第236話 ひらかれる誰かの扉

寝落ちした。変な夢だった。


モノクロームな古びた一枚の写真。左側はブロック塀でその内側に立派な木がある。雑草だらけの空き地を挟んでアパート。二階建てで錆びた鉄パイプな手すりの外階段。何故か洗濯機が扉の横に置かれている。一階の前にあるフェンスは道路側が一部壊れて外れている。誰か、いる。


改めて時間を見れば10時過ぎ。もう昼近い。

明後日の午前中には引っ越し屋が来る。


調べるとしても残り36時間ぐらい。実際には睡眠や片付けがあるから、ほとんどないに等しい。


寝ぼけた顔を洗おうと、鏡を覗く。

「鏡」は光の反射を利用して、顔や姿を映してみる道具であり、一面の真実を映す。どうやってみても、特徴のない顔が鏡の中で冷めた面してる。手を伸ばしても届かない。


所謂「カリスマ」と仕事をする。

その彼に何より近い距離にいる。そして残酷にも現状把握能力は、非常に高い。


音楽的才能もあり、かなり楽天的で、承認欲求というより我の強い性格なギタリストには酷くもどかしい日々だろう。


何せ「カリスマ」以外は代わりがいる。いくらでも。それがわかってしまうだけの能力がギタリストにあったのが、悲劇を引き起こした。


「カリスマ」自身がどう思っていたのかは、別として。


解散当時、ギタリストはまだ20代中頃。社会人として反抗期である。しかも1番、歳が下だ。たった1学年しか違わないのに、方やテレビデビュー、方やニートしていたのをヴォーカリストに拾ってもらう形でデビューしている。高校時代は張り合っていたバンド出身。


会社でも大卒で入社3年前後。仕事も覚え始めて色々と試したくなる時。先輩達の悪口なぞ、当たり前のように出るだろう。ましてやこの経歴だと心中はお察しする。


会社なら周りの大人や上司が受け止めればいいが「金のなる木」扱い、untouchableだとしたら、反発か受容を自分で選ぶしかない。第二新卒者の退社理由ヒアリング結果と似たようなものだ。ギタリストは拗らせた自尊心のコントロールに失敗したんだろう。


確かに「カリスマ」だけにしか行けない場所は、間違いなくあるのだろう。だが、それは「カリスマ」が本当に望んだ場所だったのか?


ざっくりとしたプロファイルが示すのは「明晰」「アンコントロール」。ヴォーカリストは「時流を読み切る」。


I stumbled when I saw.

Full oft ‘tis seen,

Our means secure us, and our mere defects

Prove our commodities.


このバンドの物語は、俺が生まれるよりずっと前の時間軸。分裂した「プロファイル」。目玉をくり抜かれて見えた大切なもの。


実際には「見えない顔」。

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