕生した。ただ脳内をすべて映すことはいろいろとリスキーだ。面白半分で買う人はいたが、元の翻訳機ほど売れやしない。しかしこれもまた、すぐに進化した。脳内で考えた言葉、心の中のどれをスクリーンに表示させたいか気持ちの問題も含めてしっかり読み取り、表示させる機能の開発に成功したのだ。言葉にしたいことのみを表示させられるということは口を動かさなくても、瞬時に思いをつげられるのだ。これがたくさんの人の未来を変える。その始まりだ。

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