秋にまつわるあれこれ ~ひろ猫3~

そらいろ

第1話  かぼちゃ

「あれ食べたい!」

「だめです」

「なーんーでーーー」

「猫に生卵はだめ」

「むぅ」


 姫香が指差した先にあるのは、月見バーガーの広告。

 猫に生卵はだめ。玉ねぎもだめ。当然却下です。


 ぷくーと頬を膨らませる彼女も、さすがに尻尾と耳は仕舞ったままだ。交差点で耳を出さないだけの理性はあるらしい。とはいえ、このままむくれられるのも困るので、僕はゴキゲンナナメのお嬢さんをなんとかすることにした。


「そうだなぁ、月見バーガーはだめだけど、何か秋らしいものでも作るか」

「! わぁい!」


 急にるんるんになった姫香を連れて、スーパーマーケットに向かう。買うものは、かぼちゃ、牛乳、無塩バター、卵、生クリーム。それから、猫用ミルクと練乳も。ちゅーるを棚に戻して、鰹節をめぐって5分ほど攻防を繰り広げた後、小分けのパックで手を打った僕はようやくレジに向かった。


 バターって高いんだなぁ、なんて思いながら歩道を歩く。

「なにつくるの? シュン、ね、なに作るの? ねぇ?」

 わくわくを隠し切れない姫香をなだめつつ、家に向かった。

 揺れる尻尾はきっと出ていなかった、はず。




 家に戻った僕は、さっそく準備にとりかかる。

 かぼちゃは半分にして種とワタをスプーンで丁寧にとり除く。

 4分の1個を皮ごと薄切りにして、平皿に並べてラップをかけたらレンジで5分。火が通ったらミキサーでなめらかに潰して、鍋に移す。バターとミルクを加えてひと煮立ちさせ、塩コショウで味を整える。

 仕上げにパセリを散らせば、かぼちゃのポタージュのできあがり。


 つづいてもう一品。

 ゆで卵を作って皮をむく。かぼちゃは皮ごと一口大に切り、火を通す。軟らかくなったら鍋かボールに移し、ゆで卵を加えて木べらで荒く潰しながら混ぜる。黒コショウとマヨネーズで味を整えたら、かぼちゃサラダの完成だ。

 潰すのは姫香におまかせ。楽しいのかご機嫌である。

 こっそり味見をしていたのは見なかったことにしよう。


 だめ押しの3品目。

 かぼちゃは皮をむいて薄切りに。平皿に並べてレンジで加熱し、ミキサーでなめらかに潰す。ポタージュの時より念入りに。卵を泡だて器でしっかり混ぜる。甘味は練乳を使うことにした。卵液と生クリーム半分、かぼちゃのペーストを合わせてさらに混ぜ、ざるでこす。ここで諦めないこと。蒸し器の準備をして、小さめの型4つにバターを塗り、生地を流し込む。入れすぎないように気をつけて、ゆっくり、ゆっくり。蒸し器にセットしたら、あとは祈るだけ。

 蒸しあがったら冷蔵庫で冷やしておく。

 冷やす間に残りの生クリームに練乳を加えて泡立てる。こっちはトッピング用だ。

 お好みでホイップクリームとミントを添えて、かぼちゃプリンのできあがり。



 かぼちゃをまるごと使い切って、大満足のボリュームになった。

 生のままで刻んだので、明日は筋肉痛になりそうだ。レンジで少し軟らかくしてから切っても良かったなぁと少し後悔した。

 潰すのと混ぜるのはほとんど姫香がやったので、僕は味付けがメインになった。作るのも楽しかったらしく、ご満悦だ。抑えきれなかった耳と尻尾がいそがしく揺れている。


「美味しい!」


 それはなにより。揺れる尻尾に思わず笑みがこぼれた。はじめてにしては、かなり美味しくできた方だろう。

 余った生クリームで作ったウインナー珈琲を口に運ぶ。


「熱っ」


生クリームの奥から熱々の珈琲が僕を襲う。


「あ、それ私も飲みたい」

「珈琲はだめです」

「むぅ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秋にまつわるあれこれ ~ひろ猫3~ そらいろ @colorOFsky

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ