第24話 笑ろたらアカン
ちょっと若い人にはわからないネタかもしれませんが、昔「ママとあそぼうピンポンパン」という幼児番組があったんですよ。
確かフジテレビでね、NHKに対抗してお兄さんとお姉さんが司会進行するの。カッパのカータン(被り物)ってキャラもいたし、新平ちゃんというちょっとおじさんぽい人もいたんです。
お兄さんもお姉さんも大きなボンボンの付いた帽子をかぶって、お姉さんは超ミニのサロペットパンツを履いてるんですけど、胸当てのところに太陽のマークが入ってる。
♪ずんずんずんずん ずんずんずんずん ぴーんぽーんぱぽーん
っていう歌と、
♪がんばらなっくっちゃー がんばらなっくっちゃ がんばらなくーちゃー
っていう歌を覚えてるんだけど、同じ歌かもしれない。
番組の終わりに、背後にある「おもちゃの木」という大木の洞に入ってるおもちゃを、その日に出演した子供たちが取りに行くのを見て、凄く羨ましかったんだけど、それは東京の子でないとできないんだろうなとか思ってた秋田県民でした(そうだ、あのころは秋田県湯沢市ウラマチというところに住んでいた、まだあるのかなウラマチ)。
随分遠回りしましたが、その番組に出ていたしんぺいちゃん。おっさんというより「おじ兄ちゃん」くらいの歳で、立ち位置的には「水戸黄門」で言うところの「うっかり八兵衛」みたいな感じだったんですね。三枚目キャラというか。
その名前、すっかり忘れていたんですよ。そりゃー忘れますよね、十五年もピンポンパンから離れてたんですから。
十代末のころ、唐突にその名前に再会したんです。それもバスの中で!
そのとき私、新潟県新潟市に住んでたんですよ。友達とシェアハウスして。忘れもしないクリスマスイブの日でした。
せっかくのイブですからね、ケーキを買ったんです。ダイエーで。それを持ってバスに乗ろうとしたら……バスがありえないほど混んでたんです。朝の田園都市線溝の口駅くらい混んでたの。過疎地域の人のために補足すると、カバンの手を離しても堕ちないくらいぎゅうぎゅうに人がいるって感じ。(田園都市線はもっとすごくてあばら骨がミシミシいう)。
こんなのに乗ったらケーキ潰れるから! って思ったんだけど、そこは頑張って頭の上の方に持って乗ったんです。絶対に痴漢俺じゃねーからなって状態です。
よく見るとそんな状態の人が何人もいる。みんなダイエーでケーキかったんですね、同じケーキ箱持ってるからね。
そんな状態の中で近くにいた高校生らしき男子二人が唐突にピンポンパンの話を始めたんです。頭上にケーキ箱を掲げてぎゅうぎゅうのバスの中、隣の人になるべく寄っかからないようにしなくちゃって極限状態でピンポンパンですよ。笑うやん。
ところが私と背中合わせの人のツボに入っちゃったらしくて必死に笑いをこらえてるんです。くっついた背中が震えてんの。それも笑いの震えね。
そういうのって伝染するんですよね。その横の人にもうつっちゃって、二人で震え始めて、こっちはもう「やめてくれ、うつる!」と思いながら心を無にするわけですよ。
そんな時に、例の男子高校生が追い打ちをかけるんだ。
「カッパのカータンっていたよな」
やめろ! マジやめろ! 死ぬ! 笑い死ぬ、ってか我慢して死ぬ!
私の周りがみんな震え出したんです。やめてマジで、こっちはケーキ持ってんだよ。かなり極限状態なんだよ。ついつい顔がニヤけちゃうんで、俯きつつのケーキは死守です。
ところが、黙っていて欲しい奴ほどよく喋る。
「しんぺいちゃんって覚えてる?」
あああ、反則技を! と思う間もなくあちこちからクスクス笑いが。
あのバスに乗り合わせた人はみんな地獄を見たんじゃないかと思います。ええ、ほんとうにしんどかった。
因みにケーキは死守しました。
自分が誰かを笑わせてるってなかなか気づけないものなんですかね。
ところが、まさかの逆パターンになってしまった場合もあるのです。
to be continued……
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