第25話 笑かしたらアカン

 はい、前回の続きです。前回は男子高校生に「しんぺいちゃん」で腹筋崩壊させられた話でしたが、ひょんなことで自分がその男子高校生の立場になってしまうこともあります。


 90年代ですかね、秋田新幹線の計画が持ち上がってました。そんなに興味はなかったんですけど、電車の吊り広告で秋田新幹線の愛称が「こまち」に決定したことを知ったんです。

 その日は友人とどこかに出かけていたんですね、山手線の中で見たんです。たまたま電車の中にはサラリーマンらしき人がいっぱい。と言っても昼間だったんでそんなに混んでない。

 友人が「そういえば如月って昔秋田に住んでたんだよね」と言い出したんです。

「うんそうだよ、でももう全部忘れたけどね。なんで?」

「いや、ほらそこに秋田新幹線の愛称が『こまち』に決定したって書いてあるから」

「まあ、秋田美人のこと『秋田小町』って言うしね」

「秋田って他に何も無くない?」

 おっ? こいつは秋田県民に喧嘩売ったな?

 当時の私は横浜市民ですけど、元秋田県民としては聞き捨てならないセリフです。

「待て待て、他にもいろいろある。っていうか私個人の感想だけ言わせて貰えば、『秋田新幹線・なまはげ』の方がいいと思う」

 その瞬間、目の前に座って新聞読んでいたおじさんが「ブッ」って噴いたの。直後にエヘンって咳払いで誤魔化してたんだけど、肩が震えてんの。

 ああ、なまはげはダメかなと思ったけど、このモードに入った如月はいろいろ設定が止まらない。

「蓑着て赤鬼のお面をかぶった売り子が包丁振り上げながら『アイスは要らねがー』『べんどっこ(弁当)要らねがー』ってワゴン押して来たら如何にも秋田って感じじゃん」(※1)

 目の前のおじさんの両隣のおじさんも笑いだしました。今ビジュアル想像したよね?

「そんで蓑着てJRの帽子被った青鬼が『ご乗車ありがとうございます。乗車券と特急券を拝見します』って白手袋差し出して来たら、なんか『お疲れ様です』って言いたくなるじゃん」(※2)

 もう如月の周りの人たちがみんな肩震わせてるんです。みんな想像力豊か過ぎるし。

「アナウンスとか秋田弁でやられたら全然わかんなそう。そこは標準語かな」と友人。

「ご乗車ありがとうございます。この新幹線は秋田新幹線なまはげ、秋田行きです。次の停車駅は大曲、大曲です……みたいな?」

「大曲ってどこよ」

 さすがにこれ以上は他の乗客の皆さんの迷惑になると思って声を潜めます。

「大曲知らんの?」

「知らん。秋田新幹線きりたんぽでも良くない?」

 はぁ。こいつはセンスがありませんね。

「きりたんぽって、それならまだ秋田新幹線ハタハタとか秋田新幹線まげわっぱとかの方がマニアックかも」

「いや知らんし。ってゆーか、ハタハタって何?」

「魚の名前じゃん。ハタハタの卵がブリコ」

 すっごい小声だったのに前のおじさんめっちゃ笑ってる。もしかして秋田出身? 凄い聞き耳立ててるし。

「待って詳しすぎるって」

「まだ竿灯かんとう出さなかっただけマシじゃん」

「カントウ? 秋田は東北じゃないの?」

「ちゃうって、竿灯まつり知らんの?」

「如月が秋田詳しすぎだろ」

「住んでたし! 一年だけど」

 そのままずっと降りるまで秋田県の話で盛り上がりました。おじさんはずっと笑っていたので、私たちが降りたあと気まずかったんじゃないかなぁ。


 あ、因みに如月は14歳です。



※1:当時はワゴンに弁当やお茶やアイスなどを積んで、売り子さんが車内販売のためにずっと動き回ってました。今はモバイル注文だけど、当時は携帯電話もそんなに普及してなかったからね。

※2:今はなくなってるかもですけど、社内を車掌さんが回って来て、乗車券を確認してました。

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