第19話 やっと退院だ

 しつこく続きます。が、これで終わりです。


 一般病棟に移って最初に言われたこと。

「たくさん水分摂っていっぱい歩いてください」

 じっとしてると切ったとこが癒着して、あとがたいへんなんだそうです。理屈はわかりませんが。痛くてもとにかく動き回るべし、ということらしいです。


 超真面目な如月は、さっそく院内散歩を始めました。

 といっても、自分の歩く振動が痛いんです。そこはもう野村萬斎になったつもりで頭を平らにして歩きます。昔ちょびっとだけ日本舞踊やりましたんでね。

 一分間に十メートルくらいしか進めません。同じフロアを一周して来るだけでも三十分くらいかかります。


 ところが!

 入院しているお婆ちゃんに声をかけられたんです。話しているうちにわかった衝撃的な事実。お婆ちゃんは私と同じ日に(私のあとに)全く同じ手術をしたらしいのです。

 それなのに彼女は全然痛くないという。普通にすたすた歩いてる! 私が彼女くらいすたすた歩けるようになったのは、退院してから十日経ってからですよ。何なのそれ。


 さらに気づいたのが、病棟内で真面目に散歩してる人なんか誰もいない。だけど、来る看護師さん来る看護師さん、みんなが「散歩しろ」という。しまいには模範患者とまで言われる。それなのにいつまでも私だけが痛い。

 まあ、歳をとると痛みに鈍感になるっていうし、お婆ちゃんは80代だと言ってたし、14歳のよしみんにはわからない世界だけど。


 部屋に戻っても、ベッドに横になるのに五分くらいかかるんですね。ベッドに乗るだけで一分。もちろんパラマウントベッドに助けてもらいます。ゆっくりベッドを倒し、膝のとこ上げて手元に堂場瞬一置いて、やっと読書タイム……あああ、本に手が届かない! あと10センチなのに!

 仕方ないのでもう一度ベッドに起こして貰います。ベッドの柵を掴んで腕力だけでお上半身を動かし(腹筋使えないんだからしょうがない)何とか堂場瞬一を手に取ります。

 再びゆっくりベッドを倒し、膝のとこ上げて、やっと読書タイムです。本を開いてしおりを外して……ん? なんか薄暗いな。

 あああああ、枕元の灯り点けるの忘れてたー。しかもスイッチ届かないー。もう一度頑張ってベッド降りるかー。めんどくせええええええ!

 

 やっとこさっとこ灯りを点けて、再びパラマウントベッドに助けて貰ってもう一度本を片手にひっくり返るんですが、そこに間の悪いことに検温タイムが来るわけで。

「あー、戻ってたね。血圧とお熱測りましょうか」

「起きた方がいい?」

「そのままで大丈夫ですよー」

 看護師さんは優しいです。


 考えてみりゃー、病気してなければ病院って素晴らしいところなんですよね。

 揚げ膳据え膳三食昼寝シャワー読書タイム付きです。これでどこもしんどくなければ最高なんですけどね。基本、しんどいから病院は行くのであって……。


 家に帰ってからは大変でした。パラマウントベッド無いので、起き上がるのに誰も助けてくれません。横向いてから腕突っ張って起き上がろうと思うんですが、横向けないんです。寝返りが打てない。首の座らない乳児かよ!

 ご飯はさすがに入院前に非常食をたくさん準備しておいたので、作れなくてもそんなに困りませんでした。下準備は大切ですね。


 退院して十日経ってやっと自転車乗れるようになりました。揚げ膳据え膳三食昼寝シャワー読書タイム付きはとても良かったですけども……もう入院しなくていいよー。(まあ、6回目なんだけどね)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る